経済広報

『経済広報』(2020年6月号)掲載
特集 パンデミックと危機管理広報
新型コロナウイルス感染症と企業の広報対応
畑山 純

畑山 純(はたやま じゅん)
(株)エイレックス 危機管理広報コンサルティング部長

 帝国データバンクが4月20日に発表した上場企業における新型コロナウイルスの影響に関する調査では、全上場企業(3778社)のうち、自社や関連会社などで従業員の感染が判明し、公表した企業は278社に上っている。当社には、都内で初めて感染者が出た1月下旬以降、「従業員が感染した場合に公表は必要か?」「何を公表したらいいのか?」といった相談が相次いだ。これは政府や自治体が当初、「企業側からの公表は不要」とのスタンスだったため、企業の広報担当者の多くが判断に迷ったためと思われる。
 この問題が収束するにはまだ時間がかかると考えられるため、この機会に、改めてパンデミックリスクが発生した場合の広報対応のポイントについてまとめてみたい。

行政の情報開示スタンス

 感染者が発生した場合、自治体が発表する内容は、多少の差はあるものの、おおむね感染者の年代、性別、居住地、職業、行動歴などに限られ、個人の特定に結び付きそうな情報は原則非公表が徹底されていた。このため、多くの場合、感染者の勤務先や施設名が公表されることも、企業側に公表を要請することもなかったようだ。
 ただし、このようなプライバシー重視の方針については、見直すべきとの論調も3月中旬ごろから浮上し、自治体によって情報開示のスタンスに若干の差は出てきたといえる。

公表するか否かを企業が判断しなければならない2つのケース

 そのような中、企業側が自ら公表するかどうかを判断しなければならないケースとしては、2つのパターンがあった。
  1. ①オフィス、工場、店舗など自社施設の従業員(雇用形態にかかわらず、その施設で働いている人)が感染し、企業名や施設名が高い関心を持たれている場合
  2. ②不特定多数が利用する自社施設(スポーツジムや小売店など)の利用者の中から感染者が発生したが、自治体は施設名を公表せず、憶測や風評の広がりが懸念される場合
 ライブハウス、病院、介護施設など、クラスター発生が認められたケースは、多くの自治体が店名や施設名を公表した。自治体側が店・施設などの固有名を公表した場合、それに合わせて店や施設を所有・運営する企業側も、事実を公表することになる。
 またクラスター化していなくても、スポーツジムなど感染者の利用頻度や滞在時間が長い施設においては、企業が自主的に公表したケースが存在する。一方、不特定多数が訪れる店・施設でも、食品スーパーなどの小売店では公表する企業は少ない。これは感染者の滞在時間が比較的短いことや感染者が自社の従業員ではないため、公表の必要性が低いと判断されているためと考えられる。
 対応上、難しい判断が求められるのは主に①のケース、クラスターの危険性は低いが、パブリックの高い関心に直面した場合である。

