経済広報

『経済広報』(2020年7月号)掲載
特集 Withコロナと危機管理広報
コロナショックの中、企業はどのような「業績見通し」を発信したか?
―「投資家との建設的な対話」を進める際の情報開示のポイントは―
江良嘉則

江良 嘉則(えら よしのり)
(株)エイレックス 常務取締役

業績予想を公表した会社は、467社調査対象企業のおよそ5割

 2014年以降の「スチュワードシップ・コード」と「コーポレートガバナンス・コード」という2つのコードの導入や、企業と投資家の建設的な対話の促進を提言した「伊藤レポート」などにより、以前より投資家との対話が活発になっているといわれる。では、投資家との建設的な対話のための情報開示はどれくらい進んでいるのだろうか?
 一方で、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は経済活動に大きなダメージを与えている。日本でも5月中旬に名門アパレルメーカーが民事再生法を申請するなど、先行きの見通しを立てづらい中、企業は業績予想をどのように発信しているのだろうか?
 筆者は新型コロナが企業の業績予想に与えた影響を調べるため、4月20日から5月13日にかけて決算発表した1012社(2月本決算の企業が10社、3月本決算の企業が1002社)の決算短信を閲覧した。1012社の中には、「従来より業績予想を非公表」とする企業が21社あったため、それを除いた991社を業績予想の有無で分けた。
 業績予想を公表した会社は、通期のみ開示(150社)、2Qのみ開示(7社)、1Qのみ開示(8社)といった変則的な事例はあったものの、上記991社中467社(47%)と、およそ5割の企業において業績予想が掲載されていた。業種的には、不況に強い医療や食品、IT(中でもフィンテック)関連企業、銀行(中でも地銀)などが多かった。アウトソーシング時代を反映してか、BPO(人事・総務など間接業務のアウトソーシングビジネス)関連企業の多くも業績予想を公表していた。

非公表の会社の中でも投資家の関心の高いテーマについて積極的な情報開示が見られた

 今期業績予想が非公表であった大半の企業は、その理由として「新型コロナウイルス感染症の影響により、合理的に算定することが困難である」ことを記載していた。しかし、非公表の企業の中でも「今後の見通し」の記載が優れており、投資家が興味を持って読み進めたり、思わず応援したくなる企業があった。
 以下、非公表の企業524社の決算短信の中でも優れていると感じた住友商事、日本製鉄、日本航空の情報開示例を紹介する。

1. 足元の状況を部門ごとに説明する工夫が見られた「住友商事」
 住友商事は、新型コロナウイルスの影響について最初に「足元で大きな影響が出始めているセグメントと足元では大きな影響は生じていないセグメント」を説明し、その後「ラーメンから航空機まで」と呼ばれる総合商社の多様な製品・サービスを事業ごとに詳しく記載している。事業部門が多岐にわたることから、部門ごとの説明が求められ、投資家はしばしば「足元の状況」を聞きたがる。それらをよく理解した情報開示である。

2. 減産対応策や資金面の手当てについて詳細な記載をした「日本製鉄」
 日本製鉄は新型コロナウイルスの影響で「第1四半期は、当社の粗鋼生産能力に対して稼働率60%程度」と記載していたが、その需要減少に伴う減産対応策を詳細に説明していた。具体的には、「高炉の出銑比率引き下げ、休風時間延長に加えて3高炉を一時休止、1高炉で改修のための操業停止を前倒し、1高炉で休止予定の前倒し、3地区でのコークス炉の一部休止」などがそれであり、この部分の説明は非常に詳しい。
 また、「固定費の大幅圧縮や変動費の改善」や、「フリーキャッシュ・フローの悪化を踏まえた対策」など、需要が大きく減少する中でコスト削減策や資金調達策など守りの施策についても言及していた。さらには「米中貿易摩擦の影響、原油価格下落、新興国通貨下落の影響」などについての記載もあり、投資家にとって読み応えのある内容となっている。

