企業と生活者懇談会
2003年9月19日 愛知
出席企業:三菱自動車工業
見学施設:名古屋製作所岡崎工場

「生活に身近な企業を考える」


三菱自動車工業からの説明
■三菱自動車の歩み■
 日本で最初の量産乗用車を製作したのは、実は三菱自動車です。1917年に「三菱A型」という名前で世に送り出しました。このことは、案外知られていないことかもしれません。現在の三菱自動車工業は、1970年に三菱重工業の自動車部門から分離独立し、新たに発足した会社ですが、当社の前身には、こうした輝かしい歴史があるのです。
 三菱自動車工業は資本金2522億円で、従業員4万5千人(連結)を擁しています。1988年には株式を上場し、公開会社になりました。2000年、世界有数の自動車メーカーであるドイツのダイムラークライスラー社(DC社)と包括的提携契約に調印し、DCグループの一員となり、日本と世界をターゲットにした国際戦略を展開しています。DC社は、現在37.0%の株式を保有しています。

■ダイムラークライスラー社との提携■
 なぜ日本の自動車メーカーである三菱自動車が、ドイツのダイムラークライスラー社(DC社)との戦略的な提携に踏み切ったのでしょうか。三菱自動車は「三菱ブランド」で、日本のマーケットの中でこれまで地位を築いてきましたが、いまや自動車産業には国境がありません。そこで、将来にわたる研究開発と生産販売を考え、広範囲な分野での相互協力が可能なパートナーを視野に入れ検討した結果、DC社が候補に上がりました。
 DC社との提携で、三菱自動車には以下のような効果が期待できます。
 
 1. DC社の欧米型経営手法と、従来の三菱自動車の日本的企業文化が上手く融合し、より開放的で世界的視点を持った企業風土の形成が期待できる。
 2. DC社がこれまで追求してきた最先端技術(燃料電池・品質管理・安全技術など)へのアクセスが可能となる。
 3. 世界的視野を持つ人材交流・活用が可能となる。
 4. 共通資源を共同購入することができ、調達コストが大幅に削減できる。
 5. 共通する生産ラインを開発し、生産コストを削減できる。
 6. ダイムラーグループ共通仕様(注)のエンジンの共同開発が可能となり、開発コストも削減できる。(注:クライスラー社、韓国の現代自動車、三菱自動車)
 7. 海外におけるDC社の販売網を活用できる。

 こうしたメリットが活かせるとの判断に立ち、DC社との提携に踏み切りました。DCグループの中で、三菱自動車はアジア地区において中心的な役割を果たす会社として、小型車用エンジンの開発を通じて重要な役割を果たしています。そして、高級車以外のあらゆる車種(スモールカー、セダン、ミニバン、 SUV=スポーツ型多目的車など)の販売を展開しています。

■国際展開に向けて■
 こうした位置付けの中で、具体的にどのように国際展開を図ろうとしているのかを説明します。まず、世界を5つの地区に区切っています。5つの地域とは、「日本」「北米」「欧州」「アジア」「その他の地域」です。世界170カ国をこれら5地域に区切った上で、生産・販売、アフターセールス網を構築しています。2003年3月期実績(乗用車事業のみ)では、海外生産は30カ国に及び、総販売台数のうち約77%が海外で販売されています(総販売台数156万3千台のうち、海外販売120万9千台)。こうした実績からもわかるように、海外部門の比重は極めて大きい部分を占めています。

■製品開発の特徴■
 三菱自動車では、どのように製品開発に努めているのでしょうか。その基本理念を説明します。

   1. 顧客志向…常にお客様のニーズを第一に考えるという視点を堅持しています。
   2. 歴史・伝統・実績…これまで世界最高クラスの車を開発してきた背景があります。
   3. 個性豊かな車作り…同時にエンジニアリング志向、職人気質、本物志向の個性を常に念頭においています。
   4. 開発と生産の融合…開発の初期の段階から生産部門が関与しており、効率性を念頭においています。

 こうした基本理念のもと、統一された三菱デザインの車種の製品開発に努めています。現在取り組んでいる内容を、キーワードをもとにさらに詳しく説明します。
 まず、「クオリティ・ゲート・システム」という品質管理の方法です。これはDC社から導入したシステムで、ひとつの車ができるまでの各段階で「ゲート」を設け、品質を厳しく審査する方法です。最終製品になるまで、いくつもの関門(ゲート)をくぐらなければならないという品質マネージメントの思想です。
 次に、女性特有の意見を幅広く取り入れ、製品化していくことを目的に編成された「女性評価チーム」というものがあります。お客様が新車を購入する際、女性(特に主婦)の意見は非常に重要な要素となることから、岡崎工場と本社の女性からなるチームを結成し、その意見を製品開発に反映させることにしました。実際、「コルト」、「グランディス」などには多くの意見が反映され、今後の新型車開発にも積極的な役割を果たすことが期待されています。また、生産モデルの「プラットフォーム」の効率化を図り、DC社などとの共通化にも力を入れています。

■生産体制について■
 日本国内の生産拠点は、車両生産工場(名古屋製作所、水島製作所など)とエンジン、トランスミッション生産工場(京都工場、滋賀工場など)に大別されます。海外は、先ほど申し上げました各地区に生産工場を持っています。米国のほか、欧州ではオランダ、イタリア、またアジアではタイ、フィリピン、台湾、中国、マレーシア、インドネシア、インドなどに、そして「その他の地域」ではオーストラリア、南アフリカに生産拠点を築いています。
 これらの生産拠点には、共通した特徴があります。それは、全工場が同じコンセプトに基づいて生産している点です。
具体的に申し上げると、以下のように要約できます。

