10月2日、ヤクルト本社茨城工場(茨城県猿島郡)で「企業と生活者懇談会」を開催し、社会広聴会員14名が参加しました。「ヤクルト」誕生までの歴史や、「ヤクルト」の機能、今後の事業展開などの説明を受けました。その後、「Y1000」や「ヤクルト原料液」の製造ラインを見学しながら、生産工程や品質・衛生管理などについて解説を受け、最後に質疑懇談を行いました。
ヤクルト本社からは、広報室長堀千佳子氏、同室広報班課長本川晋也氏、同室広報班担当課長市川弥寿子氏、ヤクルト本社茨城工場工場長長谷川能弘氏、同工場総務課主任長濵美香氏が出席しました。
■ヤクルト本社の概要
昭和初期、感染症で亡くなる人が多かった時代に、「一人でも多くの人を健康にしたい」という創始者である医学博士代田稔の想いからヤクルトの歴史は始まりました。京都帝国大学医学部で微生物の研究を始め、5年の年月を経て、生きたまま腸に到達する乳酸菌の強化培養に成功しました。それが「乳酸菌 シロタ株」です。腸内で有用な働きをする「乳酸菌 シロタ株」が含まれた飲料を毎日飲むことにより、人々の健康づくりに役立ててもらうことを願って、1935年に「ヤクルト」の名称で販売を開始しました。戦後、全国に拡大し、「ヤクルト」の販売会社を統括する組織として、1955年にヤクルト本社が設立されました。
また、代田は、病気にかからないようにする「予防医学」や、腸を丈夫にすることにより健康で長生きにつながる「健腸長寿」が大事であると考えました。そこで「乳酸菌 シロタ株」を一人でも多くの人に手軽に飲んでもらいたいという思いから「誰もが手に入れられる価格で」提供することを提唱します。ヤクルトではこうした思想を「代田イズム」と呼び、全ての事業の原点としています。
現在「ヤクルト」は、日本を含む40の国と地域で販売しています。海外における乳製品の販売本数は、2023年には年間で1日約2880万本に達しました。商品は店頭販売の他、独自の販売システムであるヤクルトレディによって届けられています。国内ではインターネットでの注文にも対応しています。
同社中央研究所は「代田イズム」を継承し、人の健康に有益な効果のある微生物、プロバイオティクスの研究を続けています。最近の研究では、腸内細菌がお腹の調子だけでなく、免疫、そしてストレスやうつ病などメンタルヘルスにも影響を及ぼすことが明らかとなり、世界的にも注目を集めています。研究の成果は、食品の他、医薬品や化粧品にも応用されています。
同社は、コーポレートスローガン「人も地球も健康に」に基づいて、地球環境の保全にも積極的に取り組んでいます。国内全ての工場において2022年7月に生産工程で使用する購入電力を全て再生可能なエネルギー電力に切り替えました。その結果、CO₂排出量を2018年度比約40%の削減に成功しました。
長期ビジョン「Yakult Group Global Vision 2030」において「世界の人々の健康に貢献し続けるヘルスケアカンパニーへの進化」を目指す姿として掲げており、グローバル展開の強化、事業領域の拡大、環境課題への対応を通じて、これからもお客さまニーズの充足に努めるとともに、健康に関する社会課題の解決に取り組んでまいります。
■ヤクルト本社茨城工場の概要
茨城工場は、1967年に操業を開始し、現在従業員数約180名で事業を行っています。敷地面積は約4万5900平方メートルで、これは東京ドーム1個分に相当する広さです。2007年に新工場棟を建設し、見学が可能な工場になっています。新型コロナウイルス感染拡大防止のため休止していた工場見学が、2024年4月から約4年ぶりに再開されました。これに伴い、見学通路のリニューアルやフォトスポットコーナーが新設されました。
1階のエントランスホールでは、世界で生産されている「ヤクルト」や化粧品(ヤクルトビューティエンス)が展示されています。また、ヤクルト型の容器をのぞくと「乳酸菌 シロタ株」の働きについての映像を楽しめる機械や、ヤクルトの歴史、環境への取り組みを紹介しているパネルなどが設置されています。
2階は工場の見学通路になっており、同工場で生産されている「Newヤクルトカロリーハーフ」「ヤクルト400LT」「ヤクルトファイブ」の3種の原料液の製造と、「Y1000」の生産工程を見学することができます。
