企業と生活者懇談会
2025年6月10日 兵庫
出席企業:エア・ウォーター
見学施設:国際くらしの医療館・神戸

「神戸医療産業都市で先端医療技術を体験しよう!」

6月10日、国際くらしの医療館・神戸(兵庫県神戸市)で「企業と生活者懇談会」を開催し、社会広聴会員11名が参加しました。エア・ウォーターから、会社概要と同施設についての説明を受けた後、滅菌センターの見学や、同社が提供する製品・サービス、最先端の手術室の設備などを実際に見て、幅広い取り組みへの理解を深めました。
質疑懇談の場では、歯髄再生治療の将来性や今後の事業展開などについて意見交換を行いました。
エア・ウォーターからは、エア・ウォーター・アエラスバイオ代表取締役菊地耕三氏、運営管理部次長川本実咲氏、営業統括部課長川野琢己氏、エア・ウォーター広報・IR推進室課長村上康弘氏、同室中尾優希氏が出席しました。

エア・ウォーターからの説明

エア・ウォーターの概要
 エア・ウォーターは、北海道創業の医療用ガスメーカーのほくさんと大阪創業の産業ガスメーカーの大同酸素が1993年に合併した「大同ほくさん」を前身としています。その後、2000年に大同ほくさんと、製鉄向け酸素供給を担う共同酸素が合併し、「エア・ウォーター」として発足しました。
 同社は設立以降、産業ガスを基軸にM&Aを重ね、事業領域を多角化してきました。現在は、エネルギー、医療、農業・食品、物流、海水など幅広い分野で事業を展開しています。また、地域に根差した事業基盤を活かし、各地域の課題やニーズに対応した製品・サービスを提供しています。
 2022年には、2030年までの長期ビジョン「terrAWell 30」を発表。地球環境とウェルネスを2つの成長軸とし、事業を「デジタル&インダストリー」「エネルギーソリューション」「ヘルス&セーフティー」「アグリ&フーズ」の4領域に再編しました。
 産業ガスは主に工場などで使用されますが、その用途は多岐にわたります。例えば「液化窒素」は冷凍食品の製造にも使われます。マイナス196度という非常に低い温度で、食品を瞬間的に冷凍することにより鮮度や品質を保ちます。同社はこうした技術や地域の生産者とのつながりを活用し、ガスの供給にとどまらず、農業・食品事業にも参入しています。
 食品事業では、ハムやソーセージ、スイーツ、飲料などの幅広い製品を手掛けています。農業分野では、二酸化炭素を供給することで、植物の成長を促進する栽培技術を提供しているほか、北海道や長野県の自社農園で野菜の生産にも取り組んでいます。また、農業の効率化支援のため、東京大学と収穫代行や生育予測の共同研究を行っています。養殖事業も展開しており、サーモンの養殖に高濃度酸素を供給する技術を活かしています。
 医療分野では、酸素ボンベや酸素濃縮装置を提供しており、軽量化した在宅医療用製品もラインアップしています。
 海外でも、インドにおける製鉄向けの酸素供給や北米での産業ガス事業など、グローバルに事業を展開しています。
 同社では地球環境への配慮として、カーボンニュートラルの実現にも力を注いでいます。北海道では、牛の排泄物を発酵させて作るバイオガスからバイオメタンガスを製造するプラントを運営。小規模農家と連携し、排泄物の収集や再利用を支援、生成したバイオメタンは工場の燃料として活用されています。大阪・関西万博にも出展し、未来の食文化や環境技術を紹介。CO2回収装置の展示や、実際に回収したCO2からドライアイスを製造、会場内で冷却用として活用する取り組みも行っています。
 その他、地域事業会社を中心に、各地域の自治体支援やスポーツ協賛などの社会貢献活動も積極的に推進しています。
 同社は創業以来、人々の暮らしや産業を支える基盤として事業を展開し続けてきました。今後も、空気や水といった基本的な資源を活用しながら、社会にとって「なくてはならない存在」であり続けることを目指しています。

 

国際くらしの医療館・神戸の概要
 国際くらしの医療館・神戸は、エア・ウォーターの「ヘルス&セーフティー」事業を推進する拠点として、2019年5月に開設しました。医療と防災の両領域を支える多様な機能を備えた、同社のウェルネス分野における中核施設となっています。
 同施設は、神戸市の「神戸医療産業都市」に位置しています。この地域は、阪神・淡路大震災の復興事業の一環として整備され、現在では研究機関や高度専門病院、医療関連企業など約370の団体が集まる国際的な医療・健康産業の拠点となっています。医療館もその一員として、人々の健やかな暮らしを創造する研究開発拠点というテーマのもと、多様な事業を展開しています。
 建物は地上5階建てで、各フロアはエア・ウォーターグループの取り組む医療関連サービスの提案や、歯髄再生治療の研究・開発、医療・介護製品の展示紹介が行われているほか、病院設備と同様の手術室やICU(集中治療室)を備えたシミュレーションセンターも設けられています。
 研究開発の拠点であると同時に、教育・人材育成の場としても活用されており、地域医療の高度化と安全・安心な暮らしの実現に貢献しています。