感染者発生をいかに公表すべきか

 今回の新型コロナウイルス感染で、企業による自発的な感染者公表の流れを作ることになった事例が2つある。ひとつは2月14日、大手システム会社が公表したリリースだ。公表に踏み切ったきっかけはSNSとネット掲示板への書き込みである。
 このケースでは、感染者本人と思われる人物がネット掲示板に「自分は感染した」などと書き込み、そこから勤務先の特定がネットユーザーの大きな関心事となる一方、同社が入居するビルで感染者が発生しビルが封鎖されたとTwitterに書き込まれた。この2つの情報が関連付けられた結果、ネット上で「この大手システム会社で感染者発生」とのうわさが広がり、大きな騒動になった。当該企業は世の中の関心を受け、自らの情報開示に迫られたと考えられる。
 もうひとつの事例は、鉄道会社の駅員が感染したケースである。駅員の感染確認の当日、自治体は会見で感染の事実までは発表したが、個人のプライバシーに配慮し、駅員とは公表しなかった。しかし、翌日夜には、感染者の発生を知らせる同社の社内メールなどがネット掲示板に投稿された。翌々日に自治体は再度会見し、感染者が鉄道会社の駅員であると公表せざるを得なくなった。
 感染した駅員は内勤社員で、不特定多数との接触は少ないことから自ら公表しなかった鉄道会社の対応について、一部メディアは「駅員感染、2日前把握も公表せず」と批判的な見出しで報じた。
 これらの事例のように、自治体が企業名を公表しない場合でも、社内外から情報が漏れ、ネット上で拡散した結果、企業が対応せざるを得なくなったケースが見られる。これは新型コロナウイルス感染の問題に限らず、例えば顧客と取り決めた品質基準が守られていなかったことが発覚し、法令違反ではないものの公表し謝罪した問題なども同様だ。会社として公表を躊躇(ちゅうちょ)しているうちに、ネットの書き込みをきっかけに問題が表沙汰になり、「公表していない。隠そうとしている」などと批判を浴びるケースが増えている。
 今回の新型コロナウイルス感染でも、感染者がまだ少数の時期は、感染者個人の情報に多くの人の関心が向かい、隠そうとすればするほどネット上でうわさが拡散する可能性があった。この局面では、企業としても、感染者発生を直ちに公表して、注意喚起する役割・責任があったと考えられる。
 これに対し、3月下旬以降は経路不明の市中感染率が上がり、誰が感染してもおかしくない状況になったため、感染したこと自体は責められない空気へと変化した。当初に比べれば、企業に対し感染者公表を求めるパブリックの視線は厳しくなくなった、と見ることもできよう。しかし、個人情報やプライバシーを盾に、公表を拒むような場合は、社会的な批判は免れない。例えば4月上旬、SNSの書き込みがきっかけで、感染者発生を公表していないことが発覚した家電量販店のケースでは、隠蔽(いんぺい)を疑う声がネットを中心に広がった。特に不特定多数が利用する施設で感染者が出た場合は、依然として公表しないリスクは高い状況にある。

公表するべき内容と方法

 公表する際に必要な情報は、①感染者の情報と②感染発覚後の企業の対応の2つだ。企業によっては、自社の取り組みを記載する場合もある。
①感染者の情報
 感染者発生を公表する際には、社員個人を特定されないようにすることと個人のプライバシーに十分配慮することが必要となる。当社がクライアント企業の従業員の感染公表をサポートした際、保健所から強く言われたのはこの点だ。これに関連して、本人や家族に対しても「個人を特定されない形で開示しますので、ご了承ください」と同意を取っておくほうがベターである。どの程度情報を開示するかは企業によって様々だが、自治体の発表内容を基本に、感染者の年代、性別、勤務する施設名、感染が確認されるまでの経緯、現在の容態などを記載したほうがいいだろう。最終出社日や濃厚接触者が他にいたかどうかも必要といえる。
②感染発覚後に企業がとった対応
 まず、保健所の指導に基づき、濃厚接触者の特定や消毒作業を行った事実を記載し、続いて、施設の営業を継続するのか、一時閉鎖するのか、また、従業員を自宅待機とするのかなど、今後の対応を記載する。今回、多くのケースに対応して感じたことだが、保健所は営業を続けると感染の可能性があると判断するような場合を除き、店舗を閉鎖すべきなどの指示はしない。いつから営業を再開するのかなどは、企業自らの判断が必要になる。
③発表のフォーマットは自社ホームページでオーケー
 感染者情報は以上の情報を簡潔に発表文にまとめ、クラスター感染でない限り、自社ホームページに掲載する方法で問題はない。必ずしも記者クラブやマスコミ各社にプレスリリースとして配布したり、ニュース扱いにしたりする必要はなく、お知らせとしての掲載で十分である。ただ、日頃から付き合いのある記者にはメールなどで知らせたほうがメディアリレーションの観点からはお勧めと言える。

