9月11日、碧南火力発電所(愛知県碧南市)で「企業と生活者懇談会」を開催し、社会広聴会員11名が参加しました。まず、JERA から会社概要について説明があり、次に、同発電所の概要、燃料の石炭にCO2を排出しないアンモニアを混ぜて燃やす「燃料アンモニア転換実証事業※」の現状や、今後の取り組みなどについて講話を受けました。続いて、実際に所内を見学し、海外から船で運ばれる石炭を陸揚げして保存する貯炭場、発電に使用する巨大なボイラ建屋、アンモニア保管用タンクなどを実見しました。最後に質疑懇談を行い、サステナビリティの取り組みなどについて意見交換を行いました。
JERA からは、広報部長島田勇一氏、碧南火力発電所副所長加藤孝雄氏、同発電所管理ユニット課長代理柴垣光男氏が出席しました。
※ 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)助成事業:アンモニア混焼火力発電技術研究開発・実証事業
■JERAの概要
JERA は2015年、東京電力と中部電力の合弁契約によって誕生したエネルギー事業を営むメガベンチャー企業です。JERA という社名には、「日本(JAPAN)のエネルギー(ENERGY)を新しい時代(ERA)へ」という意味が込められています。石炭・液化天然ガス(LNG)といった燃料資源の探鉱、開発・生産、調達、輸送から、受入、貯蔵、発電、卸売販売までの一連の流れについて、全ての分野に携わっており、既成概念にとらわれないボーダレスな事業を展開しています。事業規模はワールドクラスで、特にLNG年間取扱規模約3500万トンは世界最大級です。非上場企業であるため、企業の総資産・売上高ランキングなどに名を連ねることは少ないですが、国内の上場企業全体でも約30位に相当する総資産・売上高を誇っています。また、2022年度の発電容量約6100万キロワットは日本最大で、国内の電力需要の約3割にあたる約2350億キロワットアワーを1年間で発電しています。日本に保有する火力発電所は東京湾、伊勢湾を中心に26カ所あります。約3000名の技術者が従事しており、高度な運転技術と最先端のデジタル技術を用いて、日本に届けられた燃料を効率的に電気へと変換し、消費者のもとへ届けています。
さらに、国内で培ったノウハウを活用し、世界各国で火力や再生可能エネルギーなどの発電事業を展開しており、10以上の国・地域で約30件のプロジェクトに参画しています。同社は燃料を調達するだけでなく、資源の開発・生産プロジェクトにも参画していますが、これは、燃料資源を安定して日本に届け、エネルギーの確実な確保を実現するためです。2023年3月末時点では、6件の開発投資を行っています。また、LNG輸送船を19隻保有しており、自社で自由に使える輸送船団を持つことで、安全性を高いレベルで確保しながら、状況に応じた柔軟な燃料調達を可能にしています。他にも、石炭・LNGの価格差・品質差・地域の需給差などを利用した燃料トレーディング事業に取り組んでいます。これらの取り組みなどによって、安定調達とコストの低減を目指しながら、競争力のある燃料調達を実現しています。
同社は、2035年に向けたビジョンとして「再生可能エネルギーと低炭素火力を組み合わせたクリーンエネルギー供給基盤を提供することにより、アジアを中心とした世界の健全な成長と発展に貢献する」ことを掲げています。2020年には、2050年時点で国内外の事業から排出されるCO2の実質ゼロに挑戦する「JERA ゼロエミッション2050」を掲げ、達成に向けた取り組みを開始しました。①火力発電においては、水素やアンモニアといった、燃やしてもCO2が出ない燃料の導入を進めて「ゼロエミッション火力」を追求し、発電量が自然条件に左右される再生可能エネルギーの導入を支える、②国・地域ごとに導入可能な再生可能エネルギーの種類や送電網・パイプラインの有無などが異なることから、その土地の実情を踏まえた最適な脱炭素化計画を策定し、排出されるCO2の実質ゼロに向けた取り組みを行う、③今ある技術や既存の設備に、イノベーションにより利用可能となった信頼のできる技術を積極的に組み合わせながら、低い技術リスクで脱炭素社会への移行を促進する、という3つのアプローチで「ゼロエミッション」を目指しています。
JERA はこれからも、「世界のエネルギー問題に最先端のソリューションを提供する」というミッションに基づき、最先端のエネルギーソリューションを導入しながら日本が直面するエネルギー問題の解決に貢献し、日本で構築したエネルギーモデルを同様の問題に直面する国々に提供し、世界のエネルギー問題の解決に貢献していくことを目指して、挑戦を続けます。
