経済広報

『経済広報』(2020年7月号)掲載
特集 Withコロナと危機管理広報
コロナ問題で見えてきた働き方改革の今後
小室淑恵

小室 淑恵(こむろ よしえ)
(株)ワーク・ライフバランス 社長

働き方を筋肉質に。第2波にも耐え得る組織へ

 私は14年前、長男を出産して3週間後にワーク・ライフバランスを起業した。生後3週間の赤ちゃんを抱えていたので必然的にテレワークが中心に。長男が14歳になった今、私もテレワーク歴が14年ということになる。仕事は一日8時間一本勝負で終え、全員残業ゼロと有給取得100%を実践しながら1000社に働き方改革コンサルティングを提供してきた。
 さて今回、新型コロナで日本中の働き方が様変わりし、テレワークに強い抵抗感を示していた企業までもが一斉に導入した。こうして日本は「コロナによって働き方改革を加速することができた」という見方もあるだろう。しかし実態は「出勤しないとできない仕事だらけ」であることを突き付けられた形だろう。全員出社しなくても仕事が回る仕組みを構築し、無駄のない筋肉質な組織にしておかなければ第2波が来た時には耐えられない。

経営が変革を指示すべき7つのポイント

 第2波・第3波を視野に入れて、具体的な組織変革の指示を出せるかが今、経営に問われている。まず、従来の経営にあった無駄を直視することだ。余裕があったころの商習慣が、いかに労力と時間とコストを毎日無駄遣いしてきたか、コロナ自粛の2カ月間で、全てのことを一時的に中断したことで気付いたはずだ。
 7つの例を見てみよう。
1: 全社員を仕事開始前にわざわざ満員電車の通勤でぐったり疲れさせて生産性を下げていた。 
2: 育児や介護事情がある社員は時短勤務になっていた。 
3: いつも会議室不足。会議時間よりも会議室探しの時間が長い。
4: 「押印」という商習慣のために出社し、大量の郵送業務をする事務社員。
5: 毎期ごとに、引っ越し代と手当のコストを負担しての大異動・大転勤。
6: 偉い人の「見やすさ」のための資料プリントアウト。配布。直前に発生する差し替え。 
7: 膨大な交通費と移動時間をかけて、一堂に会する「全国支店長会議」と宴会。
 ただでさえ労働力人口が足りないのに、わざわざこれらの商習慣によって生産性を落としていたことは大きな損失であり、この機会に正式な見直しの指示を明確に出すべきだろう。
 1:通勤については、3密を避けるためにも、全員が出社するスタイルは見直すべきだ。1000人規模の企業で毎日の出社する人数を全体の3割に抑えればそれだけで利益が約1億円増える。その分、顧客と接点を持つ時間が増える上、何より疲弊せずに集中力高く業務を開始できるだろう。
 2:育児や介護中の社員は、お迎えに間に合うよう16時半までの時短勤務などになっていた。本人は働く意欲も能力もありながら、「出勤して仕事をしなくては認められない」というルールの中で、仕事に充てられない時間があった。在宅勤務ができるだけで、年間約480時間/人の労働時間を増やすことになる。これは実にフルタイム3カ月分の勤務に当たる。今回は保育園も閉園になっている中でのテレワークで、仕事にならなかった子育て家庭も多いが、これはイレギュラーだ。通常のテレワークはあくまでも子どもは保育園に預けた上で集中して業務を行う環境を整えるのだから、在宅でもなんら遜色ない成果が出せるだろう。こうした議論の際によく出てくるのが「短時間勤務の女性には主に事務仕事を担ってもらっていることが多いので、やはり出社してもらわないと、押印・郵送・電話対応といった業務が滞ってしまう」という声だが、業務そのものを見直すべきだ。日本の高い教育を受けた人材を、もっと創造性の高い仕事で活用するためにも、押印はクラウドサインなどの電子署名システムに代替を急ぐべきだろう。デジタル化を例外なく検討し、挑戦していくことによって、日本全体で今まで活用しきれていなかった社会の潜在労働力(育児者・介護者・障がいのある方など)が最大限活用できるようになるはずだ。
 3:社内の会議こそ、全面的にウェブに切り替えても何も問題は起きないだろう。社外との会議は「わざわざ大勢で出向いた」ことで熱意を表現し、「同じ空間でひざを突き合わせて何時間も議論した」というアリバイづくりの会議が多い。発注サイドが受注サイドを呼びつけることによって、権威を表現するようなケースも特に建設業界などでは非常に多い。しかし今回どんな取引先とも一時的にウェブや電話会議が許されたはずだ。これを元に戻さないように、取引先に「3密を避けるためにもウェブ会議を定着させましょう」と働き掛けることが重要だ。
 4:日本CFO協会の調査によると、コロナ自粛期間中に出社した理由の1位は「請求書や押印手続き、印刷など紙データの処理」だった。こうした中、メルカリでは、「取引先との契約締結時に必要な捺印および署名手続きを、電子署名サービスでの契約締結に切り替えていく方針」と4月8日にプレスリリースした。経営が指示を出さなければ、社員は押印のためだけに出社しようとする。まず社内的な資料の押印はすぐ廃止し、取引先にも電子署名の許容を掛け合っていくべきだろう。
 5:多すぎる異動・転勤、6:紙資料、7:全国の役職者を集めた会議と宴会、これらは言わずもがなだろう。
 これまでも、それぞれ「無駄だ」「変えたい」と思っていても取引先や上司がうんと言わないために変えられなかったことが山ほどあった。しかし今回はパワーが強い側も弱い側も一気に変わらないといけない、つまり千載一遇のチャンスだ。いっせーのせで一緒に変わる、このタイミングに飛び移らなければ20世紀の遺物企業となるだろう。

