企業と生活者懇談会
2001年2月19日 大阪
出席企業:消費科学研究所
見学施設:消費科学研究所、ATCグリーンエッコプラザ

「環境と品質」

消費科学研究所からの説明
 私ども「消費科学研究所」は、1927年、大丸大阪店(現 心斎橋店)に設置された染色試験室・衛生試験室がスタートだ。1717年に創業した大丸には 「消費者にお届けする商品とサービスの充実を何よりも優先することで私たちも栄える」という"先義後利"の経営理念があるが、私どもの理念も同じである。
1986年に大丸から独立した。業務の内容は変わらないが、取引先は大丸に限らず、他の百貨店やメーカーなど多岐に亘っている。あくまで、消費者に安心し て商品を購入していただくための、縁の下の力持ちでありたいと考えている。私どもでは、商品開発のための基礎研究(使用素材や強度など)や製品化前の品質 チェックのほか、販売した商品に対するお客様からの苦情に基づいた製品検査なども行なっている。こうした検査結果を、お客様の立場でメーカーにフィード バックし続けている。
 現在は、環境負荷ということが最も重要な課題になっており、環境問題を考えて使用素材の変更を提案したり、環境負荷を減らす商品への変更を提案する等し ている。当然私どももグリーン購入やグリーンコンシューマーとしての活動を自ら実践している。良い商品を提供することが地球環境保全にもつながるという信 念のもと、お客様から信頼される企業でありたいと考えている。
消費科学研究所への質問と回答
1.商品開発のための試験機
レポーター:

 「多方向引張試験機」というものがあったが、消費科学研究所も大丸と取引のある各メーカーも同じでないと、パンティーストッキングなどの良品・不良品のテスト基準が不明確になると思うが。

消費科学研究所:

 多方向引張試験機は、私どもとメーカーにしかない、より専門的な商品開発用の試験機で、ファンデーションやガードルなど伸縮素材の商品開発のために作ったもので特許を取っている。しかし、この試験結果をもって商品の良品、不良品の基準にはしていない。パンティーストッキングにも使えないことはないが、パンティーストッキングの場合、何か当たると破れたり伝線が走ったりする。また縫製の問題もあるので、それはまた別の評価の仕方をしている。ファンデーション素材、ガードルなどは何回もいろいろな方向から引っ張り、ウレタンなど伸縮素材の切れや劣化などを評価する。より品質の高いファンデーションを作るための試験機器であると理解いただきたい。

2.どのような人がモニターになるのか
レポーター:

 市場に出る前の製品のユーザーテストを行なっているというが、具体的にどのような人々がモニターをしているのか。また、商品開発の際の消費者モニターはどのような人を選定しているのか。

消費科学研究所:

 ユーザーテストでもモニターテストでも、調査目的に合った人をどのように探すかがポイント。商品によっては大学の教授を通して研究室の女性や、民間の調査機関、各種団体、例えばNACS(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会)などにお願いする場合もある。パンティーストッキング、衣料品、浄水器、靴、補聴器などそれぞれ商品の性格に応じてモニターの選定も異なってくる。

3.過剰表示-衣料のドライクリーニング
レポーター:

 衣料の洗濯表示について。最近はいろいろな繊維が出てきたり、また織り方も増えてきたためか、たとえば綿表示なのに「ドライクリーニングのみ」という表示もある。ところが実際に洗濯機で洗ってもそれほど型くずれも色落ちもしない。これは、過剰表示ではないか。消費者としては表示に従わなければと考えてしまう。安い服を買っても、クリーニング代が高いものになってしまうようでは困る。表示基準はあるのか。JIS規格化についてはどうなのか。

消費科学研究所:

 取り扱い絵表示はメーカーが付けることになっている。綿素材は本来水で洗えるが、商品のグレードや品質のレベルによっては、ドライマークが付けられることがある。ドライクリーニングならば色が落ちたり、収縮することも少ない。しかし、夏物の衣料が水洗いできないのでは困るし、汗による汚れはドライでは落ちないので綿素材はやはり水で洗うのが本来の姿であると私どもは考えている。従って、綿であれば水で洗っても色落ちしない品質に仕上げた上で商品を出して欲しいとメーカーに要請している。またドライクリーニングはドライ溶剤を使用するので、下水等に流れ出た場合には、環境汚染の問題にもなり、この点も考えて行かねばならない。

消費科学研究所:

 洗濯表示等の表示内容のJIS規格化はない。しかし環境問題から業界では「水洗い」という機運は高まっている。しかし、私どもとして、その前にしなければならないことがある。それは、価格の高い商品ならまだしも、安いものまでドライ表示になっていることに対して、メーカーを指導していかなくてはいけないということだ。私どもでは4年前、松下電器産業とタイアップして、ドライ表示のついた商品でも自宅で洗える洗濯機を開発してきました。
 クリーニング業界も、環境を考えてこれまでと違う溶剤を検討していこうという機運にある。ドライクリーニングの溶剤については30年前には何も問題になっていなかった。しかし時代が変わってきて環境問題として顕在化した。時代が変われば基準も変わってくる。ご指摘のJISでの規格化というご意見は全くそのとおりである。しかし、そこまではまだ一足飛びに行っていないのが現状である。

