企業と生活者懇談会
2003年7月28日 岡山
出席企業:林原
見学施設:藤崎研究所

「生活に身近な企業を考える」


林原からの説明
■林原の歩み■
 明治16年、岡山に「太陽印」の麦芽水飴会社「林原商店」が創業されました。昭和34年には酵素を利用してブドウ糖を生産する「酵素糖化法」の工業化で、世界的な技術を確立しましたが、競合会社の乱立で徐々に生産過剰に陥りました。ここで、林原は他に真似のできない独自技術の研究、開発を進めることがいかに重要であるかを改めて認識し、単なる商品生産の会社から、研究、開発型企業への脱皮を図りました。
 糖の製造を例にとると、単に生産だけを考えるのではなく、さらに基礎となる微生物・酵素の研究開発を進め、昭和43年には「酵素法」により、高純度のマルトースの新製法を開発し、海外26カ国の特許を取得しました。これは大塚製薬から注射液として製品化されています。さらに平成6年には、「夢の糖質」と呼ばれる「トレハロース」の安価・大量生産技術を開発しました。でんぷんを原料に直接トレハロースを製造するので、従来の方法に比べ、100分の1のコストで生産できるようになり、今や食品や医薬などに極めて広範囲に利用されています。

■(株)林原生物化学研究所・藤崎研究所の設立■
 こうした研究の過程で、林原は「生理活性物質」に着目しました。生理活性物質とは、人の体が自然に作り出している天然の物質です。人間の体は、健康状態を維持する為、酵素・ホルモン・サイトカインなどの超微量の生理活性物質を自然に分泌しますが、これらの物質は人が健康を保つ上で、極めて重要な役割を果たします。例えば、サイトカインの一種であるインターフェロン(IFN)は、人の体内に侵入したウイルスが細胞に感染したり増殖したりするのを抑制する作用がありますし、またガン細胞に対しては、細胞を殺す作用を持っています。これが「天然の医薬品」といわれる理由で、こうした生理活性物質に焦点をあて、研究をすすめる目的で、昭和56年に(株)林原生物化学研究所・藤崎研究所を設立しました 。

■21世紀の現代医療薬開発の最前線基地へ■
 研究所では、自然のままでは極めて微量にしか生まれない生理活性物質を大量生産できないか、という命題に取り組みました。これまでは、インターフェロンなどの生理活性物質を生産する方法は以下の3通りでした。
(1)献血で集めた白血球から作る方法
(2)ヒト細胞をタンクの中で人工的に培養し、増えた細胞から作る方法
(3)大腸菌などに、生理活性物質を作る遺伝子を組み込んで作る方法
しかし、いずれもコスト、効率、効果等に難点がありました。そこで、林原は「ヒトの体内で分泌されている物と同じ天然の生理活性物質を得る方法はないか、そしてそれを大量に生産する方法はないか」、という命題を研究し続けました。その結果、開発された方法が「林原法」と呼ばれる方法です 。

■林原法とは■
 林原はハムスターに注目しました。生まれたばかりの仔ハムスターにヒト細胞を接種すると、成長と共にヒト細胞も3~4週間で急速に増殖します。これを取り出し、培養液を加えて、ヒト細胞浮遊液を調製し、これに誘発剤で刺激を加えると、ヒト細胞は生理活性物質の分泌を始めます。こうして得られた生理活性物質を、分離・精製し、製品化するのです。この方法は、「林原法」(ヒト細胞インビボ増殖法)と命名されました。
 この方法の利点は、生理活性物質において重要な役割を果たす糖鎖がついたヒトの生体内と同質の生理活性物質が得られることです。また、生産にあってはハムスターの数により生産量が調整できること、遺伝子組換え方法では見つけることのできない新規活性物質の発見・研究に適していること、などです。
 こうして得られた生理活性物質のうち、インターフェロン(IFN)などには、抗ウイルス作用、抗ガン作用、免疫賦活作用があるので、エイズ、肝炎、ガン、感染症などに効果があり、今後の研究次第では、難病治癒への効果が期待されています 。

■林原グル-プについて■
 林原は「技術開発力と新事業の創造力を中核に据えた技術集結体」を目指し、4つの大きなグループから形成されています。グループの中核になるコアグループ各社((株)林原、(株)林原生物化学研究所等計6社)、各種事業を運営するマネジメントグループ各社(9社)、メセナグループ各社(3社/団体)、海外拠点法人(ハヤシバラインターナショナルU.S.A.)などグループ20社、従業員約1500名から成り、年間売上は約800億円に達しています。

