企業と生活者懇談会
2003年1月28日 愛知
出席企業:五洋建設
見学施設:中部国際空港

「人の生活を支える社会資本整備~建設業は今」


五洋建設からの説明
■五洋建設の概要■
 当社は1896年(明治29年)、広島県呉市で水野組として創業しました。以後、海洋土木工事を中心に会社の基盤を築き、創業1世紀(100年)を無事に迎えることができました。社名に、さんずいの「洋」が使われているように、海洋土木を得意としています。この部門では日本で一番手、また世界でも指折りの企業となっています。
 みなさんご存知のスエズ運河の開削工事を行ったのも当社です。中東戦争で地雷や爆撃の危険がひしめく中、レセップス以来の大工事を、莫大な費用と人員を動員して成し遂げ、当社の名前(五洋建設 英文名:ペンタ・オーシャン・コンストラクション(5つの))を世界中に広めました。1961年(昭和36年)から始まったこの事業は、日本の建設技術の高さを世界にアピールした最初のものといえます。
 おかげで、海洋土木工事は世界各地で展開しています。特に東南アジアや中近東では、これまで多くの仕事を引き受けてきました。国内より海外の方で、名前が売れているといえます。
 現在の事業割合は、国内8割、海外2割となっています。国内では、港湾建設など産業基盤整備に携わってきました。また、みなさんが普段なにげなく使っている道路や、東海道新幹線をはじめとする鉄道も造ってきました。その他、橋梁やトンネル、ダムに至るまで、土木工事と呼ばれるほとんどのものを手掛けてきました。
 建設工事では、マンションやオフィスビルから、工場や倉庫まで幅広い建造物を造っています。特に湾岸地域の物流関係の倉庫建設を得意としており、名古屋地区をはじめ東京・大阪・福岡でも多くの倉庫を建てています。

■中部国際空港の建設について■
 中部国際空港は愛知県で開催される愛知万博に合わせて、2005年春の開港を目指しています。愛知県常滑市の沖合1,500mの伊勢湾に人工島(面積約580 ha)を埋め立て、その上に空港建設を予定しています。名古屋空港の滑走処理能力は21世紀初頭に限界に達すると予測されるため、新空港の早期完成が望まれています。24時間運用可能な中部国際空港は、国内はもとより海外との航空ネットワークを充実させ、空の玄関として国際交流の一翼を担うことが期待されます。
 現在、人工島の埋立工事がほぼ完了し、土地の造成と管制塔やターミナルビルなど上物(うわもの)の建設が行われています。
 人工島を埋め立てたのが、当社をはじめとする4社のJV(ジョイント・ベンチャー)です。当社は、人工島の周りに囲いを築き、その中に土砂を埋める護岸工事を担当しました。本日、ご覧いただいたターミナルビルや滑走路の土台となる部分の工事を受け持ったのです。
 埋め立てに用いる土砂は、近辺の山を切り崩して採取していますが、一部は名古屋港の海底に堆積している土砂を浚渫(底ざらい)して使っています。名古屋港には3つの大きな川が流れ込んでおり、土砂が溜まりやすい地形になっています。また、大型船が港に出入りするためにも、土砂の浚渫作業が必要となります。これまでは掘り起こした土砂は遠方の海に捨てていましたが、現在は空港建設の埋め立てに利用しています。
 工事を進めるにあたっては、周辺環境の保全と安全確保に特に注意しています。環境保全では、埋立工事による水の濁りの拡散を抑制するため、用地造成工事中は汚濁防止膜を設置し、護岸造成後に埋立用の土砂を投入するようにしています。これらの環境モニタリング結果を公表することで、空港事業に対する住民のみなさんの理解が得られるよう努めています。
 安全面では、「無事故」「無災害」を目標とし、工事関係者のきめ細やかな安全衛生教育活動などを通じて、安全意識の高揚に努めています。
 また、周辺海域の環境変化がなるべく影響しないよう、空港島の形状にも配慮しています。たとえば、常滑沖の南下流をできるだけ妨げないように、空港島と対岸部最小海域幅は約1.1kmを確保し、空港島の形状に曲線を取り入れています。さらに、周辺海域に生息する多様な海域生物にやさしい岩礁性藻場を造成するために、護岸は自然石や消波ブロックを使っています。
五洋建設への質問と回答
レポーター:
中部国際空港の地盤沈下対策について、特に安全性の面から説明してください。常滑沖の地盤の特徴や、地盤沈下を防ぐために工夫していることはありますか。
五洋建設:
中部国際空港建設予定地は平均水深約6mの浅い棚地です。これは関西国際空港第一期工事の平均水深16mと比べて10m浅いことになります。また、海底地盤は良好な場所を選んでいるので、軟弱な地盤は少なく、あっても深さ10mとそれほど深くはありません。さらに、滑走路やターミナルビルなどの重要構造物の下部は、地盤改良工事を行って、対処しています。
地盤改良工事はサンド・コンパクション・パイル工法を採用しています。この工法はまず船上から海底にパイプを打ち込み、次に打ち込んだパイプを通して砂を圧入していきます。そうして、軟弱な粘土層を締め固まった砂杭に変えていくのです。粘土層を砂杭で強制的に置き換えることで、地盤の安定化が図られるのです。
 
