企業と生活者懇談会
2002年6月5日 東京
出席企業:森永乳業
見学施設:東京多摩工場

「みんなの"おいしい"を目指す牛乳づくり」

森永乳業からの説明
■会社概要の説明■
 私どもは1917年に、日本煉乳としてスタートしました。その後、日本初の育児用ドライミルクや牛乳、チーズ、ヨーグルトなど取扱い商品を拡大し、1949年に森永製菓から独立して、森永乳業が設立されました。
 牛乳は、栄養バランスの良さを最大の特徴とする、神秘に満ちた食品です。乳脂肪分や各種ビタミン、カルシウムなどがバランスよく含まれています。しかも消化吸収に優れているのです。通常の食事で栄養素をバランスよく摂取することは難しいのですが、牛乳を1本追加するだけで、栄養バランスが著しく改善されます。
 私どもは、乳のもつ様々な機能を研究し、商品開発を進めてきました。現在、最も研究に力を入れているのが「ラクトフェリン」という、乳に微量に含まれる多機能たんぱく質です。赤ちゃんは、生まれてしばらく母乳だけで育ちますが、その間はほとんど病気にかかりません。これは母乳に含まれるラクトフェリンなどの抗菌機能や免疫機能などによるものだと考えられています。国立ガンセンターなどの最近の研究では、このラクトフェリンについて、ガンの予防やC型肝炎にも効果があると言われています。また、悪い細菌からお腹を守るビフィズス菌を増やす力も持っています。ラクトフェリンのこういう効果に注目し、私どもは、これまでドライミルクに添加してきましたが、現在はヨーグルトにも添加し、「ラクトフェリンヨーグルト」として発売しています。
 次に品質管理についてご説明いたします。私どもの会社は1955年に粉乳中毒事件(いわゆるヒ素ミルク事件)を起こしてしまいました。私どもはこの事件を真摯に受け止め、品質管理には万全の態勢をとっております。例えば、牛乳パックなどに表示されている「HACCP」マークはご存知だと思います。これは、製造工程の衛生管理手法であるHACCPを守って製造していることを示すものです。さらに私どもは、衛生面に加えて品質面の管理も強化した製造工程管理基準を作成し、森永乳業の頭文字をつけて「MACCP」として社内に義務付けています。同時に、これがきちんと実施されているかは、社内部門ではなく、社外の機関に厳しい監査をお願いしています。その結果は、当社社長に直接報告してもらっています。それだけではなく、出来上がった製品の品質についても、品質保証部が強い権限をもって常時監査しています。経営陣は、品質管理に対する強い意識を一層向上させるように、全国の工場へ頻繁に足を運んで現場社員を激励するとともに、品質管理体制をチェックしています。
   おかげさまで私どもの製品は、多くのお客様にご愛顧いただいております。ロングセラーとなったマミーやクリープのほか、最近では、「マウントレーニアカフェラッテ」や「アロエヨーグルト」が好評をいただいております。このアロエヨーグルトは、からだに良いことがテレビ番組で紹介されて以来、従来の4割増の受注があり爆発的なブームになっています。また、あまり目立ちませんが、業務用チーズの分野では1位のシェアとなっております。
 あわせて、有力ブランドとの提携も積極的に行なっております。飲料事業の「サンキスト」や「リプトン」、チーズ事業の「クラフト」、ヨーグルト事業の「スイスエミー」などです。これらのブランドと提携することで、お客様の多種多様なご要望にお応えしています。
森永乳業への質問と回答
レポーター:
製造している工場名や問い合わせ先が商品に表示してあると安心できるのだが。
森永乳業:
商品の内容に関するお問い合せは、お客さま相談室で承っており、ほとんど全ての商品に、そのフリーダイヤル番号を記載しております。
製造工場名の表示は、大部分の製品に記号を印字しており、この記号の見方は、私どものホームページで公開しております。例えば、ここ東京多摩工場は「CO」、お隣の大和工場は「MD」です。
ご質問の意図は、パッケージの一括表示欄(商品の目立つところにある、囲みをしてある欄のこと)に記載されていないということだと思います。例えば「○○牛乳」が1つの工場、つまり東京多摩工場だけで製造されていれば、パッケージに予め東京多摩工場と記載することは容易です。しかし、需要期に生産量が膨らむなどの場合に、東京多摩工場のほか他の工場でも生産したり、一時期が過ぎれば、また東京多摩工場だけに生産を集約したりします。生産調整に伴う製造工場の変更の時などに、工場名が予めパッケージの一括表示欄に記載されていると、とても非効率になります。
 
