企業と生活者懇談会
2003年11月20日 東京
出席企業:森ビル
見学施設:六本木ヒルズ

「新しい街づくりと産業を考える」


森ビルからの説明
■六本木ヒルズの歩み■
 六本木ヒルズは昨年4月にオープンして以来、東京の新しいランドマークとなりました。
来街者は2003年末までに3500万人に達し、当初予想をはるかに上回る好調な出足となっています。
 しかし、ここに至るまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。六本木ヒルズは、民間による国内最大級の市街地再開発事業として、オープンまでに17年の歳月を要しました。約400名の共同事業者が参画し、事業を推進してきましたが、その中心となったのが森ビル株式会社です。

■プロジェクトの発端■
 この地区は、もともとテレビ朝日の古い社屋を中心に、幹線道路沿いには中小ビルが建ち並び、南側には住宅街が広がっているエリアでした。しかし、特に南側の谷部に広がる木造を中心とした低層住宅密集市街地では、道路幅員も4mに満たないため、緊急車両の通行にも支障があるなど、防災上の課題もありました。このため、再開発の必要性はかねてから指摘されていましたが、1986年の東京都による「再開発誘導地区」の指定により、地区内の町会単位での街づくり懇談会・協議会などの勉強会が発足、地権者による再開発の勉強や事例見学などの活動が活発になりました。その後、1990年には再開発準備組合が設立、1995年の都市計画決定を経て、1998年の六本木六丁目市街地再開発組合の設立に至ります。こうして開発原案が固まり、2000年に東京都から「権利変換計画」が認可されました。同年工事に着手し、2003年4月に竣工、グランドオープンを迎えました。

■六本木ヒルズの特徴■
 六本木ヒルズのコンセプトは、「アートArt(美)」と「インテリジェンスIntelligence(知)」を融合した「アーテリジェント・シティArtelligent City」です。地下鉄日比谷線コンコースと直結した「66プラザ」にある蜘蛛の形のオブジェ彫刻をはじめ、各所に現代美術の世界的アーティストやデザイナーの作品が配置されています。
 さらに、2003年10月18日に森タワー52・53階に「森美術館(MAM)」がオープンしました。現代芸術を中心に、国際的な企画展を開催していきます。森美術館ではお年寄りからお子さんまで、アートに親しんでいただくためのパブリックプログラム、様々なサービスを提供するメンバーシップなど、多くの方々に日常の暮らしの一部としてアートを気軽に楽しんでいただける環境を提供しています。

■六本木ヒルズ地区内の施設■
 六本木ヒルズの中央に建つのは地上54階、高さ238mの超高層複合ビル「六本木ヒルズ森タワー」です。7階から48階のオフィス・スペースは基準階の貸室面積約4500m2で、超高層としては世界にも例を見ないものです。
 さらに、現代の情報社会に適応できる高速通信回線を備え、ダブルデッキ型(2階建て)のエレベーターの採用により、迅速な動線を確保しました。
 耐震性についても、最新のテクノロジーを駆使した制振構造により、震度7クラスの地震に対しても安全性を確保しています。
 また、この地区は東京ガスとの共同事業により、大規模ガスコージェネレーションとその廃熱を利用した地域冷暖房システムを確立、地区全体へ電力提供を行っています。電気と熱の効率利用により、省エネルギーに貢献するだけでなく、東京電力からのバックアップ回線、石油での自家発電装置により、電力供給にも万全を期しています。
 都市基盤整備としては、この開発で地区内を新たに全長400mの公道「六本木けやき坂通り」が貫通したほか、環状3号線と六本木通りの平面接続も実現しました。「六本木けやき坂通り」はその名のとおり、「けやき」が道の両側に街路樹として植えられ、クリスマスの時などはイルミネーションで美しく飾られます。
 けやき坂通り沿いには、世界のブランドを集めたショッピングエリアが広がります。ショッピングエリアは他にも4層吹き抜けのガレリア空間「ウエストウォーク」、地下鉄日比谷線コンコースに繋がる「メトロハット・ハリウッドプラザ」、毛利庭園に面した「ヒルサイド」があります。六本木ヒルズ全域に配置された約120の物販、約90のレストランは、いずれも「ここでしか得られない特長を持った店=ワン アンド オンリー(one & only)」をコンセプトにしています。 
 ホテル施設も、390室の客室、13の宴会場施設などを備えた「グランドハイアット東京」が、新たにオープンしています。
 文化施設としては、森タワー最上層に位置し、森美術館、東京シティビュー(展望台)、六本木ヒルズクラブ、六本木アカデミーヒルズからなる複合文化施設「森アーツセンター」のほか、テレビ朝日、9つのスクリーンと最新音響装置を持つ複合映画館「ヴァージンシネマズ六本木ヒルズ」があります。24時間バイリンガル対応のフロントサービスに加え、様々な間取りを備えた住宅棟六本木ヒルズレジデンスでは、都心生活での多彩なライフスタイルを満喫できます。

