企業と生活者懇談会
2012年5月11日 京都
出席企業:戸田建設
見学施設:京都国立博物館平常展示館建築工事作業所

「想いを、つなぐ。戸田建設のものづくり」

5月11日、戸田建設が施工中の京都国立博物館平常展示館の建築工事作業所(京都市東山区)で、「企業と生活者懇談会」を開催し、社会広聴会員22名が参加しました。同社および建築工事の概要について説明を受けた後、施工現場を見学。午後は、京都国立博物館総務課の北條敦子環境整備係長による平常展示館建築工事プロジェクトに関する特別講演の後、質疑懇談を行いました。 
戸田建設からは、岡敏朗取締役、川原道雄大阪支店支店次長、加藤文夫CSR推進室長、澁谷由規広報部長、伊奈一彦大阪支店総務部長、砥石彰大阪支店京滋建築総合営業所長、半田雅俊技術企画部企画課長、金本忠士大阪支店建築工事部工事長、曽我正志大阪支店京都国立博物館平常展示館建築工事作業所長が出席しました。

戸田建設からの説明
■戸田建設の概要■
 戸田建設は、建築工事、土木工事、不動産事業を主たる事業とする総合建設業者です。従業員は4000名強、資本金約230億円、2011年度(平成23年度)の売り上げは4200億円強の事業規模で、日本の総合建設業者として上位から6番目に挙げられます。1881年(明治14年)の創業以来、早稲田大学大隈講堂、愛知県庁舎、大阪万博スイス館など、全国各地で時代を代表する建物の施工を手掛けてきました。 
 本社は東京都中央区にありますが、創業者の戸田利兵衛は京都の出身です。非常に縁の深い当地でも、近年数多くの実績を積み重ねており、現在は同志社大学今出川キャンパス良心館を建設中です。最近の工事実績として広く注目を集めたのが戸田ビルディング青山です。壁面の透過型太陽光パネルや地中熱利用など50種類の環境技術を導入して環境性能を追求した中規模ビルです。通常のビルに比べ40%以上のCO2(二酸化炭素)削減を実現しました。

■京都国立博物館平常展示館建築工事について■
 1995年(平成7年)に京都国立博物館は、老朽化した旧平常展示館、陳列館および講堂ならびに事務庁舎を建て替えて、一体化した「平常展示館(仮称)」の建設を決定しました。設計は著名な建築家である谷口吉生先生率いる谷口建築設計研究所が担当し、建築工事は戸田建設が請け負っています。 
 新平常展示館は、地上4階地下2階の鉄骨鉄筋コンクリート構造で大きく3つのエリアから構成されます。1つは窓がない展示部分。次に大型ガラスが連続する明るいエントランスロビー。そして学芸員などの執務環境となる管理棟です。2009年(平成21年)3月に着工し、約4年後の来年2013年3月の竣工予定です。博物館による準備を経て2014年春にオープンの予定です。 
 今回の工事は国家プロジェクト。全員が特別な仕事を担うことへの強い想いと自負を持っています。目標は2つ。1つは、戸田建設、協力会社、さらに施工に直接携わる作業員の持つすべての技術を結集し100年残る建物をつくること。もう1つは無事故無災害で竣工すること。この2つは事業主の京都国立博物館をはじめ、発注者の国土交通省、設計者の谷口先生などプロジェクトにかかわるみんなの想いでもあります。最前線の私たちは、みんなの想いを受けとめて「手間を惜しむな」を合言葉に日々施工にいそしんでいます。

■文化財を守る建築技術■
 文化財を守るための様々な建築技術を採用しました。展示室と収蔵庫には床免震装置を採用します。建物全体を免震構造とする技術もありますが、地下に免震装置と建物の揺れ幅分のさらなるスペースが必要となります。歴史ある土地への余分な掘削を避けるため、床免震技術で対応することとしました。 
 博物館は風致地域内にあり建物の高さが15メートル以内に制限されます。このため収蔵庫は地下に設けられますが、敷地は東山から鴨川へと流れる地下水脈の上にあり漏水防止は最重要課題です。まず地下階部分の掘削工事で高い遮水性を持つ山留め壁面を設け、さらにこの壁面に防水材を吹き付けて防水層をつくりました(先やり防水)。その上で地下躯体コンクリート工事に着手。このコンクリートの漏水対策も徹底しました。通常工法では型枠保持用のセパレータが工事後もコンクリート内部に残りますが、漏水の原因となりかねないので、利用しない工法(ノンセパレータ工法)を採用しています。 
 
