企業と生活者懇談会
2009年9月29日 東京
出席企業:日本航空インターナショナル
見学施設:JAL客室サービス・訓練センター

「客室乗務員の仕事、安全とサービス」

2009年9月29日、東京都大田区の日本航空インターナショナル(JAL)客室教育・訓練センターで、「企業と生活者懇談会」を開催しました。社会広聴 会員21名が参加し、同社や訓練センターの概要について説明を受けた後、訓練の様子などを見学し、続いて質疑懇談を行いました。
日本航空インターナショナルの客室サービス企画部からは、藤島喜代仁客室教育・訓練センター長、サービス訓練グループの種市知晴氏、霜崎理恵子氏、広報部からは木津一比己業務・企画グループ長が出席しました。
JALからの説明
■JALの客室乗務員について■
 (株)日本航空は、航空輸送事業およびそれに関連する事業を営む200以上のグループ会社の持株会社です。一般的に「JAL」や「日本航空」と呼ばれているのは、航空輸送事業を担っている、(株)日本航空インターナショナルを指しています。
 客室乗務員が所属する客室本部は、羽田、成田、伊丹、福岡の国内4カ所と、ロンドン、フランクフルト、サンパウロ、香港、上海、シンガポール、台北の海外7カ所に基地があります。各海外基地では、外国人客室乗務員の採用もしています。現在、JALにはおよそ8000名(邦人約7000名、外国人約 1000名)の客室乗務員がおり、他にもグループ会社のジャルウェイズに2300名、ジャルエクスプレスには400名の客室乗務員が在籍しています。

■客室教育・訓練センターについて■
 JALは、航空輸送事業の基本品質を安全性、定時性、快適性、利便性と考えています。客室乗務員は、現場の最前線でそれらの基本品質を提供するための重要な役割を担っています。
 客室乗務員には、機内の安全確保やスムーズな航空機運航を客室側から支援する「保安要員」としての役割と、お食事、お飲み物の提供や、お客さまの旅程全般のお世話をする「サービス要員」としての役割があります。客室教育・訓練センターでは、両方の訓練を、救難訓練グループ(非常用装備や機材の使用方法の習得や緊急時脱出訓練や人命救助などの訓練を行う)とサービス訓練グループ(接客作法、お食事、お飲み物の提供、機内免税品の販売など機内サービス全般について学ぶ)とに分かれて実施しています。

■一人前の客室乗務員になるために■
 客室乗務員は、まず契約社員として入社します。契約は2度更新でき、入社4年目に適正と判断されると正社員になることができます。
 契約社員として入社後、およそ2カ月間の訓練(サービス座学、保安・救難訓練、機内でのサービス実技など)を経て、国内線での乗務を開始します。入社1 年半~ 2年後に、国際線のエコノミークラスの訓練を受講し、今度は国際線に乗務します。機内では、フライトアテンダントとして、一般的な機内業務に当たり、経験を積みます。
 正社員になると、国際線のエグゼクティブクラスとファーストクラスの訓練を受けます。その後、フライトアテンダントとして、数年のキャリアを積むと、エコノミークラス、ビジネスクラスなどの各客室エリアの責任者である、キャビンコーディネーターへの昇格のタイミングが訪れ、さらに経験を経て、機内全体を統括するキャビンスーパーバイザーへの道が開けます。

見学の様子
■サービス訓練施設の見学■
 はじめに、訓練生が英語の授業を受けている様子を廊下の窓越しに見学しました。訓練センターの教室の廊下側の壁には大きな窓が設置され、通りすがりに授業を観察できるようになっています。窓から常に誰かの視線を感じることで緊張感が生まれ、機内でお客さまに見られることに慣れるための効果があるそうです。この日も、訓練生が姿勢を正して真剣にトレーニングを受けていました。
 次にメークアップルームを見学しました。ここはお化粧方法や歩き方、表情や立ち居振る舞いについて学ぶ教室です。壁に設置された鏡の上部が少し手前に傾いていて、座った足元まで写るように工夫されていました。参加者は美しく見える座り方について指導を受けました。
 続いて見学したモックアップ(実機に近い模型)では、食事のサービスなどの訓練が行われていました。ここでも、訓練そのものがオープンになっていて、人の目を意識する工夫が感じられました。
 また、JALが考えるサービスには、茶道の作法から由来することが多くあるため、「作法室」というお茶室で、裏千家の先生を招き、日本人の立ち居振る舞いなどについて学ぶ時間があることも知りました。

JALへの質問と回答
社会広聴会員:
客室乗務員の資格について教えてください。
JAL:
客室乗務員の資格のうち、保安要員としての訓練は国土交通省の認可に基づいて行われ、1年に1度定期訓練で資格を更新しています。保安訓練は、機種ごとに 定められています。JALでは現在7機種が運航しており、客室乗務員は3~4機種までの資格を取得します。複数機種の資格を取得すると、知識が散らばる恐 れがあるため、必要最小限にとどめています。
サービス要員としての資格は特に定められていないため、会社のポリシーに沿ったサービス訓練を実施しています。
 