■ヤクルト原料液ができるまでのヒミツ
「ヤクルト」は主に「脱脂粉乳」「シロップ」「乳酸菌 シロタ株」の3つの材料から作られており、脱脂粉乳は北海道産の良質な原料のみを使用しています。
まず、脱脂粉乳をお湯で溶かして仕込み乳を作ります。高温で瞬間的に殺菌され、培養タンクに運ばれます。そこに「乳酸菌 シロタ株」を加えて、菌を培養したものを「菌液」と呼びます。この時点では、乳酸菌が生み出す乳酸の働きによって非常に酸味の強い液となっています。この「菌液」を調合タンクへと運び、甘い味付けのシロップを加えて味を調整したものが「ヤクルト」になります。茨城工場で作られた「Newヤクルトカロリーハーフ」「ヤクルト400LT」「ヤクルトファイブ」の原料液はタンクローリー車に積み込まれ、ボトリング工場である岩手工場や千葉工場へ運ばれます。ボトリング工場で各製品の容器が成形され、内容液を充填して製品が完成し、出荷されます。
■Y1000の生産工程
最初にエントランスホールでオープニングの挨拶があり、展示品の説明を受けたあと、茨城工場で生産されている「Y1000」で乾杯しました。
同工場では「Y1000」の原料液製造、容器の成形、中身の充填、包装、出荷まで行われています。今回の見学では容器の成形から、包装までを見せていただきました。「Y1000」の容器を成形する「成形機」は、1台で1時間に6000本の容器を成形することができます。小さなポリスチレン樹脂を熱で溶かし、筒状にした後、型の中で風船のように膨らませることで「ヤクルト」の容器が形成されます。出来上がった容器は最大12万本のヤクルト容器を貯蔵することができるボトルタンク内へ運ばれます。
成形された「Y1000」の容器は、「整立機」を使って容器の飲み口が全て上になるように並べます。次に「容器外観検査装置」で容器に傷やへこみがないかを画像で確認します。問題がない容器は「ラベラー」で赤いラベルをかぶせ、「収縮トンネル」で熱した蒸気を当てて、きれいに収縮させて仕上げていきます。その後、「印字検査装置」でラベルの向きを揃えて賞味期限を印字し、賞味期限が正しく印字されているかどうかは画像を使って確認します。こうして出来上がった容器に「充填機」で内容液を充填していきます。1台で1時間に約3万本の「Y1000」を充填することができます。同じ機械ですぐにアルミキャップで密封することで、衛生的に充填することができます。充填機内は病院の手術室と同じくらい清浄な空気が送り込まれています。
充填後は、アルミキャップの粘着強度の確認を行い、「液中底異物検査装置」で容器の底から画像を使って異物が混入していないことを確かめます。そして「マルチシュリンク包装機」で製品を6本1パックにまとめて包装したものや、1本ずつの単品製品を「再シュリンク包装機」で24本ごとにまとめていきます。まとまった製品は「容器個数整列検査装置」で正しい本数がきれいにパックされていることをチェックします。これまで多くの機械で検査を行ってきましたが、「金属検出装置」でヤクルトに金属が混入していないことを最終確認します。機械での確認後、最後は人の手でフィルムの破れや液漏れが発生していないかなどを確認し、これらの検査を通過した製品が冷蔵庫へと運ばれます。庫内の製品はさまざまな品質検査を行うため、製品完成の当日ではなく翌日に出荷されることとなります。
■タンクの洗浄
高さ約5メートル、直径約3メートルのタンクは空になると洗浄・殺菌が行われます。まず初めに、タンクの中の攪拌(かくはん)プロペラを回転させて、お湯とアルカリ洗剤で自動洗浄を行います。次に人の手による手洗い洗浄が行われます。タンクの中に入ってタンク内の細かい部品を洗浄するだけでなく、タンクに異常がないかの確認も同時に行います。
~解説を聞いている時に、新入社員が先輩からタンク洗浄についての研修を受けている貴重な場面を見学することができ、参加者はガラス越しにエールを送りました。~
最後に、タンク内に高温の蒸気を送り込み、殺菌して完了です。蒸気は細かな配管まで殺菌することができます。
■異物除去装置
「ヤクルト」を製造する各工程で、異物除去装置が設置されています。異物除去装置内は、銀の筒状のフィルターが入っており、表面は網目状の小さな穴が開いています。中から懐中電灯を照らしても光がほとんど漏れないほど細かい穴です。