林原への質問と回答
社会広聴会員:
「林原法」でインターフェロンなどを作る方法を説明していただきましたが、遺伝子組換え法も取り入れ、今後さらに安価で大量生産する道はないのでしょうか。
林原:
遺伝子組換え法は、本来自然にはない物質を作為的に作ることです。物質を構成する基本的な糖の連鎖(糖鎖)が、遺伝子組換え物質では「完全なコピー」とはならず、糖鎖が付加されない場合があります。アメリカでは、遺伝子組換え法で、インターフェロンを作っている所もありますが、時に体の中に抗体ができる場合が報告されています。
「林原法」は生きた細胞の増殖をもととしているので、自然に分泌される生理活性物質そのものが得られます。薬品の安全面を考えても、この方法が好ましいと思いますので、林原はこれからも本物志向で行きたいと思います。
 
社会広聴会員:
「林原法」でハムスターをどのくらい使いますか。その処理はどうしていますか。
林原:
「林原法」では、増殖した細胞を取り出した後は焼却処分します。しかし、機械的にならないよう、感謝の念を忘れず、毎月1回、社員は慰霊祭をしています。
ハムスター1匹で10人分のインターフェロンが作れます。無駄に作らないようにするため、必要以上にハムスターを増やすこともしません。現在、週5000匹ぐらいを必要としています。
 
社会広聴会員:
インターフェロンについて、その薬効を説明してください。
林原:
インターフェロンという言葉は、英語の「インターフェア=干渉」という言葉からも推測できるように、ウイルスに干渉し、ウイルスの活動を抑止、排除する治療薬です。ウイルス性肝炎などの治療薬として、耳にする機会もあると思います。大変薬効の優れた薬ですが、副作用として、発熱、鬱状を誘発する場合があります。こうした副作用が認められた場合は、医師は対処薬で副作用を抑えつつ、症状により少量長期投与か、大量短期投与かを決め、処方しています。したがって、最近話題になった肺がん治療薬「イレッサ」のようなケースとは、全く異なります。
 
社会広聴会員:
林原生物化学研究所は、ヒト細胞株を内外に無償提供しているという説明がありましたが、企業なのになぜ無償なのですか。
林原:
林原は科学も技術もオープンであってこそ、進歩するという信念を持っています。この考えに基づき、生命科学研究のベースとなる
細胞株は、内外の研究機関から要請があれば、無償提供しています。もちろん研究対象の場合に限っており、それをもとに商売をするというのではない場合に限ります。研究機関が論文等で研究成果を発表する場合、研究への協力を明確にするため、社名を表記することを求めています。
 
社会広聴会員:
林原は特許をどのくらい持っていますか。
林原:
5000件くらいあります。特許は日本だけでなく、米国はじめ各国への登記が必要です。弁理士への費用がかかり、利益を生む特許というのは、100件の中、1つか2つといったところです。しかし、重要な権利なので、登記を行うわけです。日本では、大学が独立行政法人化する方向で、いろいろな研究成果の特許化を進めています。
 
 
社会広聴会員:
林原は社会貢献についてどう考えていますか。
林原:
会社の本業そのものの一つと位置付けております。林原グループの中のメセナグループ3社、即ち財団法人 林原美術館、林原自然科学博物館、NPO社団法人林原共済会はメセナの活動の基本理念として「オリジナリティーがあり、持続性があり、地域に根ざした文化活動」を多岐にわたる分野で支援してきました。 1991年、企業メセナ協議会から第1回メセナ大賞を受賞したのをはじめ、社会的な評価を受けていることは誇りに思います。
 
出席者の感想から
●生命のことを考え、そのためにマウスの生命も大切にして感謝する精神など、敬虔な態度には感銘を受けました。見学させていただいて、商品を生産して販売するだけでない、企業の全体が見えたように思います。

●メセナ、メセナと、声高に叫ばれていましたのに、不況の下で鳴りをひそめた企業が多い中で、「長期的に継続し、20年、30年先をみつめる」林原の姿勢をうれしく思いました。
 今後も人類の幸せのために、研究が進められることを願っています。

●昨今の厳しい経済状況の中で、何ができるか、何をすべきか、いかに会社を守るかなど、経営者の考えが隅々まで行きわたっていると感じました。そして、その考えの方向性にのっとり、社員も伸び伸びと研究に没頭しているように見受けられました。

●雑学や専門外のアイデアからやってみようというトライ精神と、結果にはリスクはつきもの、あらゆる角度からの柔軟な思考を大切にしている企業理念は、評価すべきだと感じました。また、地元出身者の採用がほとんどということもあり、地域に密着した地元還元型の取り組みをされている点も、今後期待できる企業であると感心しました。
お問い合わせ先
(財)経済広報センター 国内広報部
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館19階
TEL 03-6741-0021 FAX 03-6741-0022
pagetop