社会広聴会員:
男性客室乗務員はいますか。
JAL:
約8000名の客室乗務員のうち、約100名が男性です。訓練や業務内容は男性も女性も変わりません。
 
社会広聴会員:
体調が悪くなったお客さまへの対応について教えてください。
JAL:
乗務員が機内を歩くときには、常にお客さまの顔色などから体調を確認し、異変がある方にいち早く気付くように心掛 けています。
ご搭乗のお客さまの中から、医師や看護師の資格を持つ方を探す「ドクターコール」を行うこともあります。具体的な数字は把握しておりませんが、ドクターコールを実施した結果、およそ80%のフライトでご協力を得ていると思います。どなたもいらっしゃらない場合は、客室乗務員が3人一組になり、心臓マッ サージなどを試みます。定期訓練では、こうした訓練も実施しています。また、機内には医療用具やAEDも搭載しています。
 
社会広聴会員:
乗務に当たり日ごろから心掛けていることは。
JAL:
表情や身だしなみには気を使います。特に、いつも笑顔になるように、「ウイスキー」と言いながら口角を上げるよう にしています。また、後ろにも目があるかのように、常に五感を働かせ、お客さまが何を欲していらっしゃるかを察知できるように気を付けています。
体力勝負の仕事なので、休日には十分な睡眠をとったり、適度な運動をしたり、体調管理にも気を付けています。
 
社会広聴会員:
機内では、どのようにして着替えていますか。
JAL:
お客さまから見える範囲での着替えや食事はしてはいけないことになっています。ギャレーと呼ばれるキッチンにカー テンを引き、素早く着替えます。お化粧はトイレ掃除の際に、さっと直します。
1970年代には、着物でファーストクラスの食事をサービスしていましたが、この着物は上下が分かれた2部式になっており、帯もすぐに着脱できる簡易タイ プで、狭い機内でも素早く着替えられる工夫がされていました。
 
社会広聴会員:
外国人の客室乗務員の教育や苦労点は。
JAL:
外国人乗務員には、日本の「察する文化」の理解が難しいようです。日本のお客さまは、不満はぐっとこらえ、口にしない方が多いです。外国人乗務員から見ると、「不満なら、なぜ言ってくれないの」と感じるようです。このような、わずかな感覚の違いで、お客さまとのコミュニケーションがうまくいかないことに難しさを感じます。訓練では日本語の授業はもちろん、一般的な日本の文化を知るための教育も行っていますが、こうした文化や習慣の違いから生じるトラブルは、何が原因かをその都度具体的に説明し、失敗や経験を重ねて体得してもらうしかないと思っています。
 
社会広聴会員:
仲間とのチームワークやモチベーションの管理はどうしていますか。
JAL:
乗務員は、1グループ12~15名で編成されたチームに所属しています。いつも同じグループで乗務するとは限らな いので、チームワークは重要です。常に笑顔で心を開くように心掛けています。
モチベーションを上げるために、グループの各人に安全、サービス、健康、機内販売などの担当を決め、グループごとに活発な活動を行っています。それらの活 動やお客さまからいただく「お客さまの声」というコメントレターなどから、表彰もしています。
 
社会広聴会員:
乗務員同士や他部署との情報共有はどのように行っていますか。
JAL:
掲示板や月に1 度のグループミーティング、社内報で情報共有しています。また、安全リーダー研修や随時の勉強会も行っています。現場からの提案は、乗務記録や改善提案書 を提出することで、本社や関連部署に伝えられます。
 
社会広聴会員:
機内での迷惑行為について。
JAL:
機内迷惑行為(機内での喫煙、離着陸時の携帯電話やパソコンの使用、座席ベルトの未装着、手荷物の未収納ほか、安全を阻害する行為)は、2000年代になって増加してきました。2004年(平成16年)に航空法が改正され、処罰の対象となりました。悪質な場合は機長 名の警告書や命令書を発行し、着陸後、警察に引き渡すこともあります。
安全運航には、お客さまのご協力が欠かせません。
参加者の感想から
●客室乗務員の役割、「保安要員」「サービス要員」の両面は、医療・介護と似た面があると感じました。

●現場の人の頑張りにこたえるべく、経営者には早期業績の回復をお願いしたい。

●訓練教育で「一人の人間としてのかかわり方、あなたならどうしてもらいたいですか」とわが身に置きかえて、問い掛けられていたのが印象的でした。

●JALが長年積み重ねてきた接客ノウハウは日本の財産です。多数の先輩方の努力、そしてそれを受け継ごうとする若い客室乗務員の真剣な眼差しを見て、経営者陣には、貴重な人材の希望や意欲をそぐことのないように、再建をお願いしたいと感じました。

●普段、乗務員さんたちが食べているお食事を、実際の機内にいるような雰囲気の中で食べたのが、ユニークで楽しかったです。これを5~10分で食べているというお話にびっくりしました。

お問い合わせ先
(財)経済広報センター 国内広報部
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館19階
TEL 03-6741-0021 FAX 03-6741-0022
pagetop