その他の留意点

①保健所への事前の情報共有
 多くの保健所がとっていた基本スタンスは、「御社から発表の必要はありませんが、発表する判断であれば、保健所は妨げません。ただし、公表内容は事前にお知らせください」というものであった。一方、クラスター感染などで自治体が店・施設の固有名を公表する場合には、発表内容の事前共有を、企業側から自治体に要請すべきである。
②関係各所への連絡・報告
 従業員に対しては感染者が発生した事実、今後の対応や感染防止対策の再徹底などの方針を知らせる。また、感染者と接触した可能性のある社外の取引先などへの連絡も必要になる。
 自社ビルに入居していない場合は、ビルの管理会社への連絡も必要だ。連絡を受けた管理会社は、企業名を伏せた上でビル内で感染者が発生したことを他のテナントに知らせるのが一般的だ。
③役員が感染した場合の対応
 仮に、代表権を持つような経営トップが感染した場合には、会長や社長であることが分かる形で公表するほうが、混乱が少なくなると考える。いずれは明らかになる情報であると考えられ、株主をはじめとするステークホルダーにとって、トップの健康状態、その経営への影響は大きな関心事だからである。「役員」とぼやかして発表したとしても、それがトップか否かはメディアから100%質問されると考えるべきだ。

「withコロナ時代」に企業の広報活動はどう変わるか

 最後に、新型コロナウイルスの感染拡大、さらに今後コロナと付き合っていく社会における、企業の広報活動の変化について少し考えてみたい。
①オンライン会見のメリット・デメリット
 最も変化が想定されるのは、メディアリレーションの部分だろう。従来のように記者に直接会って、あるいは記者を集めて、広報対応することはなかなか困難になるだろう。リアルな記者会見やイベントは、3月以降、ほぼ延期・中止になった。半面、記者会見や発表会をオンラインで開催する企業は増えている。会見に出席する記者からするとZoomやMicrosoft Teams、Webexなど、企業側が使用するアプリが多様なため、接続するまでに時間がかかったり、質問がしづらかったりといったデメリットがある一方、移動時間がないため、会見が続いても出席できるといったメリットもあるようだ。
 IT業界を中心に取材、執筆を行うフリージャーナリストの大河原克行氏は、執筆した記事の中で、「記者から見たオンライン会見に対する要望」(「『新型コロナのある社会』に適応しつつある『記者会見』の現場事情、『増えるオンライン会見』で変わるものとは?」、INTERNET Watch、2020年3月13日)として、次のことを挙げており、参考にしたい。
・ リアルでの会見は、基本的に1時間の設定が多いが、オンライン会見は、場所を移動せず、次の会見に参加できるため、00分からスタートして、50分で終わると記者も準備の時間ができる。
・ オンライン会見の参加用URLは、できれば会見の開催通知段階で入手できたほうがよい。
・ 会見開始10分前には、音楽を流すなど、音声チェックが可能な環境があるとよい。
・ 厳密な開示時間が設定されない案件では、会見開始前に資料が配布されると、開始後に資料をダウンロードせずに済み、会見中の説明の理解が進むメリットがある。
②オンラインの謝罪会見は記者に受け入れられるか
 オンライン会見は企業・メディア双方にメリットがあるため、新型コロナの問題が終息した後も、企業の発表手法のひとつとして、引き続き活用されていくことが考えられるが、不祥事が起きた際の記者会見についてはどうだろうか。
 この点については4月下旬、電話会見で検査不正を公表した企業がある。緊急事態宣言下の状況を考えると、記者を誘致しての会見は難しい選択だったはずで、オンライン会見も致し方ない面がある。
 しかし、オンライン会見は、質問や回答の微妙なニュアンスが伝わりづらかったり、登壇者の表情やその場の状況に合わせての質問が難しかったり、記者側にとってのやりにくさ(デメリット)が存在する。企業側が事前に質問を集め、自分たちの答えやすい質問だけに回答することも可能になる。都合の悪い質問を受けないためにオンライン会見にしたのではないか、との疑いが堆積すれば、記者たちはリアルの会見にこだわるだろう。
 withコロナ時代に、オンラインでの謝罪会見が一般化するかどうかは、記者にデメリットを感じさせない企業側の情報開示姿勢にかかっている。
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