見学の様子

医療器材の洗浄 ― 滅菌センター
 参加者は、初めに滅菌センターを見学しました。滅菌センターは、医療機関で使用された器材を安全に再使用できるよう、洗浄・組み立て・滅菌・点検・配送・回収といった一連の実務を行う専門施設です。医療現場では、メスやはさみなど体に直接触れる器具が日常的に使用されますが、それらを次の患者にも安心して使用するためには、確実な滅菌処理が不可欠です。
 医療機関内にも「中央材料室」と呼ばれる滅菌室がありますが、処理量や設備面の制約から、全ての処理を院内で完結することが難しいケースもあります。そこで、こうした一連の作業を専門的に請け負うのが滅菌センターの役割です。
 エア・ウォーターは全国で23カ所の滅菌センターを展開し、サービスを提供しています。
 見学当日は、実際にスタッフが滅菌作業を行っている様子を見ることができました。機材、器具の仕分け、洗浄、滅菌、パッキングなどの工程が、それぞれのエリアで丁寧に実施されている様子は、作業の専門性と徹底した衛生管理の重要性を実感させるものでした。
 センター内は3つのエリアに分かれています。まず、使用済みの機材が搬入されるエリアで、仕分け作業が行われます。分解が必要な器具はここで分解され、細かい部分の洗浄や作業員による手洗いなどの前処理が施されます。続いて、洗浄機を通じて自動的に機材が中央の洗浄エリアに送られ、洗浄・乾燥が行われます。さらに滅菌処理後、滅菌済みエリアに移され、パッキングが行われます。
 滅菌済みかどうかは、パッキングのシールにつけられた黒いラインで判別できます。これは視覚的に確認できるようにするもので、安全管理の重要なポイントです。また、滅菌処理には専用の検査機能もあり、滅菌器に投入する際には、検証用の菌を一緒に入れて滅菌効果を確認する工程も組み込まれています。
 素材によっては高温処理ができないため、高圧蒸気ではなくガスを使用した滅菌が行われることもあります。施設の空気管理にも配慮がなされており、HEPAフィルターなどを用いて滅菌後の器具に菌が再付着しないよう管理されています。

 

歯髄再生治療への取り組み・くらしの医療
 続いて、歯髄再生治療への取り組みやその必要性について、プロジェクションマッピング、展示や模型を通じて解説が行われました。近年では、歯の神経である「歯髄」を再生させる「歯髄再生治療」の実用化が進められています。
 虫歯が重症化すると、神経(歯髄)にまで感染が及び、激しい痛みを伴います。現在の一般的な治療では、感染した神経を抜き取り、代わりに人工物を詰める方法が取られますが、神経を失った歯は水分や栄養が行き届かず、もろくなりやすいという欠点があります。結果として、数年後に歯が割れたり、抜歯が必要になったりすることも少なくありません。
 そうした課題を解決する新しいアプローチが、「歯髄再生治療」です。この治療では、不要になった親知らずや乳歯、矯正治療で抜いた歯などに含まれる「歯髄幹細胞」を使用します。幹細胞を採取・培養し、それを歯の根の中に移植することで、自身の体の幹細胞を呼び寄せ、神経や血管を再生させるという仕組みです。つまり、歯を“生きたまま”保つことが可能になるのです。
 現在はまだ保険が適用されておらず、自由診療として提供されています。治療費は1本当たり60〜100万円程度とされていますが、東京・大阪・名古屋などの都市を中心に、全国27カ所(2025年4月時点)の歯科医院で治療が始まっており、実用化が進んでいます。
 また、将来的な治療に備えて、抜いた歯の幹細胞を長期保管する「歯髄幹細胞バンク」の運用も始まっています。これにより、いざというときに自分自身や家族のために幹細胞を活用できる体制が整いつつあります。
この歯髄幹細胞は歯の再生にとどまらず、骨や神経の再生、さらには脳梗塞や脊髄損傷といった全身の再生医療への応用も期待されています。ラットを使った実験では、幹細胞の移植により運動機能が回復する例も報告されており、今後の人への応用が注目されています。
 同じフロアでは、衛生・介護関連製品の展示も行われており、参加者は実際の製品を見ながら説明を受けました。災害時の避難所や在宅療養などで活用されている酸素濃縮器も紹介され、コロナ禍では病院に入れず自宅やホテルで待機していた方々に対し、提供するケースもあったそうです。
 また、手指消毒用のアルコールジェルや、スパイラル形状で汚れを絡め取る口腔ケア用品、ラテックス手袋などが展示されており、各製品の特徴や使い方について解説がありました。さらに、介護用の特殊浴槽についても紹介され、介護現場のニーズに即した設計がされていることを実感することができました。