レポーター:
どの程度の深さまで、サンド・コンパクション・パイル工法による改良工事を行っているのですか。
五洋建設:
護岸や重要構造物の下部については、沈下防止が目的ではなく、補強目的で行っているので10m程度です。軟弱地盤なら、深
さ30mまで改良することもあります。それぞれの地盤に合わせた上で、効率よく作業しています。もともと埋立地全体が軟弱地盤ではないので、沈下の対象となる粘土層は多くありません。改良しなくても全体の沈下が2mに収まる地盤を選んでおり、これを前述の補強工事を施すことで、沈下が60cm以下に収まるように改良しています。
 
レポーター:
空港建設予定地は地震に対してあまり強い場所ではないと聞きました。「予測しない大地震が発生したために空港が崩れてしまっ
た」では取り返しがつきません。地震に対する安全性と取り組みを説明してください。

五洋建設:
地震については、中部国際空港株式会社が「人工島建設計画地盤の真下には活断層は見当たらず、この周辺で地震が起こる可
能性は極めて低い」との学術調査結果を基に、場所を選定しています。なお、伊勢湾周辺には伊勢湾断層帯が確認されていますが、これは今後300年間に活動する可能性はゼロに近いということです。
阪神・淡路大震災は関西国際空港一期工事中に起こりました。当社は護岸を担当していましたが、地震の被害は周辺の護岸線が前方に少し傾いた程度でした。護岸が崩れて、内部の土が海に流れ込んだという被害ではありません。周辺の構造物についても、人身に関わる事故には至ってないことから、埋立地において人身の安全は守れたといえます。しかし、周辺の護岸が崩れた点は反省すべきことであり、さらなる耐震補強の工事に努めています。
液状化現象が起こらなければ、通常の土地より埋立地の方が安全だといえます。しかし、液状化が起きると、ライフラインの上水道・下水道のパイプが壊れてしまいます。今では、液状化の発生を防ぐ埋立材料と工法が研究・開発されており、そうした工法で造った埋立地は問題ありません。関西国際空港でも、液状化は起こりませんでした。当然、中部国際空港でもこの工法を採用しています。
 

レポーター:
建設工事の安全性に関してあまり知る機会がなかったので、今日のような懇談の場は大変勉強になりました。これからはモノつ
くりだけでなく、人の心を癒せる企業が栄えてほしいと思います。五洋建設では地域住民との関わり方についてどう考えていますか。
五洋建設:
当社が進めている公共事業なのですが、東京の大田区で、地域の方と一緒に話し合いをしながら人工海浜公園を造っています。「こんな海浜公園がいい」という要望に対して、建設のプロとして「この砂浜はこの砂を使うといいですよ」「ここはこうした方がもっといいですよ」といった提案をしています。時間はかかりましたが、いよいよ来年完成の予定です。当社ではこのように、地域のみなさんの心の中に入っていきたいと考えています。
大田区のこの人工海浜公園は新しいタイプの公共事業として注目を集めています。完成した暁には、インターネットやパンフレットでお知らせしたいと思っています。
 