■古都での工事■
 現場一帯は、豊臣秀吉が建立した方広寺の跡地です。工事前の調査で平常展示館南面のエントランスアプローチの直下から新たな遺構が発掘されました。工事中はもとより将来の改修作業などからも確実に保護するため、文化庁との協議の上、鉄板で養生しました。 
 博物館には重要文化財指定のレンガ造りの本館があり、新平常展示館の工事期間中も特別展を開催します。来館者の安全確保のため、資材搬入など工事現場へのアプローチは敷地西側に限られます。しかしそこには旧本館と同時に重要文化財に指定されたレンガ造りの正門や、史跡方広寺石塁があります。工事に先立ち、正門には防塵の仮囲いを施しました。石塁については、地盤を痛めない盛り土によるスロープを設置することで保護しつつ、工事現場へのアプローチを確保しました。隣接する三十三間堂などを訪れる観光客や近隣学園に通う生徒の安全のため、七条通と東大路通の工事車両の通行は控えています。工事は4年にもわたりますので、仮設の工事事務所も景観に調和したデザインとし、京都市役所の許可を得た上で建てました。 
 古都ならではの様々な配慮が求められる現場ですが、この経験が戸田建設の財産になります。京都で工事する際に必要なノウハウをしっかり引き継いでいくのも、この現場に携わる者の大切な仕事のひとつです。
見学の様子
 建設中の新平常展示館は、コンクリート躯体の基本構造はほぼ完成しており、今は来年3月の竣工に向けて、内装や仕上げの工事が進められています。
 場内では、最初に「ユレキテル」という地震警報装置の紹介がありました。気象庁の緊急地震速報を受けると、パトランプとサイレンが地震の発生を工事現場に伝え、作業員は直ちに安全動作に入ります。
 エントランスホールから建物内部へ。完成後はこのホールから庭園、さらに三十三間堂まできれいに見通せるそうです。続いて1階展示室を進みます。天井が高い右手北側には、仏像、彫刻が展示される予定です。展示フロアのほぼ中央から伸びている階段は、巡回して様々な展示物を鑑賞する来館者に適した動線となるそうです。完成後の新平常展示館からの眺望や設計の狙いまでを交えた丁寧な説明を受けて、参加者一同、オープンが一層待ち遠しくなりました。
特別講演
■「平常展示館建て替え工事について」京都国立博物館 北條敦子環境整備係長■
 京都国立博物館は、1897年(明治30年)5月の開館以来、貴重な文化財の保管と展示、調査研究という重要な使命を果たしています。貴重な文化財約1万2000件を収蔵・保管し、うち110件は国宝です。展示だけでなく、伝統文化の普及活動や海外研究者との交流など多彩な活動を進めています。レンガ造りの特別展示館(旧本館)は、開館時以来の歴史的な建造物で、重要文化財に指定されています。先ほどご覧いただいた工事現場には、1966年(昭和41年)にオープンの新館(旧平常展示館)が建っていました。今日の利用形態・ニーズに照らして使い勝手が劣り、耐震性能も不足していたため、1995年に開館100周年事業の一環として建て替えを決定しました。1999年(平成11年)には設計も完了していましたが、京都市美観風致審議会の景観専門小委員会に諮られたところ、レンガ造りの本館とは対照的な寡黙なデザインに厳しい意見があり、修正に向けた協議が始まりました。建物の長大感を解消するなどの設計変更が施され、ようやく2007年(平成19年)に内部を含めたすべての設計がまとまり着工に至りました。 
 このような大事業では、関係者は数多くそれぞれの立場や要求も様々です。事業主は博物館ですが、発注・監理は国土交通省です。博物館の中でも学芸員は作品の保存・展示を第一に建物を考えます。一方、管理部門としては維持管理のしやすさなどが優先事項です。設計者にとっては、博物館自体が100年間展示され続ける自分自身の作品ですから設計には強いこだわりがあります。「素晴らしい博物館をつくる」という想いを共にしながら、今もなお大いに議論を戦わせているところです。
戸田建設への質問と回答
社会広聴会員:
経営理念、ものづくりの姿勢を教えてください。
戸田建設:
「人がつくる。人でつくる」。これが戸田建設のブランドメッセージです。 
技術や機械を駆使して工事を進めますが、結局、その機械、技術を使うのは人間です。そして建物は図面だけあればつくれるものではありません。図面に込められている発注者の想い、設計者の想いを、コミュニケーションを取り合ってつくり込んでゆく。たくさんの想いがつながって初めて真に価値あるものは生まれます。人と人とのつながりで建物をつくるのが、戸田建設のものづくりの姿勢です。 
 