レポーター:
「公正」マークが表示されている製品、されていない製品があるが、表示はどのような基準で行なわれているのか。
森永乳業:
 「公正」マークは、「公正取引規約」に則って正しく製造され、商品の中身について正しい表示がなされている、ということを証明するマークです。この「公正取引規約」というのは、メーカーなどが集まる公正取引協議会で自主規格として作成したもので、公正取引委員会の認定を受けています。現在、飲用乳を製造・販売している、ほぼ全てのメーカーで、製品に表示していると思います。  「公正」マークの表示がない、というのは、発酵乳のことではないでしょうか。発酵乳にも公正取引協議会があり、規約を定めていますが、「公正」マーク制度を採用していないため、発酵乳には表示されておりません。
 
レポーター:
メーカーによって牛乳の味が少しずつ異なるように思う。森永では牛乳の美味しさをどのように追及しているのか。
森永乳業:
まず、牛乳の風味の違いを感じる場合の要因として、1つ目に生乳の成分の変動、2つ目に飲む時の牛乳の温度、3つ目に飲む人の体調や飲む場所・雰囲気が考えられます。1つ目ですが、生乳の成分は季節や地域、使っている飼料などにより変動します。「牛乳」は、成分を一切調整していませんから、生乳の成分変動が牛乳の風味に影響します。メーカーによる違いというよりは、一般的な成分の変動によるものと考えてください。2つ目ですが、同じ牛乳であっても、少しの温度差でさえ、風味は微妙に変わります。3つ目ですが、体温が上がっている時やのどが渇いているとき、リラックスしている時などは、おいしく感じると言われています。
私どもでは、おいしさを求めるために、次のことに努めています。まず、健康な牛の乳は、成分が濃くておいしいです。ですから、酪農家に対して、飼料のやり方など牛の健康管理の指導をしています。次に、搾りたてのおいしさを維持するために、搾乳後は周りの臭いがついたり細菌が増えたりしないように、生乳の衛生的な取り扱いと温度管理を酪農家にお願いしています。そして、当社で受け入れをした後は、温度管理はもちろんのこと製造工程や貯乳タンクの中の空気を無菌化するなど、風味が変わらないように品質管理を徹底しています。
 
レポーター:
牧場で飲む牛乳は、濃厚でおいしく感じる。市販のものは薄めているのか。
森永乳業:
「牛乳」は、法律の定めにより、原料乳に何も加えることができません。逆に何かを加えたりすれば、牛乳とは言えません。牧場で飲む牛乳をおいしく感じるのは2つの理由からだと思います。
1つ目は、開放的で清清しい「牧場」というシチュエーションから得る気分的なものです。2つ目は、最初に口にする上層部に脂肪が浮上して集まっているからです。私どもは、乳脂肪分の消化吸収を助けるため、脂肪を細かくする処理(均質化)を行なっています。一方、牧場での搾りたて牛乳は、この「均質化」を行なっていません。このため最初の一口が、濃くておいしく感じるのだと思います。
 
レポーター:
製品の安全確保のために、脱脂粉乳などの原料は、どのように検査しているのか。
森永乳業:
例えば、脱脂粉乳などの原料を買い入れる場合、工場に納入してもらう前に、まず私どもの研究所で検査をします。原料メーカーからサンプルの提供を受け、品質や安全面の検査を徹底的に行ないます。検査に合格したものだけ、各工場にその原料の受け入れを許可します。 さらにその原料を使用する工場では、3段階で検査をします。第1次検査は、原料メーカーから原料を引き渡される際に行ないます。第2次検査は、原料を引き渡された後に工場の品質管理室が、第3次検査は、実際にラインで使用する前に作業責任者が行ないます。
こうした私どもの製品づくりに対する姿勢の原点は、47年前に発生した粉乳中毒事件に遡ります。仕入れた原料にヒ素成分が混入していたことをチェックできずに製品化し出荷してしまったもので、社会に対し多くのご迷惑をおかけしました。その後、「お客様の信頼あっての森永」「再び同じような事件を起こせば、会社はつぶれる」を合言葉にして、新入社員にも研修時に必ず伝えるなど、経営トップ以下の全社員が意識を共有しています。現在では、こうした品質管理に対する姿勢が会社の遺伝子になっていると言っても過言ではないと思います。
粉乳中毒事件の後、私どもと厚生労働省と被害者の方たちで「ひかり協会」という財団を作りました。設立後30年近く経過しましたが、昨年度も15億円を拠出し、検診・医療や生活保障援助などの救済事業に関わり続けています。
 