■碧南火力発電所の概要
碧南火力発電所は1991年に1号機が運転を開始し、2002年までに5機が建設されています。石炭火力発電所としては世界最大級の総出力410万キロワットを誇り、年間発電電力量は約300億キロワットアワーで、愛知県の電力需要の約半分を賄うことができます。広大な敷地は約208万平方メートルあり、その広さは東京ディズニーリゾートの2倍相当となります。所内は「貯炭エリア」「発電・環境エリア」「灰埋め立てエリア」の大きく3つのエリアから構成されています。「貯炭エリア」には、海外から船で運ばれた石炭を陸揚げする船着き場、石炭を山積みにして保存する貯炭場、船着き場から貯炭場をつなぐベルトコンベヤーなどがあります。「発電・環境エリア」には、1号機から5号機まで5つの発電設備があります。ボイラでは貯炭場からベルトコンベヤーで運ばれてきた石炭をバーナーで燃やし、蒸気を発生させます。発生した蒸気は扇風機の羽根のような形をしたタービンと呼ばれる設備に噴射して毎分約3600回転の速さで回転させ、発電を行っています。また、全ての発電設備をコントロールする中央制御室があり、安全な操業に向けて24時間体制で監視しています。他にも、排煙を環境規制値や協定値以内に抑制する環境保全設備や、排出するための2本の煙突などがあります。「灰埋め立てエリア」は石炭を燃焼した際に発生する石炭灰を埋めるエリアです。同発電所では、燃料の石炭を年間約1000万トン使用して発電しており、石炭灰は年間約100万トン発生しています。石炭灰の大半はセメント原料や土地造成材として有効利用されていますが、有効活用されなかった一部がこのエリアに埋め立てられます。
■碧南火力発電所の「燃料アンモニア転換実証事業」
「JERA ゼロエミッション2050」の取り組みは国内において既に具体的に進められており、中でも碧南火力発電所では、IHIなどと共同で、世界初となる大型の商用石炭火力発電設備での「燃料アンモニア転換実証事業」が行われました。アンモニアは燃焼時にCO2を排出しないため、発電の燃料を石炭から段階的に転換することで、排出されるCO2を石炭から置換した分だけ減少させることができます。また、アンモニアは燃焼速度や発熱量が石炭と近いことから、安定した燃焼が可能という利点もあります。加えて、既存設備の改修はバーナのみであり、比較的短期間の工期で実証事業の実施が可能となりました。
2021年6月、5号機ボイラのバーナの一部をアンモニア燃焼用に改造し、同年10月から2022年7月まで、燃料アンモニアの小規模利用試験を実施しました。2022年10月には、4号機で本格的な実証試験を実施するため、電力安定供給を確保しながら、燃料アンモニアに関するバーナ、タンク、気化設備、配管などの設置工事を開始するとともに、燃料アンモニアの利用に伴う安全対策も整備しました。実証試験は2024年の4月から同年6月まで実施し、燃料の20%をアンモニアに転換し、約3カ月間で約30000トンのアンモニアを使用して発電が行われました。その結果、転換前と比較して、生態系に影響を及ぼすNOx(窒素酸化物)の排出量は同等以下であり、SOx(硫黄酸化物)の排出量は約20%減少し、温室効果の強いN2O(亜酸化窒素)は確認されず、環境に良好な結果が計測されています。
今後は、2020年代後半までに商用運転を開始する予定です。また、5号機では2028年度までに50%以上の高転換実証試験を進める予定です。最終的には、国内外の火力発電所に展開していくことで、燃料アンモニアによるグローバルな脱炭素化への貢献を目指していくとしています。
■燃料アンモニア利用における安全への取り組み
参加者はバスに乗り、碧南火力発電所の構内の様子を見学しました。初めに見えたのは1号機から5号機のタービン建屋とボイラ建屋です。高さ約35メートルのタービン建屋と高さ約80メートルのボイラ建屋の壁はいずれも防音壁になっており、内部からの音を遮断しています。1号機から3号機の出力は最大で70万キロワット、4号機と5号機は100万キロワットを誇り、各配管や設備は高温高圧の蒸気にも耐えうる設計になっています。
次に見えてきたのは燃料アンモニアを保存する球体のタンクです。直径約16メートルの銀色のタンクの内部には約1400トンのアンモニアが、マイナス33度で液化され貯蔵されています。燃焼の際には気化器でガス化して4号機のボイラへと運ばれ、石炭と一緒に燃やされます。タンクの周りは高さ約2メートルの白いコンクリートで囲まれており、万が一アンモニアが流出した場合でも外部への流出を阻止する構造になっています。この中に溜まったアンモニアが外気に触れ、拡散することを防ぐため発泡設備も設置されています。また、アンモニアタンクの横には700立方メートルの円柱形の散水タンクが備えられています。アンモニアは水溶性のため、万が一の流出時には漏洩部に散水して無害化することができます。このように、有事の際の被害拡大防止に向けた対策が複数施されています。