 

8K映像・周術期医療
 見学の最後は、8K硬性内視鏡や手術前後の周術期医療についてシミュレーションで体験しながら、理解を深めました。8K硬性内視鏡で撮影された手術映像は、モニターで鮮明に再生され、血管や神経、膜の繊維まで立体的に映し出される高精細な映像です。従来の映像と比較してもその差は歴然であり、医療教育や術中の可視化において大きな効果が期待されています。特に腹腔鏡手術のように身体への負担が少ない低侵襲手術では、視野が限られるため高解像度のカメラは不可欠です。拡大してもぼやけず細部まで確認できる8K映像は、術者の判断を支える強力なツールとなります。
 手術室の構造についても紹介されました。機器が多い中、電源やガス管などをペンダント(吊り下げ式)で1カ所にまとめ、コード類の絡まりを防ぐ設計が施されています。また、停電時でも命に関わる機器を守るため、非常用電源に自動的に切り替わる仕組みや、手動で扉を開けられる安全設計を参加者は体験することができました。
 ICUのシミュレーション施設では、病院のリニューアルや設計時に、実際の医療行為が可能かどうかを検証できる仕組みが紹介されました。また、実用化には至っていないものの、天井にモニターを設置し、患者が横になったまま自分の好きな映像を視聴できるようにすることで、早期回復を支える環境づくりにも取り組んでいるそうです。
 こうした多くの工夫が凝らされた設備を見学し、参加者からは大きな感心と期待の声が上がっていました。

エア・ウォーターへの質問と回答

社会広聴会員:
新規事業を立ち上げるに当たってはどのような指針を持たれていますか。
エア・ウォーター:
人材や技術の育成を基盤に、社会課題の解決を事業化することを重視しています。牛の排泄物を再利用するなど、地域課題への対応が新たなビジネスにつながる例もあり、こうした取り組みを国内外で展開することも検討しています。また、CO2回収や再生資源の活用など、環境・サステナビリティへの取り組みも進めています。社内では、再生木材とプラスチックを組み合わせた素材「エコロッカ」で作られたSDGsバッジの着用を通じて社員の意識を高め、自分ごととしてサステナブルな視点を事業に取り入れる動きが広がっています。

 

社会広聴会員:
歯髄再生治療の普及にはどのような課題がありますか。
エア・ウォーター:
歯髄再生治療は「第二種再生医療」に分類されており、医療機関が治療を始める際には国の厳格な審査が必要です。申請にかかる費用も高額で、手続きの負担が大きいことが普及の大きな壁となっています。また、治療費用が医療機関によって異なるため、患者にとっては依然として高額であることも課題です。そのため、歯科医師側も価格面での提供に悩みを抱えています。さらに、治療自体がまだ新しく、認知度が低いため、今後は関係者と協力しながら普及に向けた取り組みを進めていく段階です。

 

参加者からの感想

●M&Aによる事業領域の拡大と社員のシナジー効果を発揮して課題を解決しながら成長を続けていることが分かりました。施設の説明も素人でも分かる言葉を使って、現物やモデルを見せていただき理解が深まりました。特に歯髄再生治療の実用化は想像していた以上に素晴らしく、この技術が普及すれば、歯科医療の選択肢が広がると感じました。
●歯髄再生治療について、画期的な技術であることを改めて実感しました。薬機法による参入規制や、歯髄幹細胞バンクの整備など、課題はあると思いますが、治療例が増えて普及していくことを期待しています。また、海外事業については、特にインドへ注力しているとのことで、今後の事業展開にも注目したいと思います。

 

エア・ウォーター ご担当者より

 当社は、「地球の恵みを、社会の望みに。」というパーパスのもと、暮らしや産業に欠かせない事業を展開しております。今回の懇談会では、皆さまとの対話を通じて、当社の取り組みをご理解いただくとともに、貴重なご意見を頂戴することができ、大変有意義な時間となりました。今後も、皆さまにとって「なくてはならない存在」であり続けるために、こうした対話の機会を大切にし、より良い企業活動へとつなげてまいります。

お問い合わせ先
経済広報センター 国内広報部
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