4.グリーン購入の流れ
レポーター:

 21世紀は環境問題が深刻になることが予想されている。既に一部の消費者や会社の商品購入基準として、商品の環境負荷を問題にしてきており、グリーンコンシューマーやグリーン購入が着実に増えている。商品の品質を検査するときに以上のような観点からどのように取り組んでいるのか。

消費科学研究所:

 グリーン購入とは環境に優しい資材を買おうということだが、最近スーパーではマイバッグを持参した方へのポイントカード制などを取り入れている。百貨店にもそうした流れが出ている。 よく消費者団体の方とお話をするが、その中でも百貨店=過剰包装という認識をされている。消費者の皆さん方が声を大にして「過剰包装反対」を言っていただければ私どもは助かる。お客様に求められれば紙バッグをお渡ししないわけにはいかない。仮にお渡ししないととしたら、苦情を言われる。今、百貨店が積極的に取り組んでいるのは、お客様が買い物をされて紙バッグをお持ちのときは、次に買われた商品を「そこに入れさせていただいてよろしいですか」というお断りをして入れさせてもらっている。このように非常に神経を使ってお客様対応をしている。 また、お客さまがギフトにしてほしいと言われているのに、このままどうぞお持ち帰りくださいというわけにはいかない。アメリカのようにギフト用の包装はお金をいただけばいいのかも知れないが、日本の場合、まだそこまでいっていない。欧米とは生活文化の違いがある。 しかし無駄なものはやめていこうという時代の流れの中で、百貨店も中元・歳暮のギフト商品を中心に過大包装をやめ、適正包装を進めている。行政からも、従前に比べると中元・歳暮などのギフト商品の過大包装が少なくなっていると評価されている。

5.消費科学研究所のマネジメント
レポーター:

 従業員60名を抱える企業として、消費科学研究所の採算性と顧客獲得(マーケティング)の方法についてうかがいたい。

消費科学研究所:

 15年前に大丸から独立し別会社になったが、資本金4億5000万円は100%大丸の出資である。とにかく採算は取らなくてはいけないということで取り組んでいる。 試験機器は買うことができるが、研究者は10年かかってもなかなか育成できない。流通業の研究所として1つの部門に限って深くやるのであれば、それほど多くの人は要らないが、分野は衣食住にわたっており、それらの分野を包括的に理解できる人材を育てていこうとすると、それなりの人数になってしまう。これまでずっとその人材に投資をしてきている。 また試験機器にしても、何億円もする高価な試験の機械を購入するわけにはいかない。毎日必要であれば別だが、1年に1回しか使用しないようでは買えない。そういう場合は大阪府が4~5年前に和泉市に設立した「大阪府立産業技術総合研究所」を活用している。ここは、雪を降らせたりできる実験装置等も完備している。この「大阪府立産業技術総合研究所」はどちらかというと金属、材料評価などの分野が強い。私どもは百貨店の研究所なので生活必需品が中心であり、得意分野が違うので、相互補完の協力をしている。 当社に新人が入った時もそこで研修をさせてもらっている。交流しながらレベルアップを図っている。
 人件費はどんどん高くなるが、長くやっているので設備はほとんど減価償却を終えており、新しい設備を上手に補充しながらやっている。全体としては、何とか採算が取れているというのが現状である。

6.最新の環境情報収集に留意
レポーター:

 環境配慮型の商品開発支援に関して、検査・試験・評価業務の判断基準はグローバルスタンダードになっているのか。たとえば、かつて日本ではゴルフクラブのメッキにシアン化合物を使っていたが、酸性雨が問題になっていたドイツやオーストリアでは、すでに禁止されていた。そうした先行的な情報を収集して対応するような態勢を取っているのか、あるいは日本の基準にのっとっていればいいというということなのか。

消費科学研究所:

 スポーツ用品はおっしゃるとおりグローバルスタンダードになっている。 こんな問題もある。たとえば、食品は食品衛生法で守られている。ところが、旅行用品の売り場でパッケージに入った食品も売っている。その売場の人たちは、メインの商品の方に目が行っているため、食品衛生法は眼中にない。 このように、一方の商品には一生懸命ケアするが、他方の商品には無関心になってしまうような商品についてガードするのも私どもの仕事だ。そういう観点から、国際的なスタンダード情報の入手には常に注意しており、今でも衣料品の表示に関しては全部そろっている。そういうことについては十分にケアしていると申し上げられる。

7.「消費期限」と「賞味期限」
レポーター:

 生鮮食品の産地・成分・賞味期限の表示は、消費者にとっては有り難いが、賞味期限を過ぎた食品を捨てるのに抵抗がある。どんな基準で設定しているのか。

消費科学研究所:

