企業と生活者懇談会
2012年7月19日 愛知
出席企業:キリンビール
見学施設:名古屋工場(キリンビアパーク名古屋)

「もっと豊かなひとときを届けるために」

2012年7月19日、キリンビールの名古屋工場(キリンビアパーク名古屋)(愛知県清須市)で、「企業と生活者懇談会」を開催し、生活者20名が参加しました。同社および名古屋工場の概要について説明を受け、ビールなどの製造工程を見学。その後、質疑懇談を行いました。
キリンビールからは、築地輝夫執行役員名古屋工場長、名古屋工場の井戸田裕二副工場長、難波保幸副工場長、宮川昌一副工場長兼総務・広報部長、広報担当石黒雅子氏、広報部の安倍和文担当部長、広報担当野呂和世氏が出席しました。
キリンビールからの説明
■酒類業界の動向とキリンビール■
 キリンビールは、確かな技術力に加えてお客さま視点のマーケティング力を強みとして、新しい酒類市場の創造と商品ラインアップの充実に努めています。
 近年の酒類業界・市場の変化は激しく、お酒の売れ筋は大きく変わりました。1999年(平成11年)には全酒類中の出荷数量の6割を占めていたビールは、2009年(平成21年)には3割強までに縮小し、発泡酒、新ジャンルの商品カテゴリーの合計が同じ規模にまで拡大しています。時代の変化にどのように対応するかは酒類メーカーにとり最大のテーマ。キリンビールは2005年(平成17年)には「のどごし<生>」で新ジャンル市場を確立し、また2009年には「キリンフリー」でビールテイストノンアルコール市場を創造するなど、新市場の確立・創造に取り組んできました。おかげさまでご好評をいただき、多くの商品カテゴリーでトップブランドを持つことができました。それがキリンビールの特徴の一つとなっています。
 おいしいお酒を提供することが私たちの最終ゴールとは思っていません。「誰よりもお客さまの近くに。そしてもっと豊かなひとときを。」――これが私たちキリンビールの誓いです。目指すのは「キリンビールがお客さまの間に入ることで、ふれあいや絆が生まれて、お客さまと一緒になって感動を味わうことができること」。モノ(お酒)ではなくコト(喜び)を提供するのが究極の目的であると、常に意識するよう心掛けています。

■キリングループ■
 キリンビールは、キリングループの中核企業の一つとして主に国内酒類の事業領域を担っています。持ち株会社を筆頭に約300の会社から構成されるキリングループには、ほかに国内飲料、海外酒類飲料、医薬・バイオケミカルといった事業領域があります。グループの売り上げは2兆717億円、営業利益1428億円(2011年12月期)、総従業員数は約4万人に上ります。
 アジア・オセアニアなど海外売り上げの比率が国内同業他社に比べて高いのが特徴です。昨年(2011年)11月にはブラジルのスキンカリオールという綜合飲料の会社もグループの一員となりました。ブラジルは今後、サッカーのワールドカップやオリンピックが予定されており、このチャンスを成長につなげていきたいと考えています。

■名古屋工場について■
 名古屋工場は1962年(昭和37年)に操業を開始し、東海地区の皆さまのご支援のおかげで、今年で50周年を迎えることができました。従業員数はパートナー会社を含め約600名です。
 愛知県清須市に所在し、東海道新幹線に隣接する敷地の面積はナゴヤドーム5.5個分の約8万坪。1日当たり最大製造量は約2100キロリットル、大びん換算で約330万本です。一人で飲めば1万年もかかるでしょうか。
 ビールは主に「一番搾り〈生ビール〉」「ラガー」「クラシックラガー」、発泡酒は「淡麗〈生〉」「淡麗グリーンラベル」、新ジャンルでは「のどごし〈生〉」などを製造し、東海三県、静岡県、長野県、富山県に向け出荷しています。
 昨年から設備更新を積極的に進めています。冷凍機は省エネタイプに更新し、広報施設も「驚きと感動!心が動く、工場見学」をコンセプトにリニューアル。昨年は前年比1.5倍の方にご来場いただきました。
見学の様子
 最初にビールの原料について説明を受けました。主な原料の麦芽※1とホップの実物が展示され、形や香りを手に取って確かめることができます。
 次に仕込み室へ。原料を混ぜ合わせてビールのもととなる麦汁を造ります。並んでいる大きな釜は外見はどれもほぼ同じに見えますが、3つの異なる役割を担っているとのこと。まず糖化槽に麦芽と湯を投入し煮込みます。麦芽中の酵素によりでんぷんが糖分に変わり、甘い麦のおかゆ(もろみ)が出来上がります。これを麦汁ろ過槽へ流し込み、麦芽の殻を取り除きます。ろ過をした麦汁は麦汁煮沸釜へ移し、ホップを加えて煮込むと、ビール特有の香りと苦味が加わり、ビールのもと(麦汁)が出来上がります。今回は運良く、麦汁を試飲することができました。まだアルコールも炭酸ガスも含まない麦のジュースです。
 できた麦汁は、屋外に立ち並ぶ高さ約23メートルもの発酵タンクへ。さすがに覗いて見ることはできませんが、中では加えられた酵母が、麦汁中の糖分を食べ、その代わりにアルコールと炭酸ガスを造り出す発酵が進んでいるそうです。約1週間で貯蔵タンクに移し替え、約零度で1~2カ月ほど熟成させると、炭酸ガスがビールの中に溶け込んでいき、調和のとれた味わいが生まれます。その後、ろ過機に通して透き通った琥珀色になればビールの完成。ここまで約1~2カ月をかけてじっくりと造られますが、最後に見学したパッケージング工程では一転、目に止まらぬ速さで缶詰め・箱詰めされ、出荷に向かいます。
 ビール造りの過程でできる副産物は、すべて捨てずにリサイクルしています。麦汁を搾り出した後の麦のかすは牛の餌や土壌改良材に再生されるなど、副産物は100%再資源化されています。
 AR(拡張現実)技術や600インチ超ワイド映像を効果的に使った説明は、驚きに満ちて飽きさせません。工程がよく理解できたうえ、知識がしっかりと記憶にとどまる見学ができました。