レポーター:
乳製品の品質保持期限は、他のものと比べて短いが、自動販売機での販売品の品質管理はどうしているのか。また、牛乳ビンのリターナブルは、どの程度進んでいるのか。
森永乳業:
自動販売機では、ハンディパックの乳飲料「Piknik」など、60日程度の品質保持が可能な商品を中心に販売しております。一方、銭湯などの自動販売機で売っているビン牛乳などは、品質保持期限が一週間程度しかありません。ですから、2日置きなど相当の頻度でチェックし、残った商品は入れ替えをしています。
ビン入り牛乳の殆どは、宅配です。本年3月現在、約4400軒の販売店を通じて190万軒に宅配しています。この宅配ビンは販売店を通じて回収しており、その回収率は概ね100%です。回収したビンは、洗浄してキズの有無などを徹底的にチェックした後、再度の洗浄、殺菌をして再使用しています。
なお、コンビニエンスストアや量販店でビン入り牛乳を販売することは、重たいという理由でお客様になかなか選択されないことと、リターナブルの前提となるビンの回収経路が確立できないという理由で、私どもは行なっていません。
 
レポーター:
牛の乳は、夏は少なく冬は多いと聞いたことがある。一方で牛乳の消費量は夏が多い。この需給ギャップをどのように調整しているのか。
森永乳業:
ご質問のとおり、需要と供給の時期にズレがあります。乳業メーカーは、このズレを解消するために、冬に余る乳を、粉乳やバターにしています。それを夏の需要期に溶かして加工乳にし、牛乳の不足分を補っているわけです。しかし、一昨年の食中毒事件以来、お客様の加工乳離れが進んでおり、牛乳に需要がシフトしています。現在の販売量であれば、原料乳の不足はそれほど深刻ではありませんが、将来は不足するおそれがあります。
もちろん、夏にできるだけ多くの原料乳を仕入れるため努力しています。乳牛は、子牛を産んでから10カ月の間に乳を出します。ですから、この搾乳期が夏に重なるよう、酪農家に種付けの時期を工夫してもらっています。
 
レポーター:
見学したところ、多くの配管が複雑に組まれている。このメンテナンスにミスがあれば事故に結びつくと思うが、どのように検査を行なっているのか。
森永乳業:
原料や冷却水などが通る配管やバルブは、非常に数も多くかつ複雑です。ここに故障が起これば製品の品質に影響しますから、定期的に検査を行ない、故障のおそれがある前に必ず交換するようにしています。
配管は、汚れなどの付着が少ない「継ぎ目なし」の管にしております。日々の清掃は、まずきれいな水で洗ってから、苛性ソーダ水を流して付着した乳分をとります。そして、再び水できれいにしてから、酸性水を流してカルシウムなどの付着物をとり、最後に水洗いします。これをシステムで自動的に行なっており、人間が配管を外して作業をするよりよほどレベルの高い洗浄作業が可能です。また、管の中で原料乳などを流したり止めたりするバルブ個々の動きは全てコンピューター管理しております。万が一故障があれば、機械を止めると同時に警報を発してオペレーターに知らせます。システムと人間の二重チェックになっています。
出席者の感想から
●乳幼児向けの商品が数多くあるが、高齢社会に向かう今、高齢者に特化した商品が少ないように思う。カラダに良いため摂取したい老人も多いはず。握力が弱くても空けやすい蓋など工夫を望みたい。

●今回の収穫は、モノ作りに対する情熱を持つ素晴らしさを社員の方々と共有できたことである。再三強調された「信用の大切さを守る」姿勢にエールを送りたい。

●多摩工場で働く方々の仕事の内容や品質管理に対する考え方、経営の方針のみならず、人柄にまで触れるような話を伺った。森永乳業という会社とその製品に対する親近感が増した一日だった。

●これだけ素晴らしい経営方針や生産体制があるのに、商品パッケージの「morinaga」の標記は小さくて遠慮がちに思われる。信用力を生かして、もっと「森永」の製品であることをアピールしてはどうかと思った。

●時宜を得た有意義な懇談会であった。社員の方々の誠意あるご説明やおもてなしに感謝すると同時に、産業界に対する自分の不信感もかなり払拭されたように思う。
お問い合わせ先
(財)経済広報センター 国内広報部
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