 消費期限とは、豆腐などその表示期限を過ぎると商品の劣化が急速に起こるという期間で、賞味期限というのは、メーカーが商品に表示してある保存方法に従って保管したときにおいしく食べられる期間だ。実はこれには安全率を見込んでいるので、賞味期限が切れたから即商品が不良になるということはない。賞味期限の表示されているものについては、私どもの考えでは適正に保管されれば、大体5割増しぐらいの保存期間内であれば、商品としては大丈夫と思っている。
 賞味期限が切れた商品については、開けていただいてその商品を五感で確かめていただくのが一番確かである。それで異常がなければ、食べて食中毒になるとことはまずない。この賞味期限は、メーカーが科学的な根拠に基づいて表示することになっている。決められた保管をされない場合もあり、安全率を見込んで表示されているのが現状である。

8.輸入食料のチェック
レポーター:

 ここ5~6年世界から食料の輸入が増えている。輸入食品について、税関での品質・添加物の有無等の検査方法を教えてほしい。

消費科学研究所:

 輸入食品については、輸入の都度事前に検疫所に輸入届けを出す。その書類に基づいて検疫所で直接検査をすることもあるし、行政から自主検査(これを命令検査と言う)をやってきなさいということもある。 検疫所は全国に13カ所、支所が14カ所、その他出張所がたくさんある。検疫所等は、空港や港にある。食品は、日本に輸入される時には、必ず検疫所の検査を受け、食品衛生法に合致しなければ廃棄されたり、輸出国に積み戻されたりする。
 命令検査による、添加物・品質の検査は、食品衛生法に則って厚生労働省指定の検査機関で行なうことになっている。
 厚生労働省指定の検査機関とは、第三者的な公平な立場の公益法人、第三者法人であり私ども、消費科学研究所ではできない。
 毎日食べる米とか野菜など栽培するものは、その土地の気候、風土の影響を受ける。やはり旬の野菜とか果物を摂るのが体のためには一番いい。例えば冬に出てくるカボチャであっても、旬のものであればこれは生理作用からいって最も有効である。トマトやイチゴなど年中あるものでも、旬のものが一番美味しいと思う。

9.グリーンコンシューマーを目指して
レポーター:

 消費科学研究所の存在を知らなかったが、消費者の立場に立ってさまざまな角度から貢献していることを知った。貴社の担っている役割を一般にもっとアピールすべきだと思う。そのためには学校や団体、グループに見学してもらうことが必要。暮らしの中で身近な存在であることが感じられるイベントの充実にも力を入れるべきだ。また高齢社会に突入した今、めまぐるしい変化に対応しきれず取り残されていく生活者が増えている。弱者の声に耳を傾け、気配りの効いた情報や優しいアドバイスの提供にも配慮するべきではないか。

消費科学研究所:

 有り難い意見でそのとおりである。学校の先生、高校生、大学生、それから消費者団体、行政などの方が例年300~400 名見学にみえる。そのような方々にできるだけPR、口コミでのPRをお願いしている。若いうちに興味を持っていただけるように学校教育の一貫にしてもらうことが一番大事だと思っている。  見学者の方から「これだけ努力して作っている商品ということがわかったのでもう少し大切に使いたい」というような声を伺った時は、本当にやって良かったと思う。
 当社の役割だが、 大丸は280年の歴史があるが、消費科学研究所はそのうちの70年の歴史を共有している。大丸の経営理念は「先義後利」。要は顧客サービスを先にやりなさいということだ。これを守り、または守らせてきた歴史がある。 それを実践した例がこの研究所にもある。それは、現在では当然のことになっている商品の悪い面を表示する“デメリット表示”である。昭和40年のころ、若い人たちはジーパンに魅せられた。映画「エデンの東」でジェームス・ディーンがジーンズをはいていたことから、若い人は輸入品のジーパンを欲しがった。大丸も仕入れて売った。すると、苦情が来た。紺の色が落ちたという。「大丸たるものがなぜそんなものを売るのか」と随分怒られた。しかし、洗えばジーパンの色は落ちるものだということをきちっと事前に表示すれば済むことである。そこで私たちは“デメリット表示”をして、事前に消費者に知らせようとした。しかし、それを出したところ始めは業界からいろいろ批判された。「そんな表示をすると商品が売れなくなる」と。 われわれは品質が悪いと言っているのではなく、いい商品だが洗えば色が落ちるということを明確にしたわけである。薬も必ず副作用がある。これがデメリット表示という言い方で、もう25年前のことであるが、時代を先取りしたという意味で、私どもの1つのエポックになっている。
 これから最も大事なことは、子供たちに美しい地球を残してあげることだ。そのためには、皆がグリーンコンシューマーたることだ。この研究所は大丸の良心だと思っている。いいものを世に出していこうというこだわり、それが地球環境問題につながる。大きいことを言う必要はない。そういう考え方を子供たちにどうやって教えていくのか。それが、グリーン購入、グリーンコンシューマーを実践することではないか。消費者が一番強い時代が21世紀。環境に配慮していない企業の商品は買わなければよい。買わなければ、そういう企業や商品は自然消滅していきます。
 今後とも、より良い商品のために努力をしていきたいと考えている。

お問い合わせ先
(財)経済広報センター 国内広報部
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