1. 標準化された生産システムを用いている。
2. 各工場で生産に関するノウハウを共有化している。
3. 生産性、品質レベル、コストなどを共通の指標で評価している。
4. 生産ラインを柔軟に運用し、異なる車種の相互補完を図れるようにしている。

 このように、生産方式の共通化を世界レベルで進めることで、品質の向上とコストの最小化を図っています。

■販売体制■
 三菱自動車ではこれまでの経緯で、「ギャラン系」と「カープラザ系」の2系統の販売ルートがありました。これを「三菱モータース」(Mitsubishi Motors)に一本化し、統一ブランドの販売体制としました。
 また、お客様に自分好みの車をお求めいただけるよう、「全ての装備をお客様が自由に選択することができる」カスタマーフリーチョイス(Customer  Free Choice:CFC)制度を導入しました。これにより、お客様にとって「選ぶ自由」、「選ぶ楽しさ」を提供することができるようになりました。


■環境保全■
 中期レベルでの持続可能な環境保全計画(環境サステナビリティープラン)を策定し、環境保全活動を全社をあげて推進しています。この活動を進めるにあたり、「環境マネージメント」に関しては、環境に配慮した車の設計仕様の推進やグリーン調達の推進を心がけています。また、リサイクルに関しては、日本国内外で自動車のリサイクルを徹底しています。さらに、生産工程においても廃棄物の低減と、省資源の徹底を心がけています。
 「地球温暖化防止」「環境汚染防止」についても、車自体の燃費の向上や、生産過程におけるコージェネレーションシステムの導入を図るとともに、将来を見据えた低公害車の開発(ガソリンエンジンの排出ガス低減、燃料電池車・電気自動車の開発)に力を入れています。

■モータースポーツの振興■
 車社会の将来を明るく切り開く意味で、三菱自動車ではモータースポーツにも積極的に参加しています。これにより、技術的先進性が確保できるだけでなく、量産車に応用できるメリットがあります。また、マーケティング面における効果も大きいという長所があります。主な戦歴では、ワールドラリーチャンピオンシップ(WRC)で1996年から1999年まで連続してドライバーズ・チャンピオンシップを獲得しました。クロスカントリーラリー(CCR)では、 2001年からダカールラリーで3年連続の総合優勝を果たしています。2004年は4年連続、通算9度目の総合優勝を狙います。
三菱自動車工業への質問と回答
社会広聴会員:
DC社との提携は、具体的にどのような効果を上げていますか?
三菱自動車工業:
提携のメリットは先ほど説明いたしましたが、シナジー効果(相乗効果)が一番大きいと思います。燃料電池車のように、初期投資に極めて多額の費用のかかる開発に、DC社の優れた技術力が活用できます。また、DC社は中国・北京ジープ社と関係がありますが、そこで三菱車の生産、販売展開が可能となりました。メキシコへの新規参入についても、既存のDC社の販売・流通組織を活用することで初期投資の軽減が図れました。
 
社会広聴会員:
提携により、生産サイドではどのようなメリットが出ていますか?
三菱自動車工業:
生産ラインの共通化を図り、コストの削減に努めています。また、他社の優れた点、例えばトヨタの技術(G―BOOK)や日産の技術(スリッパー)も採用するなど、他社と協力しながら競争しています。
 
社会広聴会員:
ドイツでは車のメーカーが共通で技術研究所を設けています。日本にはないのでしょうか?
三菱自動車工業:
車の衝突などについては、日本自動車工業会ベースでの共同研究もありますが、燃料など最新研究になると、各社独自に進めているのが実情です。
 
社会広聴会員:
高齢者や女性を念頭に開発を進めていますか?
三菱自動車工業:
ユニバーサルデザインを常に念頭に置いています。シートは通常650mmくらいの高さがいいのですが、あまり高くすると立体駐車場には入りづらくなります。そこで、コルトは600mmとしました。また、バックや車庫入れがしやすいように、コルトなどにはリア・ビュー機能を付けています。このほか、「女性評価チーム」の検討結果を反映して、助手席の下に物入れを作りました。さらに、お子様連れのお客様が、片手で折りたたみ式の「ベビーカー」をハッチバックに入れられるように、工夫をこらしています。
 
社会広聴会員:
リコール事件の教訓をどう生かしていますか?
三菱自動車工業:
順法精神を基本とし、品質面で決して妥協はしません。
一方、事業である以上、利益を上げなければならないという責務もあります。しかし、事件を二度と起こさないよう、内部監査を充実し、積極的な情報開示を行うよう努力しています。
 
出席者の感想から
●社内女性評価チームの効果が見られますが、社内のみならず社外女性や中高年のモニター制度の導入なども今後ぜひ検討してください。

●中部地方には自動車関連の会社が数多くありますが、実際の工場見学は初めてでした。ここまでオートメーション化が進んでいるとは思いませんでした。「昔の作業者は3カ月の研修だったが、今は3週間」といった説明に、改めて自動化の進展を感じました。

●「まじめ、まじめ、まじめ」のCMの通りの非常にまじめな、堅い会合でした。もう少しソフトな感じで企業とお話できたらと思いました。

●リコール事件の後に、品質管理や販売体制に大変努力されたことがよく分かりました。一方、外資との提携によるメリット(デザイン、性能、コスト面など)について、もっと社会にアピールしたらよいと思いました。
お問い合わせ先
(財)経済広報センター 国内広報部
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