※1 二条大麦に水を与えて発芽させた後、乾燥させて根を除去したもの

キリンビールへの質問と回答
社会広聴会員:
ビールなどの味はどのように決めるのですか。商品開発の進め方を教えてください。
キリンビール:
販売状況を調べる市場リサーチや、お客さまの好き嫌いや感じ方を調べる嗜好リサーチの結果を参考にします。一方で、キリンビールとしてお客さまにどのような商品を提供したいのか、つまり「食事に合わせやすい」「麦の良さが味わえる」といった基本コンセプトを定めます。そしてそれに沿ったビールを、商品開発研究所の小さなパイロットプラントで試醸します。少しずつ条件を変えた複数の試醸品を造り、モニター(一般消費者)のフィードバックを受けて微修正しながら、最終製品の製造法や味を決めていきます。並行して、マーケティング、プロモーションの仕方も考えなければなりません。
今年5月に「のどごし〈生〉」は新しいホップを使って爽快感を際立たせるリニューアルをしましたが、開発のスタートは2010年(平成22年)12月のことでした。約30種類ほどの試醸品を作成し、発売開始までに約1年半をかけています。
先ほど「モノよりコト」という視点を大切にしていると申し上げましたが、キリングループの食文化研究所では「どのようなときにお客さまは喜んだりするのか」「一本のビールを何分くらいかけて飲んでいるのか」といった、味以外の広範な分野についてリサーチを行っています。そのような研究成果も生かしながら、もっと楽しんでいただける新商品の開発に取り組んでいます。
 
社会広聴会員:
最近ビールテイストノンアルコール飲料が人気ですが、製造方法を教えてください。また、酒税はまったく掛からないのですか。
キリンビール:
「キリンフリー」の製造工程の前半はビールと変わりません。ご見学の中で麦汁を試飲いただきましたが、その段階まではビールと基本的に同じです。これはビールらしい味わいにこだわっているためです。
その後、発酵はさせずに、麦汁から余分な香味を取り除く一方、本来は発酵中に出てくるビール独特の風味を添加します。こうした工程には「淡麗ダブル」や「氷結」の開発で培った技術が生かされています。なお、「キリンフリー」はアルコール0.00%ですので酒税は掛かりません。
 
社会広聴会員:
日本のビールを海外展開する考えはありますか。
キリンビール:
10年以上前から米国、台湾等の海外に展開していますが、2009年に、米などの副原料を使わない麦芽100%に原料を変更したことによりビール純粋令※2のあるドイツでの生産が可能となり、ヨーロッパでの拡販も進みました。「KIRIN ICHIBAN」といった商品名で現在世界40カ国で販売中です。
 このように日本発ブランドのグローバル展開に取り組んでいますが、キリングループの成長にとっては、他国のグループ会社※3が育ててきた地域に根ざしたブランドの強化と拡販が、大変に重要です。
 ビールは、風土、嗜好、規制により求められる要素が変わります。例えば米国の「バドワイザー」は日本のビールに比べてすっきりしている印象ですが、乾燥した地域で飲むと日本のビールよりもおいしく感じられます。世界中で同一商品を広域展開することばかりにこだわらず、ローカルの味とブランドを尊重する戦略が、今日の主流です。