レポーター:
陸地と空港をつなぐ連絡橋の建設材料に、鉄道が通る橋はコンクリート、自動車が通る橋は鉄筋を使っているという説明を受けました。違う建設材料を使う理由は何ですか。
五洋建設:
建設に費やす時間とコストを勘案して、建設材料を使い分けています。簡単に言うと、鉄筋造りは建設期間も短く、また費用も安く
抑えることができます。一方、コンクリートは錆びなどの心配がなく、材質自体が変形することはほとんどありません。しかし、材質が重いことから、それを支える基礎工事をしっかりと行う必要があり、建設期間が長くなってしまいます。そのため、コストも割高となります。
自動車が通る橋は、まず人工島への輸送路を確保する必要がありましたので、作業スピードが速く、コストが安いことを重視し、鉄筋造りとしました。一方、鉄道が通る橋は脱線などが起こらないように安全面の配慮から、歪曲率の少ないコンクリートを採用しています。
 
レポーター:
建設会社の事業目的は開発ですが、自然や環境に配慮するためにどういった取り組みをしていますか。また、建設費用に環境保全の費用は含まれているのですか。
五洋建設:
土砂を採掘するために山を切り崩したら、その跡地は平地化して、木を植えています。また、当社所有の山を開発する時は、事前に自治体の許可を得て、跡地計画を作り、地域の方が公園や運動場、住宅地などを利用できるようにしています。建設に使用する土砂の単価には、土砂を山から切り出す費用だけでなく、跡地を緑化する費用も含まれています。
 
レポーター:
これからは自然のエネルギーを利用する施設を造るなど、未来を創造する夢の事業に取り組んでほしいと思います。また、相互理解のために、建設現場の情報をもっと公開してほしいと考えています。
五洋建設:
たとえば海洋エネルギーを利用した発電を考えています。自然エネルギーを利用した発電を事業者に提案できるように、日本海の荒波のエネルギーを利用した波力発電の研究や、風力発電に使う風車の開発などに取り組んでいます。2番目の質問ですが、日本土木工業会は現在、「100万人の市民現場見学会」を実施しています。これは、建設業の社会的使命や活動の実態、さらには社会資本整備について広く一般の方々に知ってもらうため、日本全国で現場見学会を行っています。小中学校の子どもたちも多く参加しています。今回の「企業と生活者懇談会」のように、企業と消費者が一緒になって話し合うことは大変有益だと思います。
 
出席者の感想から
●これまで海岸埋立ておよび人工島造成について、出来上がったものでしか見たことがなく、非常に大雑把な考え(知識)しか持っていなかった者の一人でした。
しかし、今回の「企業と生活者懇談会」に参加して得た知識は、今までの自分の考え(知識)は無いに等しいことを知らされました。また、実際に人工島造成等に関して、関係当事者は計画から実行まで、いかに綿密に(環境問題から出来上がったものの機能まで)十分に検討した上で、実施されているものかがよく理解できました。

●名古屋にいながら、中部国際空港の見学は初めてでした。懇談会と言っても、中部国際空港の正当化と宣伝に終始するのだろうとなどと考えていました。
参加させていただいて、誠意ある対応と工事内容の姿勢によってそんな表面的な考えは払拭されました。私には全く未知の分野でしたが、掛ける意気込みと出来る範囲で聞き生かせればという、真摯な姿勢に好感がもたれ、きっと世界に誇れる空港になることだろうと期待しました。一見は百聞にしかず!お会いして肌で感じて、自分の価値観で反芻し確信していく事の大切さを学びました。最後に、もの造りのロマンとすばらしさを今回の企業と生活者懇談会で教えていただきました。

●空港島と対岸部の海域を広くする対策、渦の発生を抑える対策、護岸工事については海域生物の生息等が考慮されているので自然環境の変化が少ないのは結構であると思われる。
次に採土した跡地の自然環境を如何様にするか。また地域開発用地内の緑地部分はどのようになるか等自然環境を可能な限り考慮してほしいと思う。

●埋立て作業が見学できなかったことは残念でしたが、ターミナルや滑走路の大きさが実感できました。またそれとともに2000人の人が働いているにもかかわらず、機械化されているため、人間の存在をあまり感じませんでした。もうここまでできてしまったのかという気持ちになりました。

●今回の見学は、土木・建築に縁の無い私にとって技術の高さに驚きと感銘の連続でした。
海上に島を造る―護岸工事・埋立てなど専門技術者の英知の結晶から成り立っていることがよく理解できました。
お問い合わせ先
(財)経済広報センター 国内広報部
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TEL 03-6741-0021 FAX 03-6741-0022
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