企業と生活者懇談会
2003年5月30日 神奈川
出席企業:清水建設 (工事施工者は清水、フジタ、イワキ、保土ヶ谷建設共同体)
見学施設:鳥山川遊水地

「新しい街づくりと産業を考える」


清水建設からの説明
■都市化が引き起こす浸水被害■
 大都市周辺では急速な都市化が進んでいます。その結果、各地区が本来持っていた保水・遊水機能が著しく低下し、台風や大雨の時に浸水被害が起きやすくなっています。昨年は26個の台風が発生しましたが、このうち台風6号、7号、21号が首都圏を直撃ないし接近し、各地に大きな被害をもたらしました。今年6月、「特定都市河川浸水被害防止法」が成立しました。この法律は、浸水被害が発生する可能性が高い都市の河川流域において、地方公共団体をはじめとする関係者が一体となって、浸水被害の対策を進めていくことを目的としています。
 しかし、急速に都市化が進む首都圏近郊では、台風や集中豪雨など局地的な大雨に対するインフラ面での整備はまだまだ遅れており、浸水被害に見舞われやすい状況となっています。

■治水の重要性■
 本来、治水には山林や緑地が持つ自然の保水機能を保全強化する方法と、人工的に溜池や開発遊水池、分水路、放水路、河川改修、河川遊水地などを整備する方法があります。後者は総合治水と呼ばれています。先ほども述べたように、都市化が急速に進んでいるため、河川改修などのインフラ整備が追いついていないのが現状です。
 大都市の場合、河川の拡張が難しいことが多く、洪水を一時的に貯留する遊水地を建設することがあります。この場合も、都市化で遊水地敷地の確保が困難なこともあり、箱型形式の地下遊水地で対応することがあります。現在、鳥山川をはじめ、日本各地でこの方式で遊水地建設が進められています。
 地下遊水地は、上地(うわち)が公園など他の目的に利用されるため、完成した後は都市生活の中では目立たないものとなります。上地が公園やグランドなどに利用されるために、遊水地の表現を「池」でなく、「地」としています。

■市街化が進む鳥山川周辺■
 鳥山川は、横浜市神奈川区羽沢町の丘に源を発し、港北区鳥山町で鶴見川と合流する都市河川です。横浜市内をJR東海道新幹線と並行して流れる、全長約4kmの川です。鳥山川自体は小さい川なのですが、鶴見川が1級河川なので、合流する鳥山川も1級河川となります。横浜市は特に重要と認められる27の河川について、重点的に改修を進めていますが、鳥山川もその一つです。工事現場は、JR東海道新幹線沿いの新横浜駅と第3京浜道路の羽沢インターチェンジの中間地点の三角地で、すぐ脇に環状2号線道路も走っています。
 鳥山川流域は交通の利便性が高いため、昭和40年代から市街化が進みましたが、本格的な河川改修は行われていませんでした。しかし、昭和54年10月、台風20号による浸水被害が起こり、これを契機に昭和56年から河道の拡幅工事が開始されました。昭和60年代に入ると、市営地下鉄が開通し、市街化に拍車がかかりました。この地域は交通の利便性が高く、将来的には流域のほとんどが市街化されると予測されています。
 しかし、先ほどもお話したように市街化が進む中では、河道の再拡張が困難です。そこで、横浜市は地下遊水地を建設することを決定し、「清水・フジタ・イワキ・保土ヶ谷建設共同体」(ジョイント・ベンチャー)に工事を発注し、平成10年から工事が始まりました。

■遊水地は2層構造■
 この地下遊水地は、総量4.4万m3の水を貯水できる縦約120m、横約16~約37m、深さ約25mの2段式のプールのような構造になっています。ここに大量降雨時の河川洪水を一時貯留し、地上での浸水被害を未然に防ぎます。計算では、6.3年に1回の割合で遊水地が一杯になります。
 平成15年度末の完成を目指し、現在最終工期に入っています。完成すると地下に完全埋没するため、工期終盤のこの時期が見学の最終チャンスとなります。

■環境との調和に配慮した工事■
 交通の要衝にあるため、掘削や排水により新幹線や都市交通に地盤傾斜などの悪影響を与えぬよう、細心の注意を払いながら工事が行われました。「鳥山川遊水地計測管理システム」を開発し、周辺の重要構造物の安全性について監視、掘削時の山留壁
の安全性の確認を重視しました。
 また、工事残土の処分は指定処分場である大黒埠頭へ、排水は濁水処理施設を経由するなど、適切な処分を行いました。
 その他、この工事による環境への負荷を最小限に抑えるため、工事現場から排出される建設廃棄物の最終処分量をゼロにすることを目指して、徹底した分別処理と可能な限りのリサイクルを推進しています。
清水建設への質問と回答
レポーター:
遊水地の内部を見学し、その柱の数に驚きました。正直いって、多すぎるのではないかと感じました。また、中に流入する水のことを考えると、角柱より円柱の方が適当だと思われますが、いかがでしょうか。
清水建設:
柱の数は、隣接する新幹線や環状2号線道路への影響が出ないように、構造上の強度を考えて、多くの柱で支えています。柱の形ですが、鳥山川からの水が流入する部分は円柱となっており、水を溜める部分は角柱となっています。角柱としたのは、ここの地盤が柔軟だったからです。土圧を考えた際、構造力学上の対応性が強い角柱を採用しました。
 
