「暮らしを支える産業設備の技術を考える」
8月1日、神奈川県横浜市にある千代田化工建設の横浜本店で「企業と生活者懇談会」を実施しました。社会広聴会員21名が参加し、プラント・エンジニアリングなどについて映像を交えた説明を受け、館内を見学した後、質疑懇談を行いました。
千代田化工建設からは、亀井信寧副社長、蓮見昭夫CSR総室長、村田卓弘広報室長、亘理隆三社会・環境室長、渡辺覚社会・環境室シニアマネジャー、中野尚 武総務サービスセンター担当部長、高須潤空間設計センター主任、岡田佳巳研究開発センター課長、服部圭輔エネルギー・環境プロジェクト部課長、総務部の早 出のり子氏が出席しました。
千代田化工建設からの説明
■千代田化工建設の歩み■
千代田化工建設は、三菱石油(現新日本石油)の工務部長であった玉置明善の「戦後の石油精製事業再開に備え、また産業設備専門の高度な技術会社を創設する」という熱意から、1948年(昭和23年)に誕生しました。
日本の石油産業と共に成長した千代田化工建設は、やがて事業領域をプラントの設計・調達・建設に特化し、海外に進出して建設工事を受注するようになりました。1973年(昭和48年)にはアラブ首長国連邦向けLNG(液化天然ガス)プラントを受注し、1980年代には石油や石油化学分野以外に国内で一般産業や医薬品のプラントのエンジニアリングにも参入するなど、事業の多角化が進みました。
しかし、1990年代に入ると低コストを武器とした韓国などの企業の参入でプロジェクトの採算性が悪化し、苦しい時代を迎えました。現在、経営・財務の基盤を強化し、収益性を回復した千代田化工建設は、地球環境保護の世界的な高まりによるクリーンエネルギーLNGの市場拡大の流れを背景に、さらなる事業展開を図っています。
■プラント・エンジニアリング事業について■
プラントとは、工場施設・機械の複合体であり、設備・装置を含む生産設備一式をいいます。このプラントの計画・設計や建設などを通して、お客さまの抱える経営課題に対し、解決の具体案を提供するのがエンジニアリング事業です。
一方、エンジニアリング事業者自体は工場を持つことはなく、また建設会社や機械・装置のメーカーとも異なる存在です。
千代田化工建設はお客さまの事業化計画や基本計画から設計・調達・建設にとどまらず、オペレーションやメンテナンス、さらには廃棄まで、プラントのライフサイクル全体を対象に、エンジニアリング・サービスを提供しています。これを「プラント・ライフサイクル・エンジニアリング(PLE)」といいます。
■※3D CADを活用した設計■
プラントの設計は多数の設計者が何台もの3D CADを使って設計を進めます。設計の進捗につれて、コンピューター画面上には実際の工事現場のようにプラントが視覚的に組み上がっていきます。この画像は様々な角度から立体的に見ることが可能なので、 設計段階でプラントの運転・操作・安全性をあらかじめ確認し、設計に反映することが可能になります。
また、3D CAD上の図面には設備や装置に関する情報が集約されているので、設計の段階やプラント建設の現場で3D画面を随時確認することにより、施工ミスを避けることができます。手書きで図面を描いていた時代は、現場での施工において、配管工事作業の15%前後が手直しにあたる作業でしたが、現在の手直し率 1~3%程度にまで減少しています。
※3D CAD
3Dは三次元、CADはコンピューターによる設計支援。立体の設計を行う場合、3D CADで情報を入力すると、設計対象がコンピューター画面上に立体的に表示され、この画像を回転させながら、様々な角度から設計を検討することが可能。
■環境への取り組み■
千代田化工建設は、(1)プラントの設計・調達・建設の際の環境保全、(2)オフィスにおける環境負荷の低減、(3)環境技術の開発を通じた貢献、の主に3つの分野で環境活動を推進しています。
例えば、現在進行中の「サハリン2 LNGプロジェクト」では、建設現場に降った雨水をいったん貯水池に貯めて濁った水を沈殿させ、浄化してから川や海に放流したり、敷地内の緑化などを進めています。
また横浜本店では、コンピューターで全館のエネルギー消費量を測定しながら、太陽光・風力発電などの省エネ設備の稼働効果を把握しています。また、屋上緑化やゴミの分別回収、節水など、多面的に環境保護に取り組んでいます。
環境関係の技術開発としては、水素貯蔵・供給を触媒反応を用いて行うケミカル・ハイドライド・プロセス、天然ガスと炭酸ガスから合成ガスを製造する炭酸ガス・リフォーミング・プロセス、排煙脱硫などがあります。
千代田化工建設への質問と回答
社会広聴会員:
プラント建設の都度、異なる設計を行い、お客さまや事業の関係者と打ち合わせをして建設を進めるのは、工期や納期が大変厳しいのではないかと思いますが、いかがですか。