テレワークでカギとなるのは社員の「時間自律性」と「チームの連携」

 今回、緊急事態宣言で急なテレワークを開始した多くの企業から相談を受けたのが「メンバーの仕事が見えなくなってしまった」という声だ。また、在宅でも社員が時間に自律的に仕事を進める力があるかどうかでテレワークの生産性は大きく異なる。こうした課題を解決する策として、わが社が創業時から実践している「朝メール」という手法を参考にしてみてほしい。「朝メール」は各メンバーが業務開始時に、30分単位で自分の一日の仕事戦略を立てて入力し、朝の一言コメントを記入することで朝礼のようなコミュニケーションを取る仕組みである。強制的に管理するのではなく、あくまでも社員が自律的に予定を組み立てて発信することが重要だ。これに対してコメント機能を使い、管理職が「今日はA社へのプレゼン資料作りなんだね、頑張って。午後2時以降ならば確認やアドバイスができるよ」といったコメントをすることで、社員は場所が離れていても仕事への承認欲求が満たされ、より高いモチベーションで業務にあたることができる。また、チームメンバー間でも、お互いの業務が朝一番で見える化されているため、同じ業務を重複して作業してしまったり、お見合いになってボールが落ちたりすることもない。
 自分や子どもの体調についても朝メールで共有するとよい。「もしかしたらヘルプが必要になるかもしれない」とチームメンバーは心の準備ができ、結果としてスムーズに助け合える。こうした朝一番の業務共有と、コミュニケーションが在宅でもチームの連携を高める。
 一日の業務を終える際には「夜メール」と呼ばれる報告も入力する。予定通りいかなかった箇所を修正して、実績を登録し、今日の仕事を通じてどんな学びや成果があったのかを振り返る。上司から注意されるよりも、自ら振り返ることが発見と成長につながる。
 こうした仕組みを取り入れ、テレワークによる孤独感を解消し助け合えれば、チームの一員の意識を強く持って、生産性の高い働き方ができる。


時間当たりの生産性が高いのか低いのかが見える

 今までの評価は、実は雰囲気に左右されていた。「あの人は時短勤務だから」と低い評価がつき、時間に制限のない社員は夜遅くまで疲れた感じでパソコンに向かって仕事をしている様子が頻繁に上司の目に入ることで「あいつは頑張ってるな」と高めの評価がつく。視覚から入ってくる情報に人は一番左右されやすい。しかし今回のように上司も含めて全員が一斉に在宅となると、そうした視覚情報は入ってこなくなるので「遅い時間まで頑張ってる感」よりも、上司が催促する前に「自律的に仕事を組み立てて計画的に仕事を始めていること」と、「今日の成果を見える化して仕事を終えていること」が上司にとって重要な情報になる。傾向として普段から残業の多い社員ほど、朝と夜の発信は苦手で、戦略を立てて発信する前にバタバタと仕事を始め、疲れて集中力が低くなってから仕事を終えるので報告も書かずじまいになる。その結果「あいつは何をしているのか」と評価が逆転することも出てくる。
 この新しい日常は、マイノリティにとっては、やっと働きやすい社会になった、とも言える。多様な人材が、今までよりもより積極的に社会に参画できるように、このタイミングを決して逃さずに変革を加速させてほしい。
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