レポーター:
工事を1社ではなく、なぜ4社の「共同事業体」で受注するということになったのですか。またこうした例は内外で一般的なのでしょうか。
清水建設:
共同事業体として応札することが発注者である横浜市からの条件でした。この条件に従って、「清水・フジタ・イワキ・保土ヶ谷建設共同企業体」として応札し、受注しました。
共同企業体には、地域振興的な役割や、地元企業への技術移転などの要素もあると思います。こうした方式は、日本では大規模公共工事では一般的で、工事現場でよくJV(ジョイント・ベンチャーの略)という文字を目にされると思います。海外では、アメリカで1929年の大恐慌の後、景気回復の為に、大規模公共工事が実施されました。有名なフーヴァーダムの建設なども、こうした工事から始まり、今では一般的になっています。
 
レポーター:
日本が世界に誇る土木技術を、いくつか具体的に挙げてもらえませんか。
清水建設:
軟弱地盤の中をシールド・マシン方式で建設した東京湾横断道路や本四架橋には、世界に誇る日本の高度な土木技術が使われ
ています。これらの構造物は、強い横風対策や構造的な捻(ひねり)への技術的対策を盛り込んでおり、ここで採用された技術は世界に誇れる日本の第一級技術です。NATM方式と呼ばれる山岳トンネル方式で完成した青函トンネルも、世界的な技術レベルといえるでしょう。
 
レポーター:
環境保全に大変配慮しているといわれましたが、具体的にどのような取り組みがありますか。
清水建設:
大量のコンクリートを使う工事なので、コンクリートを流し込む型枠も数多く必要でしたが、これらをリユースできるものにしました。工事中の騒音対策・振動対策にも心がけ、工事中も車両のアイドリング・ストップを徹底しました。
建設現場ではゼロ・エミッション(廃棄物ゼロ)を目標に、リサイクルを徹底して、分別収集を実行した結果、リサイクル率99%を達成しました。
 
レポーター:
このような工事があることを、近くに住んでいながら知りませんでした。広報活動にもっと力を入れた方が良いのではないでしょうか。
清水建設:
今回のように、(社)日本土木工業協会の協力を得ながら、広報活動にも力を入れてきましたが、さらに努力したいと思います。また、土工協としても「100万人の市民見学会」と銘打ち、多くの市民の方々に公共工事の現場を見学していただく機会を設けてお
ります。今回の見学会もその一環として実施しており、協会からも広報部長が出席しています。
「100万人の市民見学会」は、2002年11月から開始しました。今年の4月20日現在で、14万3000人の方々が全国各地の建設現場を見学されています。
 
レポーター:
最近では、公共工事がすっかり悪者になっています。本来必要のない工事を、予算消化のために行っているという話も聞きます。鳥山川も1級河川と言いながら非常に小さな川で、これほど大規模な工事が必要なのでしょうか。
清水建設:
歴史的に見れば、治水は古代中国で国を治める基本でした。また、土木と言う言葉は、英語ではcivil engineeringといい、市民のための技術を意味しています。こういった言葉に代表されるように、土木技術者はみな使命感と誇りを持って、業務を遂行しています。政治的な思惑で、本来の精神がそのまま伝わっていないのを残念に思います。
鳥山川も平時は小さな川ですが、合流する鶴見川同様、過去の増水時には浸水被害を起こしています。都市化が急速に進む中、予防策を日常から考えておくことが非常に大切だと考えます。
 
レポーター:
この工事を開始するにあたり、住民との話し合いは持たれましたか。工事完成後、上地は公園として利用されるとのことですが、あまりいい立地とは言えないように思います。住民の意向はどのように反映されているのでしょうか。
清水建設:
上地利用については、建設計画全体の中で、何度も説明会を持ちました。駐車場案や公園案などが出されましたが、この上に団地があることもあり、話し合いの結果、最終的に公園として活用することになりました。
 
出席者の感想から
●日頃あまり見ることのできない工事内部を拝見して、日本の土木技術の高さを再確認しました。一方、日本中をこんなコンクリートで固めてしまって良いのだろうかという考えも、私の中にはあります。6年に1回の氾濫のために、60億円もの工費をかけるべきだったのか疑問は残ります。しかしながら、土木工事はやはり国の基本であり、とても重要なものと思っています。市民生活に関係のある治水・遊水工事は、特に大切だと認識しています。

●「鳥山川遊水地建設工事」が、5年前から行われていたにもかかわらず、建設現場が家のすぐ近くだということを、この見学会で初めて知りました。「安全な街づくり」の一環として、地域に暮らす住民の関心を高めるためにも、広報が必要ではないかと思います。

●環境問題と省エネルギー対策に、前向きに努力をされている現場の姿勢を感じました。土工協の活動は多いに歓迎されるものです。行政側からも、市民にとって役立つようなPRをぜひお願いします。

●清水建設の方々に現場で気軽に質問ができる形であったことは、ありがたい配慮でした。本年度、たまたま横浜市下水道局のモニターをしており、この工事の発注者が同局であることを知りました。出席者の声にもありましたが、60億円という費用を使う大事業であるので、市民への情報公開を進めるべくもっとPRをしてもよいと思います。

●鳥山川地下遊水地は予想外の大規模工事でした。乱開発による出水被害をなくし、治水工事を行うことは国の基本的な役割であり、浸水被害を経験した小生にとっても心強い限りです。ただ、工事はできる限り自然環境に適合した分散型とし、大規模なダムや遊水地は最小限にすべきでしょう。
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