千代田化工建設:
お客さまに対しコスト・品質・スケジュール管理を徹底し、納期通りにプラントを納める事が信頼を獲得する鍵ですので、プラント・エンジニアリング事業にとって、納期に間に合わないことは致命的です。そこで当社では、プラント建設の進捗状況に応じ多面的にチェックすることにより、納期の厳守を徹底しています。
社会広聴会員:
プラント建設プロジェクトを受注する場合、競争入札の場合と、お客さまから1社指名で受注できる場合があるかと思います。指名による受注は、お客さまからの信頼度の目安になるかと思いますが、どのような状況でしょうか。
千代田化工建設:
お客さまとの信頼関係を築き、厳しい要求にも応えられる能力を向上させることによって指名される確率の向上を図っています。特にLNGプラントについては、高度な技術と豊富な経験を持って設計・建設できる会社が少ないので、1社指名で受注できる確率が高くなります。
社会広聴会員:
プラント建設の際、周囲の自然環境の保全に非常に留意されていることが分かりましたが、加えて完成したプラントの外観自体をデザイン的に優れたものにすることによって、周囲の景観と一層調和した施設となり、受注上プラス要因になるのではないでしょうか。
千代田化工建設:
現状の厳しい競争下では、まず費用や納期・性能といった基本仕様の中で最大限努力してお客さまの要求を満たすことが受注の前提になりますが、外観デザインは従来なかった観点なので、今後検討したいと思います。
社会広聴会員:
高い専門性を必要とし、また国際的に展開される事業においては、どのような点に留意して人材育成に取り組んでいますか。また、女性社員の採用状況はどのようになっていますか。
千代田化工建設:
まず技術者について、高度な技術を継承・発展させるため、教育とOJTを併用しております。弊社には、高度な技術を身に付けた技術者を「技師長」に任命し、仕事を通じて後進に技術を伝えていくという制度があります。今後、この専門職制度を人材育成の観点でより有効に活用していきたいと思います。
また、海外の建設現場の作業者は、極力現地で採用し、個々のプロジェクトごとに現地の実態に合った養成を現地で行うようにしています。
女性社員については、プラント建設という企業であることから、人数が少ない時代もありましたが、現在では求人に対して大変優秀な女性が多数応募してきていますので、バランスのとれた採用を行っています。
社会広聴会員:
海外で働く社員の留守家族は大変だと思いますが、支援策などとっているのでしょうか。
千代田化工建設:
海外勤務者については極力家族と一緒に赴任するよう留意していますが、社会生活上の安全の観点から、家族を連れて行けない地域や国もあります。その場合は、赴任期間があまり長期になり過ぎないようにしたり、定期的に帰国する機会をつくる制度を実施しています。
社会広聴会員:
懇談を通じて、事業内容やプロジェクト推進の一端を理解することができました。この内容を多くの人に、特にこれから就職する若い人に知っていただくことが大変有益かと思いますが、そのような活動を行っていますか。
千代田化工建設:
昨年度(2005年度)から、横浜市環境創造局のホームページにある「よこはま新エネルギーマップ」に省エネ設備を掲載し、見学の受け入れを開始しました。今後一層の受け入れの拡大を図りたいと思います。また、インターンシップ・高校生職場体験プログラムなどの社会活動を実施していますが、より多面的な活動について検討していきます。
参加者の感想から
●プラント・エンジニアリング企業がどんな考え方や活動をされているのか知りたくて参加しました。懇談に際し、最初に避難経路の説明があり、安全重視の姿勢を感じました。
●創業時から社是として、技術による社会貢献と人の尊重を掲げていたことを伺い、感銘を受けました。
●亀井副社長はじめ、企業側の発言や対応に大変好感を持つことができました。信頼に向けて努力する企業姿勢を身近に感じ、大変有意義でした。
●プレゼンテーションと活発な質疑のおかげで、生活者とは直接接点の少ない企業活動の概要や、全く知らなかった「エンジニアリング」について理解でき、感謝します。
●日本では、インフラ関連産業の市場は縮小していくと考えていましたが、特に水素を用いた代替エネルギーの可能性のお話を聞き、認識を新たにしました。
●売上高の70%が海外という国際企業で、言葉の違い・気候など、リスクやトラブルの要素がたくさんある中で、目的を完遂する努力に敬服します。
お問い合わせ先
(財)経済広報センター 国内広報部
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