■150項目以上の検査
原料を受け入れてから製品出荷に至るまで、150項目以上の検査を行っています。その中でも代表的な3つの検査、理化学検査、官能検査、微生物検査について解説がありました。理化学検査ではサンプル品を使用して、比重、糖度、酸度、pHなどを検査しています。官能検査は検査員の感覚器官(味覚、臭覚、視覚)を用いて香りや味などを検査するものであり、製品の品質に異常がないかを確認します。検査員は年に1度行われる試験に合格する必要があります。微生物検査は乳酸菌以外の雑菌が混入していないことを確認する検査です。
ヤクルトの乳製品工場では、ISO22000(食品安全マネジメントシステムの国際規格)※に、顧客満足・品質保証の考え方を組み込んだ独自の仕組みを運用しており、茨城工場は2021年10月に認証を取得しました。ヤクルトの徹底した品質管理に参加者は感銘を受けていました。
※ISO22000(食品安全マネジメントシステムの国際規格):危害を除去、低減するために重要な工程を管理するHACCPの考え方を取り入れ、食品の安全を確保し、継続的に改善するための管理手法
社会広聴会員:
ヤクルトレディによる販売システムの展望について教えてください。
ヤクルト本社:
ヤクルトレディは商品を届けるだけでなく、お客さまに最適な商品の提案や健康へのアドバイスを行っています。また、一人暮らしの高齢者の安否確認、話し相手になる「愛の訪問活動」から、自治体、警察などと連携しての、地域の「見守り」や「安全・安心」へのお手伝いまで幅広い活動をしています。こうした地域社会と共生する存在として、今後もヤクルトレディは当社グループを支える根幹です。
社会広聴会員:
容器のリターナブルについてどのように考えていらっしゃいますか。
ヤクルト本社:
容器包装の薄肉化、軽量化などによるプラスチック使用量の削減を図っています。また、資源循環しやすいバイオマス素材などへの転換に取り組んでいます。他にも自治体などと連携したリサイクルスキームの構築や生物分解性素材の導入、プラスチック製以外の容器への転換に関する検討を進めています。
社会広聴会員:
今後の事業展開について教えてください。
ヤクルト本社:
これまでの事業領域を起点として、地域社会における健康課題を解決する新たな商品やサービスの提供「ウェルネス&ライフサポート」、美と健康を融合したソリューション提案を拡大する「ヘルス&ビューティー」、医療現場での栄養補助や治療への活用および動植物用商品の提供「メディカルケア&ニュートリション」を展開し、「ヘルスケアカンパニー」への進化を目指します。
●一番感心したのは製品の品質に対する工場の取り組み姿勢でした。工場長から「当たり前のことを当たり前に継続することは簡単ではない。」とのお話がありました。90年間連綿と取り組んできた姿が目に浮かび、先輩が新入社員を指導する光景には思わずエールを送りました。こうした取り組み姿勢が工場のみならず会社全体にあり、企業文化として定着してヤクルトブランドを育てているのだろうと思いました。
●ヤクルトの品質管理のレベルの高さがよく理解でき、安心できることを実感しました。容器回収・対応については、難しい課題があるとのことでしたが、ヤクルトがリーダーシップをとって取り組んでいただければうれしく、消費者のヤクルトへの信頼も高まると感じました。
●世界にもヤクルトレディがいることを初めて知り、世界的企業であることを認識しました。ラーメンなどもヤクルトレディから買えることを知り、今度販売店へ行ってみたいと思います。とても有意義な見学会でした。
●見学可能日・時間:月~土曜日(年末年始は除く)、9:30~/11:00~/13:00~の3回
●見学所要時間:約60分
●見学可能人数:最小1名から最大100名
●予約:要予約
●住所:〒306-0314 茨城県猿島郡五霞町大字川妻1232-2
このたびは、貴重な広報活動の機会をいただき、ありがとうございました。私たちはコーポレートスローガンに「人も地球も健康に」を掲げ、人だけではなく地球環境全体の健康に貢献することがグループ共通の願いです。2025年に創業90周年を迎えますが、今回工場見学にお越しいただいた皆さまはもちろんのこと、世界中の皆さまに当社の想いをご理解いただき、当社活動に末永いご支援をいただけましたら幸いです。