■自然との共生を視野に入れた開発■
 再開発を行う際、自然との調和・環境への配慮は極めて重要です。そう考え、建物を集約・高層化して生み出されたオープンスペースを積極的に緑化しています。六本木ヒルズ内には6800本の樹木があり、さらには可能な限りの屋上緑化も試みました。4300m2を誇る本格的な回遊式の日本庭園「毛利庭園」の毛利池には、宇宙から毛利衛さんが持ち帰ってきた「宇宙メダカ」が元気に泳いでいます。51本のけやきが400mにわたって連なる「六本木けやき坂通り」、緑のマウンドが印象的な「66プラザ」など、四季折々の表情が街を彩ります。また、「けやき坂コンプレックス」の屋上庭園には水田を設けました。ここで地域の小学生を招待して、田植えや稲刈りのイベントを開催しています。このけやき坂コンプレックスの屋上庭園は制振装置「グリーンマスダンパー」としても機能し、環境への配慮と耐震性の確保を同時に実現します。
森ビルへの質問と回答
社会広聴会員:
17年かかって、再開発が成功した秘訣はどこにありますか?
森ビル:
17年もかかってしまった、というのが正直な感想です。もともとこの地区にいらした約500名の地権者のうち、約100名は再開発の趣旨は理解しながらも、なかなか完成の目途が立たないということで、地域外へ転出されたのです。残った400名の地権者が再開発組合を結成、この組合が核となり、年間100 回を超える会合を持ちました。そうやって根気よく研究・意見交換を行っていくうちに、自然に「自分たちの街をつくる」というコミュニティー意識も育ってきました。われわれ森ビルが以前手掛けたアークヒルズでの開発実績が、住民の理解を得る上で大いに役立ちました。住民にアークヒルズを見てもらうことで、計画図面からだけではなく、このプロジェクトが完成した後の具体的イメージを共有することができました。
また、森ビルでは社員のうち200名が港区に住んでおり、社員全員が救急救命士の資格を有しています。社員が地域コミュニティーの中で防災要員として組織され、住民との一体感を持つのに貢献しています。
 
社会広聴会員:
こうした新しいビルができるのは結構なのですが、古いビルからテナントが流失し、新しい都市問題が生まれませんか?
森ビル:
新しくビルを建てても、バブル期とは異なり、あまり高い家賃は取れません。ですから、単に新しいという理由だけでテナントの流動化は起きません。現代は情報化の時代です。これに対応できるビルが日本になければ、国際企業は日本を通過し、アジアでの拠点をシンガポールや上海に移すことも考えられます。結果として、産業の空洞化が進みます。情報化時代に対応した機能を持つビルへの需要は高いと思います。こうした理由でテナントの流動が起き、空いたビルはむしろ再開発の機ととらえるような積極的姿勢が大切なのではないでしょうか。
 
社会広聴会員:
都心を再開発する意義と、建物の高層化に伴う環境への影響について説明してください。
森ビル:
世界の大都市を比較するミニチュア都市模型をみると、東京の「空」は過疎で、開発余地が十分あることがわかります。一方で、東京都心部へ通勤する人々の平均通勤時間は片道72分です。他の大都市と比較しても長く、いかに多大な時間とエネルギーを消耗しているかがわかります。一例として、東京とニューヨークの昼夜間人口の変化を見てみましょう。東京の都心4区(千代田、中央、港、新宿)の人口は、昼が350万人、夜が55万人です。ニューヨークのマンハッタンは昼が340万人で、東京とあまり差がありませんが、夜は150万人と東京の約3倍です。東京が職住近接からいかにかけ離れた環境であるかが分かります。
東京でこの問題を解決するには、まず十分な耐震性を備えた超高層ビルで「過疎」となっている空間を高度利用し、建物の集約・超高層化を図る。それによって生まれたオープンスペースを緑化し、豊かな都市環境を実現させる。こうした方法が有効なのではないでしょうか。
超高層化に伴う電波障害、日照、ビル風については、今後さらに研究を進めなければならないと思います。アセスメント(事前査定)を行い、問題解決に努めながら、日本の都市再生にさらに努力していきたいと考えています。
 
出席者の感想から
●懇談会で都市開発のポリシー、地道な努力、運営システムなどを知ることができました。17年の歳月をかけて夢・理想を追求する担当者の熱意を感じました。また、会員の意見や質問から、新たな視点にも気付かされました。

●合意形成に17年かけ、共に地域に住み、お御輿や雪かき、そして災害時の救急救命まで担っているという話を聞き、森ビルに対するイメージも大きく変わりました。

●見学会に参加するまでは、これまでの様々な「建設」や「開発」と変わらないのではないかと、懐疑的に考えていました。しかし、森ビルの再開発に対する高い理想と統一されたグランドデザインがあったからこそ、多くの地権者の同意も得られたのだと改めて納得がいきました。

●丸ビル、汐留、品川、そして六本木ヒルズと見て思うことは、それぞれの超高層ビルが地域の生活とどうかかわっているかです。従来の商店街や地域住民が新しいプロジェクトとどう共生していくか見守りたいと思いました。

●昔の映画「タワーリングインフェルノ」の記憶が残っており、高層ビル災害に恐怖を持っていましたが、地震・停電などに対して、戸建ての私の家よりも安全なことが分かりました。防災費用と復興費用のバランスを改めて考える機会となりました。
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