3. ファクト(数字やデータ)を入れて説明し、未来を語った「日本航空」
 日本航空の「今後の見通し」は、ファクト(数字)を入れた説明で始まる。「各国の入国制限や需要急減、日本国内における移動の自粛などの動きにより、直近で、国際線の約95%、国内線の約70%の減便を実施しており、経営にも極めて大きな影響を及ぼしている」。この数字のインパクトは大きいが、投資家から見れば「企業が厳しい現実を直視しているとの認識を示す」ことの意義は大きい。投資家は企業と運命共同体であり、企業側が経営環境を見誤れば経営はさらに悪化するからである。企業側の認識の表明は、投資家にとって重要情報なのである。
 日本航空は、上記2で説明した「守りの施策=コスト削減策と手元流動性の確保策」についても簡潔明瞭な説明をしている。
 しかし日本航空の情報開示で特筆すべき点としては、「未来」が語られていたことであろう。スペースの都合で要約して記載するが「新型コロナウイルス感染拡大の影響は、航空業界のみならず社会全体のあり方を大きく変える可能性がある。しかし、グローバルな人と人との交流、物流ネットワークの重要性が低下することはない。当社はこの厳しい状況を全社一丸となって耐え抜き、この危機が終息した後には、再び日本と世界の交流と、日本国内における地域間ネットワークの構築に貢献していく」という未来への挑戦、決意表明である。
 ほかにも、「航空会社の社会的使命」について語るなど、トップメッセージの要素が高い決算短信となっており、投資家として応援したくなるのではないだろうか。

業績予想を開示している企業467社は何をどのように開示しているか
(対象期間と出典:2020年4月20日~5月13日にTDnetで公表された決算短信(本決算)の「3.業績予想」)

開示の時期 開示の項目 開示形式 開示している企業
通期と2Q
(301社)
5項目全て 特定値 アサヒホールディングス、日本電産、村田製作所、
塩野義製薬、ダイフク、ダイキン工業など296社
経常収益、経常利益、
当期利益、EPS(4項目)
沖縄銀行、東北銀行、東邦銀行(3社)
経常利益、当期利益、
EPS(3項目)
愛媛銀行、福井銀行(2社)
通期のみ
(150社)
5項目全て、または経常利益を除く4項目 特定値 NRI、任天堂、大阪ガス、ソフトバンク、NEC、
武田薬品工業、三井不動産など139社
レンジを
持たせた値
ミネベアミツミ、朝日印刷、中国塗料(3社)
営業利益、経常利益、
当期利益、EPS(4項目)
予想ではなく試算値 日本証券金融(1社)
営業収益、営業利益(2項目) 特定値 トヨタ自動車(1社)
売上高(1項目) 特定値 弁護士ドットコム(1社)
当期利益、EPS(2項目) 特定値 丸紅、伊藤忠商事、三井物産、りそなホールディングスなど5社
2Qのみ
(7社)
5項目全て 特定値 日鉄ソリューションズ、合同製鐵、ファナック、オークマ、東京精密、メイテックなど7社
1Qのみ
(8社)
5項目全て 特定値 エレマテック、アドバンテスト、東京製鐵、グリムス、
太陽誘電、エン・ジャパンなど8社
通期と1Q
(1社)
経常利益(1項目) レンジを
持たせた値
商船三井(1社)
(注) 上場企業の決算短信での業績予想は、開示時期と開示の5項目:①売上高、②営業利益、③経常利益または税引前利益、④親会社株主に帰属する当期純利益(当期利益)、⑤1株当たり当期純利益(EPS)、の見通しを特定値で開示することが多いため、上記のような区分けとした。

まとめ

 「業績予想を公表した会社が47%」という数字に加えて、「非公表の会社の中でも投資家の関心の高いテーマについて積極的な情報開示が見られたこと」「未来やメッセージが語られていたこと」は、上場企業が「投資家との建設的な対話を促進しようとしている」ことの表れだと確信する。
 また、業績予想を公表した会社の中には、規制緩和に挑戦するベンチャー企業なども多く、それら企業がこのコロナ禍においても投資家に向けて「業績予想」という有益な情報を出そうとしている姿勢を感じた。
 今回の「業績見通し」について十分に記載できなかった企業におかれては、「建設的な対話」に向けた情報開示のあり方や姿勢に関して、今回の調査事例が参考になれば幸いである。

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