企業と生活者懇談会
2004年5月24日 兵庫
出席企業:奥村組、西松建設、(日本土木工業協会)
見学施設:布引ダム、石井ダム工事現場

「生活の基盤を支える企業を考える」

奥村組と西松建設がそれぞれに共同企業体(JV)の中心となって、施工中の布引ダムと石井ダムで、「企業と生活者懇談会」を開催しました。
今回は、日本土木工業協会の協力のもと、同協会が「土木」に対する理解促進を図るために展開している「100万人の市民現場見学会」と連携して実施しま した。「100万人の市民現場見学会」は、「社会資本整備」の必要性や建設業への正しい理解を求めるための見学会で、昨年も神奈川県の鳥山川遊水地建設工 事現場での「企業と生活者懇談会」を共同で開催しました。関西地区の社会広聴会員18名が出席しました。
JVからの説明
■土木は平和をもたらす■
 土木とは、建設分野の一部門です。建設分野は大きく二つに分かれます。「建築」と「土木」です。「建築」は、ビルや住宅、マンション、工場、病院などの建物を建てる仕事です。一方、道路をはじめ鉄道や港湾、空港、それらに付随するトンネルや橋、ダムや上・下水道、共同溝など、建築以外のほとんどすべてが「土木」の仕事です。
 「土木」を英語では「civil engineering (市民工学)」と言い、「military engineering (軍事工学)」に対応する言葉です。つまり「軍事工学」は破壊の工学・技術であり、「市民工学」すなわち「土木」は、人々が豊かに安心して暮らせるようにする、平和に貢献する工学・技術です。

■布引ダムは104歳■
 布引ダムは、明治33年(1900年)に建設された日本最古の重力式ダムで、100年以上にわたり神戸市民の飲み水を供給してきました。国の登録有形文化財に指定されており、歴史的建造物としての価値も持っています。現在、永久動態保存のため修復工事中です。工事では、堤体の耐震補強のほか、貯水機能を回復させるため貯水池内にたまった土砂の撤去を行っています。また、野鳥観察所・休憩所を設置するなど、水辺環境の整備も併せて行っています。

■最新鋭の石井ダム■
 一方の石井ダムは、最新の土木技術を駆使したダムとして、現在建設中です。この地域を流れる川は、これまで度重なる洪水により大水害を引き起こしていることから、石井ダムは洪水調節を主な目的としています。また、このダムの建設地は神戸市街から近く、六甲山ハイキングコースの途中に位置することもあり、ダム本体の中には多目的ホールが設けられたり、ダム堤体の下流面には遊歩道や展望台が設置されるなど、レクリエーション空間としての役割も果たすことになります。今回はまさに、新旧対照的なダムを見学したといえます。
JVへの質問と回答
社会広聴会員:
修復工事のために100年ぶりに水を抜いた布引ダムの貯水池からは、どんなものが出てきたのですか?
JV:
貯水池にはたくさんの魚がいました。昭和43年に発生した神戸の大水害で亡くなった方々の鎮魂のために、2000匹の鯉が放流されたことから、特に鯉が多くいました。中には体長1 メートルを超える鯉もいましたが、それらは全て明石城公園のお濠などに放流しました。
 
社会広聴会員:
所長として、現場で働く方々に対して、どのように接していますか?
JV:
当社のスローガンに、「親兄弟に対するような温かい思いやりを現場の隅々まで」というものがあります。相手を思いやる気持ちから、作業員に対して厳しくしないといけない時もあります。逆に、良いことをやったらきちんとほめることも大切です。そういったことを自分自身の本心からやらないと、誰もついてきてくれないと強く感じます。
また、現場は事務所棟の隣が宿舎棟になっており、常に緊張感はありますが、気持ちでつき合える仲間が周りにいっぱいいるということもあり、ストレスを感じることはあまりないと思います。(石井ダム所長)
 
社会広聴会員:
JV(共同企業体)について、教えてください。
JV:
JVとは、ジョイントベンチャーのことです。ジョイントは「連結する」、ベンチャーは「危険」の意味で、お互いに手を結び合うことによって、危険を分散するという本来的な意味があります。これは、アメリカのフーバーダムを建設する時から始まった考え方です。
建設業はもともと請負業なので、品物を作り納品して、初めてお金がもらえるのです。大きなプロジェクトでは、それまでに要する巨額の資金や、高度な技術などを確保するため、そのプロジェクトのためだけに2社以上の企業が連結して共同企業体(いわゆる期間を限定した会社)を構成して施工に当たるのがジョイントベンチャーです。日本では、技術力のある大手建設会社から地元企業への技術移転といったことも、JVを構成する目的のひとつになっています。
 