※2 「下面発酵ビールの製造において大麦麦芽とホップ、水、(酵母)、以外を使用してはならない」とする、16世紀に南ドイツで公布された法令
※3 サンミゲル(フィリピン)、ライオン(オーストラリア)、スキンカリオール(ブラジル)など
  
社会広聴会員:
品質管理上、最も注意を払っている点は何ですか。
キリンビール:
数多くありますが、ポイントの一つとして挙げられるのが、酵母の活性度、すなわち酵母の元気さを維持することです。日本酒やパンといった発酵食品では発酵の都度、新しい酵母を培養して使いますが、ビール造りでは酵母を再利用するのです。
繰り返し使うことで酵母にはある程度のストレスがかかってきます。酵母の元気が失われるとおいしいビールはできません。製造において一番気を使うところです。
 
社会広聴会員:
節電を行っていますか。
キリンビール:
今年も中部電力と連携して、節電に取り組んでいます。名古屋工場には工場が消費する電力の20%を賄うことができる1000キロワットの発電機があります。排水処理設備で発生するメタンガスを燃料にしたエンジンで駆動するエコロジーなものです。これを効率よく運転して電力会社からの購入を減らしています。
加えて、昨年からビールを冷やす冷凍機を効率の良いものに換えて電気使用量を減らしています。倉庫や事務所では、LED照明に切り替えたり、人がいるときだけ電気がつくような人感センサーも導入しています。
 
社会広聴会員:
リサイクルやエコへの取り組みを教えてください。
キリンビール:
現在、工場で発生する副産物は100%再資源化され、ほかの用途の原料に生まれ変わります。副産物は40種類に大別されます。これをさらに細分化、例えば廃プラスチックであればポリエチレン、塩化ビニールといったように細分別を徹底する一方、副産物の用途拡大も進めることで再資源化率100%を維持しています。購買に際してもリサイクル品やエコ商品を選ぶようにしています。こうした取り組みはキリンビール全社で進めています。
 
社会広聴会員:
コンプライアンスの取り組みを教えてください。
キリンビール:
コンプライアンスガイドラインを一冊のハンドブックにまとめ、従業員一人ひとりに配付しています。そこには「何をするべきか」「何をしてはならないか」等、具体的な事例が記載されています。「家族に見られて恥ずかしい行動をしていないか」というチェック項目もあり、コンプライアンス意識の啓発ツールとして活用しています。また定期的に従業員に無記名のアンケートを行い、結果や指摘を改善に結び付ける仕組みも導入しています。
飲酒運転については他業種よりも踏み込んだ取り組みをしています。業務や通勤で車を利用する従業員にはアルコールチェッカーを貸与し、乗車前に検査をさせ、万一検出された際は運転を禁止します。毎日のチェック結果は月末に提示させます。
参加者の感想から
●最新技術を駆使した分かりやすい説明で、楽しく見学できました。工場から出るゴミはなくリサイクル率100%とのことですが、これからも環境にやさしい事業運営をお願いします。
 
●質疑懇談の時間では、営業や製造、品質管理など様々な疑問についてご担当の方から説明を聞くことができて良かったです。キリンビールが、会社の理念としてお客さまとの距離を近づける努力をしていることを知りました。
 
●工場見学では、ビールの原材料から製品ができるまでの一連の流れを、映像、音、感触で紹介され分かりやすかったです。家族や友人にも紹介したいと思います。
 
●毎日の生活の中では商品を購入し、テレビコマーシャルで企業イメージを持つのみですが、この懇談会で社員の方と直接お話をすることで、キリンビールの企業理念、努力、社会貢献を理解し、信頼を深めることができました。
 
●素晴らしい企業理念を掲げ、環境や食品の安全、ステークホルダーなどを考慮して経営がなされていることがよく理解できました。導入している食品衛生・環境などのマネジメントシステムが形骸化したりコンプライアンスが見せかけとなるようなことなく、今後も引き続き発展を続け、世界的な規模の企業へと成長してほしいと願っています。
キリンビールご担当者より
 このたびは名古屋工場にご来場いただきまして誠にありがとうございました。社会広聴会員の皆さまからの貴重なご意見とご質問、そして温かな励ましのお言葉を、今後の事業活動に生かしたいと考えております。これからもお客さまに身近な食品を扱う企業として、生活者の皆さまとのコミュニケーションの機会を大切にしてまいります。
お問い合わせ先
経済広報センター 国内広報部
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館19階
TEL 03-6741-0021 FAX 03-6741-0022
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