社会広聴会員:
採用している建築技術をさらに教えてください。
戸田建設:
コンクリート躯体から放散されるアルカリ成分を短期間に除去する当社独自の技術を採用しています。コンクリートから放散されるアルカリガスは収蔵物の色を変化させてしまう恐れがあります。これを防ぐためコンクリート表面に特殊な水の散水と乾燥を繰り返すことで、アルカリ分を強制的に吐き出させます。竣工時までに文化庁の指導値をクリアし、開館までにはさらに低減されます。 
旧平常展示館の解体に際しては、NEOカッター工法を採用しました。コンクリートをたたいて壊すのではなくて切って壊していく技術です。騒音と振動を抑えることができます。
 
社会広聴会員:
博物館の施工ということで特に留意している点は。
戸田建設:
建築現場は埃が出ます。設置したダクトの中に埃が積もっていて、運用開始時にその埃が空調の風と一緒に吹き出してくるようでは困ります。また、コンクリート面の間の隙間には粉塵がたまりますので、しっかり拭き取っておく必要があります。床免震の下の床部も防塵塗装で仕上げますが、最後にふたをする前にもう一度掃除をする予定です。これからも手間を惜しまずコツコツと、博物館に要求される環境性能を実現していきます。
 
社会広聴会員:
東日本大震災にどのように対応しましたか。
戸田建設:
地震発生後ただちに、社長を本部長とする災害対策統括本部を本社に設置。夕方には第1回の対策会議を関係5支店とテレビ会議システムにより開催しました。東北支店はインターネットが不通のため衛星電話を使って参加しました。 
東北支店では、震災2日後の10時には社員全員の無事を確認。約1カ月後の4月12日までには1072件のお客さまの施設の被災状況の確認を終え、うち671件につき応急・復旧作業を済ませています。 
復旧・復興に向けた活動として、震災翌日の12日には警察の許可を取った上で救援物資輸送の第1便を送り出しました。東北に向けては、本社・他支店から約70名の支援要員を派遣しました。3月30日には復興対策室も設置し本格的な復旧工事に向けた取り組みを開始しました。 
 
社会広聴会員:
日本の建物の環境技術の水準を教えてください。
戸田建設:
世界中の建設会社がエネルギー消費ゼロの建物を目指して研究を進めています。ヨーロッパが先進しており、アジアではシンガポールが積極的に取り組んでいます。日本が一番ということではありません。
 
社会広聴会員:
ガラスを多く使うビルに、防災上の不安はないのでしょうか。
戸田建設:
ガラスの建物への取り付け方によって変わります。ガラスが建物にがっちりと固定されているような構造の場合、地震が起きて建物が変形すると、ガラスはそのゆがみに追従できずに割れてしまいます。一方、最近建てられた高層ビルには外壁一面がガラスのものがあります。それらは建物の骨格である鉄骨や梁に、ガラスのユニットがぶら下げられているような構造です。ユニットは建物とは別に動けるため、ガラスには無理な力がかからず安全です。
参加者の感想から
●遺跡や周辺環境への配慮など古都ならでは制約の多い中、クリアするための技術を練り上げ工事を進めていく姿勢に、建設会社としての誇りを感じました。 

●戸田建設の今回の工事に懸ける想いと情熱を強く感じました。京都国立博物館の方のご講演もあり、新平常展示館オープンの期待が一層高まりました。

●京都での工事ならではの苦労と工夫がよく分かりました。建物をつくるということの社会的使命の大きさを改めて考えさせられた一日でした。 

●戸田建設が、環境保全や省エネルギーなど多様な観点から建築をとらえ様々な工夫をしていることは素晴らしいと思いました。大きなビルも、機械などは使われていても実際には人がつくっていることを再確認しました。
戸田建設ご担当者より
ご参加いただいた社会広聴会員の皆さまには、仮囲いの中という普段見慣れない工事中の現場をご見学いただきありがとうございました。皆さまから貴重なご意見をいただき、私どもにとっても良い勉強になりました。また励ましのお言葉をいただき大変感激しております。地震対策や震災復興など建設業が果たすべき役割は大きく、今後も皆さま方の声をお聞きしながら、事業活動に生かしていきたいと考えています。
お問い合わせ先
経済広報センター 国内広報部
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館19階
TEL 03-6741-0021 FAX 03-6741-0022
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