発電所内には至る所に監視カメラ、ガス検知器、PH計、遮断弁、消火栓などが設置されており、中央制御室からも漏洩時の早期発見や状況把握が可能となっているそうです。見学中、自転車に乗って巡回する職員とすれ違いましたが、設備の日々点検作業を行っているとのことでした。異常の早期発見と被害の拡大防止を重視する安全への取り組みを知り、参加者は大変感心していました。
■貯炭場と石炭船
次に参加者は、石炭を山積みにして保存する貯炭場を車窓から見学しました。石炭粉じんの飛散防止のため、高さ18~20メートルの遮風フェンスで周囲が取り囲まれており、内側には高さ約10メートルの黒い石炭の山が一定の並列でいくつも並んでいました。炭山が複数あるのは石炭の種類ごとに発熱量や水分量、硬さなどの性状が異なることから、混ざらないように管理するためです。貯炭場の最大容量は約88万トンで、1号機から5号機が約1カ月稼働し続けられる貯炭量とのことです。天候不良などで石炭船が到着できない場合でも、発電所の稼働に支障を来さない量の石炭が常に保存されています。見学時には、石炭船から陸揚げした石炭を、大きな重機を用いて山状に積み付けする様子を眺めることができました。
最後に参加者は、海沿いに停泊する石炭船から石炭を陸揚げする様子を見学しました。船内にある石炭を、高さ約30メートルのクレーンのような揚炭機がすくい上げてベルトコンベヤーに載せ、貯炭場に送り出していきます。船は主にオーストラリアとインドネシアから石炭を運んできており、年間約100隻が着桟しているそうです。参加者は、船と重機の大きさや、大量の石炭が運ばれる壮大さに驚いていました。
社会広聴会員:
エネルギー安全保障に関するお考えをお聞かせください。
JERA:
地政学リスクや気候変動などによって、エネルギー安全保障の重要性は高まっています。燃料の調達に関しては1つの国や地域に依存することのないよう、複数の選択肢を持つことが必要です。交渉力を高めながら、今後もエネルギーの安定的な確保を実現したいと考えています。
社会広聴会員:
他企業との協業事例について教えてください。
JERA:
脱炭素は1社では進められないので、国内外問わず多くのパートナーと共同で取り組みを進めています。例えば、トヨタ自動車様との協業では、電動車に搭載されていたバッテリーを効果的にリユースすべく、大容量スイーブ蓄電システムの実証実験を行っています。中古の車載バッテリーのパワーを劣化状態や性能差に関わらず最大限引き出して再利用する技術によって、資源の有効活用に貢献できると考えております。
●事業内容の説明を聞き、質疑懇談を通じて、エネルギー安全保障において日本のエネルギー政策が置かれる環境の難しさを改めて認識しました。消費者としては、単に電気料金のみに関心を持つのではなく、その金額の仕組みや、社会情勢などを踏まえて金額がどう変化する傾向があるのかということを、自分の事としてきちんと考え、把握する必要があると感じました。
●碧南火力発電所が火力発電の燃料を燃料アンモニアにシフトしていくことを知らなかったため、とても興味深く説明を聞くことができました。実際に発電所を見学することで、より理解が深まりました。エネルギー産業において、今まで以上に脱炭素の重要性が高まっていることが分かりました。
●見学可能時間・見学可能日:11:00~/12:30〜の2回、毎週月曜休館日(祝日の場合は翌日火曜)
※2週間先から6カ月先まで申し込み可能
●見学所要時間:①基本コース(車窓見学)(70分)、②リモート見学コース(ZOOM)(30分)
●見学可能人数:①バス1台、最小10名から最大45名、②10名以上PC20台まで
●予約:要予約 ※見学にはバスの手配と名簿の提出が必要
●住所:〒447-0824 愛知県碧南市港南町2丁目8−2
この度は、碧南火力発電所までお越しいただきまして、ありがとうございました。懇談会での多くのご質問、後日頂戴したとても励まされるご意見・ご感想に重ねて御礼申し上げます。
JERAはBtoB企業ではありますが、電気という極めて生活に密着した商品を取り扱う会社であることから、私どもの考え方や事業活動を多くの生活者の方に知っていただくことが非常に重要だと考えております。今後も誠実なコミュニケーションに努めてまいります。