経済広報

『経済広報』(2020年7月号)掲載
特集 Withコロナと危機管理広報
コロナ時代のトップコミュニケーション
岡本純子

岡本 純子(おかもと じゅんこ)
(株)グローコム 社長/コミュニケーションストラテジスト

問われるリーダーの真価

 新型コロナウイルスという未知の脅威との対峙(たいじ)という大きな試練にあって、リーダーの真価が問われている。この人類の危機に、国、地方自治体、そして企業リーダーの責任は非常に重いが、戦略的なリスクコミュニケーションを展開している海外のリーダーたちと比べると、日本にはそのノウハウがまだまだ浸透していないように見える。
 危機的状況においては「ラリー・ザ・フラッグ効果」(Rally 'round the flag effect=旗の下に集う効果)という現象によって、リーダーへの支持率が上がるといわれている。極度の不安に陥った国民は、リーダーや政権に自分たちを守ってくれる役割を期待するため、団結や連帯のシンボルとして存在感が高まるからだ。
 多くの海外各国の状況は日本よりもはるかにひどいが、ほとんどの指導者はみな、10~40ポイントと大きく支持率を上げており、下げているのは日本とブラジルのみ。ドイツのメルケル首相、ニュージーランドのアーダーン首相など多くの女性リーダーが徹底した感染防止対策とコミュニケーション戦略で成功を収めているのも話題となっている。日本政府に対する評価はその対策が後手後手であったことに対する批判でもあるが、政権としてのコミュニケーションが国民の納得を得るものではなかったことも大きな要因だろう。
 ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事など、株を上げているリーダーのコミュニケーションの特徴としては、①迅速かつ頻繁で、徹底した情報開示、②ビジュアルな資料を用いた分かりやすい説明、③原稿に頼らない自分の言葉による説得、④高い専門的知識に基づく正確な説明、⑤責任の所在を明確化、⑥聞き手の感情に寄り添い、励まし、勇気付ける、⑦圧倒的な信頼感などが挙げられる。
 リーダーとは、例えていえば、パイロットのようなものではないだろうか。優れたリーダーは、事前にこれからどんな状況になるのかを説明し、乗客の不安を最小限に抑え、理解を得なければならない。まさに「危機感と安心感」をいかにバランス良く伝えるかがカギとなる。

リモート時代のインターナルコミュニケーション

 極めて視界の悪いこの時代に、日本の企業リーダーも同様に、重責を担っている。多くの企業が「リモートワーク」の導入を余儀なくされたが、物理的に社員との距離が離れている状況だからこそ、心理的距離を縮めるために、リーダーシップコミュニケーション、インターナルコミュニケーションの重要性がかつてないほどに高まっている。
 しかし、国内企業の中には、社長からはテキストベースのメッセージが1回、メールで送られてきただけ、社長のビデオメッセージがイントラネットで流れたが、在宅の人は見られない、など、密にコミュニケーションが取れているとは言い難い状況も散見される。
 一方で、もともと、会見のネット配信などにリモートのコミュニケーションの土地勘があるような企業では、新たなチャンネル開拓に抵抗はないようだ。社員の7〜8割がリモートに移行したNTTドコモでは、社長が、オンライン会議システムを使って、全社員に語り掛けるなど新たな取り組みを始めている。
 また、外資系企業の中には、スムーズにリモート転換し、頻繁にコミュニケーション機会を創出し、社員のモチベーション維持に取り組むケースが目立っている。例えば、9割以上の社員がリモート勤務に移行したクレジットカード会社のAmex。毎週2回30分ずつ、社長以下役員が状況のアップデートをオンライン会議で行い、毎回、600人ほどが参加している。広報部のメンバーがMCとしてファシリテーションをし、役員のお気に入りの音楽を毎回流したり、写真を見せ合ったりするなど、堅苦しくない内容を工夫し、社員からも好評だ。タウンホール(社員総会)も、オンライン会議で行い、1200人が参加したという。こうした取り組みによって「トップとの距離が逆に縮まっている」(エディ操副社長)と想定以上の効果も生まれている。
 大手保険会社のAIGも新たなチャンネルを使って熱心にコミュニケーションを重ねている。AIGでは、9割の社員がリモート勤務となったが、慣れない状況に戸惑う社員の家族向けに理解を求めるメールを社長名で出し、非常に好評だった。トップも交えた全社的なオンライン会議も頻繁に行っており、社員との関係性の強化に努めている。執行役員の林原麻里子さんは「こうした状況では、社員は情報に飢えており、関心も高い。コミュニケーションの質と同時に、量や頻度が何よりも大切だ」と話す。
 会計コンサル会社のEYアドバイザリー・アンド・コンサルティングは、産業医とのタウンホールを開催し、多くの参加者を集めた。このように、社員は長期間の在宅勤務の中で、「情報の飢餓状態」に置かれている。米国のSNS管理ツール会社Bufferが行っている、在宅勤務についての大規模調査「The State of Remote Work」の2020年版によると、世界の3500人のリモートワーカーのうちの98%が在宅勤務を希望する一方で、「コラボレーション」「コミュニケーション」そして「孤独」という3つの大きな課題が浮かび上がった。
 様々なコミュニケーション手段のおかげで、かつては考えられなかったレベルの在宅勤務が可能になっているわけだが、オフィスにおける状況と同等のコミュニケーションを実現するのは難しい。まだまだ技術的な制約もあるが、リアルにはないツールの利点を最大限に生かして、コミュニケーションを深めていくしかない。
 そのためには経営陣も率先して、新たなコミュ力の作法を習得していく必要があるだろう。そして、もっと覚悟を持って、社員に向き合い、積極的にコミュニケーションを重ねていく努力が求められている。 

ポストコロナのリーダーシップコミュニケーション

 ポストコロナ時代には以下のようなリーダーシップコミュニケーション力が欠かせない。
(1) 断捨離力 情報を取捨選択・整理し、絞り込み、要点を明確にする
(2) ロジック力 より話の道筋をつけ、聞き手を迷子にしない工夫をする
(3) 言語化力 より強く、インパクトのある言葉を届ける
(4) 可視化力 スライドや絵、動画などよりビビッドに見せる工夫をする
(5) 共感力 聞き手の気持ちに寄り添い、聞き手の気持ちを刺激する
(6) 対話力 一方的に話すのではなく、聞き手との双方向の対話だと心得る
(7) 熱力 エネルギー、思い、志を届ける
 オンラインでは、ボディランゲージや表情が読みにくいため、より「言葉」に意識が集中しやすく、話し方の良しあしが、より厳しくチェックされてしまう。アイコンタクト、姿勢、間の取り方など、難度の高いノウハウが求められており、リーダーはさらに一段高いレベルのコミュ力にアップデートしていく必要性に迫られている。

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