経済広報

『経済広報』(2020年7月号)掲載
特集 Withコロナと危機管理広報
ポストコロナ時代のSNSと企業広報
―第2波到来に備えた適切な取り組みとは―
早川くらら

早川 くらら(はやかわ くらら)
ビルコム(株) 取締役

一般人の発信にも注意を

 新型コロナウイルス感染拡大の状況下で企業広報担当者は、SNSの有用性とリスクを改めて強く認識したはずだ。今回の危機において、ステークホルダーの安全と安心を前提にした事業継続の取り組みで、広報業務の役割が飛躍的に重要性を増したことを否定する人はいないであろう。企業広報の支援業務に携わる立場から、パンデミックが一時的に鎮静化しているこの時期に、予見される第2波に備え足元の危機管理広報の体制見直しとネット時代に即した情報発信や企業防衛の仕組みの構築を強く提言したい。
 コロナウイルスに関しては、ワクチン開発が異例の速さで進む一方で、依然として未知の側面が多い。このため非常事態宣言の解除にもかかわらず生活者はニューノーマル(新常態)への適応を強いられる状態が当面続くことが予想される。広報担当者はこの点を念頭に、SNSの利用と警戒について危機感を持って再認識することが大切だ。2011年の東日本大震災でも、災害対応時のSNSの有効利用が大きく議論されたが、コロナ禍以前は大きな影響力を持つインフルエンサーの活用などに注目は集まりがちだった。しかし、企業防衛の観点では視野を広げ、一般人の発信情報にも注意を払いながら危機を予見し早期対応に乗り出す必要がある。その最たる例が、トイレットペーパーの枯渇現象だろう。きっかけは「品薄になる」とのデマに基づいた一般人のSNSでのつぶやきだったが、多くの人々の不安感を揺さぶり瞬く間に買い占められ全国で品切れ状態となった。興味深い現象は、SNSは若い世代が活用するメディアと従来は認識されがちだったが、このたびの買い占め騒動で大きな役割を担ったのは、平日早朝に店頭に並ぶことが可能な高齢者とされていたことだ。SNSから派生した情報をテレビや新聞などが繰り返し取り上げ、最終的には幅広い年齢層の生活者を時代錯誤な行動に導き、フリマアプリで高額出品に至る社会問題にまで発展した。政府や業界団体が「在庫は十分で、原材料調達も問題ない」と冷静な行動を呼び掛けたものの物流面での弱点が露呈し、しばらくの間は品薄状態が続いた。

危機管理広報の見直しを

 ネット調査会社のマイボイスコム※が昨年11月に10〜70代の男女を対象に実施した調査では、SNS登録率は61.2%と過去10年で約3倍に拡大した。コロナ禍での自粛生活では必然的にスマホなどの利用時間が増加し、登録者は一段と増加したと推測される。広報担当者は、自社のネット上における評判把握やリリース、記事など配信されたコンテンツのSNS上での反応まで警戒しつつ確認する必要があるが、今後はニューノーマル下に置かれた生活者の受け止め方までも守備範囲と捉えて掌握するべきだ。自社で負担となる場合は、外部モニタリングサービス活用も一案だ。
 コロナ感染は、人々の直接的な交流に関する全ての領域で変化を促すきっかけになりつつある。新たな生活様式は「非接触」をキーワードに、挨拶など習慣面で動作や距離に至るまで再定義を迫ることになる。ウイルス感染予防を意識した生活変化では利便性を犠牲とする覚悟が必要となるが、そこに企業としてどう関わるのかは経営者に突き付けられた喫緊の課題だ。マイナス要素だけではなく、匿名故に心情を明かしがちなSNS上で生活者の反応を丁寧にモニターし考察することで、事業にプラス要素となるヒントやイノベーションの端緒を見いだすことも可能だと考える。
 SNSの安易な利用は常に危険と隣り合わせだ。経営幹部の失言や不謹慎な言動などは、批判的なコメントを集中的に投稿される「炎上」の状態に追い込まれる可能性がある。炎上は結果的に、企業の評判や業績、株価などにダメージをもたらす。SNSサービスには共通した作法とも言える行動規範があり、専門家の助言を受けた上で利用するのが望ましい。政治や宗教、セクシャリティの領域は無論、状況次第では「お母さん方」とジェンダーを特定した何気ない発言すらもリスクを含むと認識すべきだ。
 従来の常識が見直されるポストコロナ時代には当たり前とされていた物事への言及もより一層の注意が必要だ。一度ネット上に出た発言や情報の削除はほぼ不可能だ。経営幹部のみならず、従業員が個人で投稿したコメントも同様で、これらを発端に企業が批判の的となる事例は枚挙にいとまがなく、アルバイトや社員への教育を徹底する必要がある。広報部門にとって予測し得る危機への対策「リスクマネジメント」もポストコロナには強化すべき領域となる。
 ウイルスの脅威に直面し試行錯誤する企業では、多方面の情報が集約される広報部門こそが先駆者の役割を担うべきだろう。事業再開が本格化した今、非常事態下で広報体制が維持されていたかを検証するのは有益だ。広報担当者は百年に一度といわれるパンデミックの再度の感染拡大前に、広報体制や効果測定指標、実施施策などに力点を置き最新の形に刷新したり、PR面のパートナーを見直したりすることをお勧めする。広報事業は時代の変遷やテクノロジーの進化とともに変化してきたが、当社など多くのPR会社が専業として効果的な対応策や情報配信を日々研究・実践している。既存のパートナーではポストコロナに対応できない可能性もあり、ネット時代の趨勢(すうせい)に適した事業協力者を選択し広報力の質的向上を図ることを推奨し筆を置きたい。

※マイボイスコム:SNS利用に関するアンケート調査
https://myel.myvoice.jp/products/detail.php?product_id=25610
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