社会広聴会員:
全国各地でダム建設反対運動が起きていますが、反対の理由の主なものは何ですか?
JV:
反対の理由で多いのは、「自然への悪影響」と「本当に必要なのか」ということです。まず自然への悪影響についてですが、私どもの場合、自然保護を目的とした希少動・植物に対する環境調査を行いました。今回のダム工事の場合は、希少動物はいませんでしたが希少植物がありましたので、兵庫県が工事開始前にすべてを移植しました。ダム工事中は別の場所に移植しておき、終わったらまた戻しています。このような取り組みは、ダムに限らず全国のいろいろな建設現場でも行われており、希少種の保存に成果を上げています。
また、「ダムは本当に必要なのか」という意見は、ダムの「費用対効果」に対して疑問を持っていることから出る場合が多いです。例えば、お金がかからない方法として、森林によるダム機能、いわゆる「緑のダム」でいいのではないかとの意見も聞かれますが、工学的に立証されているわけではありませんので、現実的ではないと考えています。
 
社会広聴会員:
土木業界における女性進出の現状を教えてください。
JV:
例えば、ダムの現場ですと、重機械のオペレーター(操縦士)などの分野に、かなりの方々が進出しています。もともと、建築・土木を問わず設計などのデザインやセンスを必要とする分野には、多くの女性が進出し活躍しています。最近の大規模公共工事現場のそばには、PRセンターがあるところが多く、そういったところは基本的に女性がすべて説明、案内をしています。
 
社会広聴会員:
布引ダムの補修工事の費用と、ダムを新設する場合の費用との差を教えてください。
JV:
現在行っている布引ダムの堤体補強工事にかかる費用は、約7億円です。ダムとしては、非常に少ない金額です。一方、同じ規模のダムを新しく建設する場合には、事前の調査費や工事用のトンネル建設費など合わせて、約28億円かかると思います。ちなみに、1900年に布引ダムが完成した時の時価が、約100万円でした。平成13年度に、物価スライドなどを加味し現在の価格に換算したところ、約25億円になりましたので、やはり25~28億円はかかると思います。ただし、土地代などは含めていません。
 
出席者の感想から
●生活者の視点からは、単に新・旧ダムの見学による知識の吸収のみならず、ダムの生活に与える影響、機能について考えさせられる機会でした。また、土木業界に対する先入観を変えるお話も伺いました。市街地におけるビル建設現場などでは、周辺への配慮が随分されていると思っておりましたが、山間地でのダム現場でも、安全交通や、ハイカー路の確保、原状回復のための植樹など、種々の配慮がされていることを知り、その企業姿勢に感心しました。

●ご案内、お世話くださった方々の誠実なお人柄から、土木業界に対してとてもソフトでよい印象を抱きました。また、誇りを持って仕事に取り組まれていらっしゃる姿勢が強く感じられ、感動いたしました。

●両ダムともJV(共同企業体)による運営がなされていますが、環境管理その他の面でやはり主幹事会社のリーダーシップや性格が最も反映されているように思います。

●神戸市民として慣れ親しんできた布引ダムについて、100年を超える歴史があることや、ダムの隅々にいろいろなこだわりのあることなど、決して知ることのなかった知識を得ることができました。

●過去の洪水被害のこともあり、石井ダムが洪水対策として建設されていることに、関心を持っていました。建設費よりも周辺整備に要する費用が多く、またそれが高額であることに驚きました。多目的ホールの発想は、防災と市民とのふれあいの場として面白いと思いますし、交通のアクセスさえ良ければ今後の活用が楽しみです。完成するまでの間に、災害が発生しないことを祈ります。

●石井ダムの多目的ホールに、この二つのダムの歴史を展示したり、神戸ウォーターを販売するなど、神戸の名所にして経済発展に役立ててほしいです。空気のよいところで神戸市民の憩いの場によいのではと思います。
お問い合わせ先
(財)経済広報センター 国内広報部
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