企業と生活者懇談会
2013年3月22日 東京
出席企業:清水建設
見学施設:東京木工場

「受け継がれていく匠の技-ハイクォリティな空間創造に貢献する清水建設の木工技術」

3月22日、清水建設の東京木工場(東京都江東区)で、「企業と生活者懇談会」を開催し、社会広聴会員19名が参加しました。東京木工場の概要説明を受けた後に東京木工場を見学し、続いて質疑懇談を行いました。 
清水建設の建築事業本部東京木工場から、井手勇人工場長、田中正博氏、星合謙治氏、女屋光正氏、樋澤一道氏、武舎誠二製作グループ長、経営管理部から平谷敏CSR推進室長、安全環境本部地球環境部から伊東浩司主査が出席しました。
清水建設からの説明
■東京木工場の歴史■ 
 清水建設東京木工場は、1884年(明治17年)に開設され、来年2014年に操業130年目を迎えます。当時の清水組(現 清水建設)が、深川島田町(現 東京都江東区木場)にあった幕府御用材木商の敷地跡を取得し、木材切組場として作業所を開設したのが始まりです。 
 ゼネコン大手で木工専門の自社工場を持つのは清水建設だけです。創業者清水喜助(1783〜1859年)は、日光東照宮や江戸城西の丸の修理に参加した大工でした。「木工の内製を維持し技術・品質を確保することで、創業者のDNAを継承する」という経営幹部の強い意志があり、今日まで木工場が存続しています。 

■設計から製作、施工までをトータルプロデュース■ 
 あらゆる木工事の設計から製作、施工までを一貫して行っています。家具、建具※1、造作※2が主要製品です。 
 現在50名が働いています。約半数が製作担当。場内の機械設備と自らの技術を駆使して製作に当たり、残るメンバーが設計、施工などを担当しています。 

※1 部屋や外部との仕切りに用いる、障子・窓・戸などの総称。
※2 建築内部の仕上げ材・取り付け材の総称。かもい・天井・床など。


■伊勢神宮神楽殿から遊技施設まで■
 工事実績は、戦前は国会議事堂、戦後には歌舞伎座、平成では伊勢神宮外宮神楽殿が代表例です。ほかにも数々の学校、オフィス、寺社教会およびアトラクションの施設の木工事を手掛けてきました。 
 伊勢神宮外宮の神楽殿で使用された材料(木材)は20年ごとに行われる遷宮された時の材料を使用しつくられています。 
 
■木工場のこれから■
 建築需要の低迷や他社・工務店との競合もあって、従来の領域における仕事は減る傾向にあります。 
 東京木工場の将来にとって受注拡大は大きなテーマ。このため会社の規約を改正し、東京木工場が様々なお客さまから直接仕事をいただける体制に変えました。例えば、清水建設“以外”の建設会社が請け負ったプロジェクトに東京木工場が下請けとして参加し、木工事を担当できるようにしました。技術向上はもちろん業績改善も目指して、皆で力を合わせています。 
 
■主な製作工程■
−単板検収− 
 単板とは、木を厚さ0.2〜1.5ミリメートルに薄く紙状にスライスしたもの。これをベニヤ板や不燃板などの台板に貼り付けて、天然木の表情を生かした合板をつくります。1枚ずつ検査・選別した後、木目と単板の両端が平行になるようにカットします。木の色やむらなどを入念にチェックします。 
−練り付け− 
 カットした単板を位置決めして、プレス機でベニヤ板などに貼り付ける作業です。 
−木取り・加工− 
 木取りとは、丸太や大きな塊の木を、使う目的に適した大きさに製材することです。木に関する深い知識と長年の勘を必要とします。 
−造作− 
 組立です。基本的な方法は存在しますが、造るものにより形・材質が異なるため、都度、適した仕口(2つの木材の接合方法)や加工方法を考案し工夫します。 
見学の様子
■木の香る場内へ■
 想像以上に機械化が進んでいます。練り付けを行うホットプレス機、表面のサンドペーパー仕上げをするワイドベルトサンダーなど大小様々の機械が点在し、その傍らで職人が操作したり、動作を見守っています。パソコンへの入力データどおりに自動加工するNCルーターというハイテク機械は、小さな木工品を次から次へと削り出していました。 
多品種少量の受注生産とはいえ、均質に効率よく製作するには機械の活用が求められるとのことです。 
 
■受け継がれていく匠の技■ 
 機械化が進んでも、職人の材料(堅さ・水分)への深い知識、高度な技術、経験は欠かせないそうです。 
 練り付けでは、単板が材料によってはプレス後に伸びたり縮んだりするため、職人はその癖を見極めながら台板に配置します。伸びる材質を使う場合は、それを見越して間隔を空けながら位置を決めていきます。 
 木取りで使う、廻り縁※3を曲線加工する下平自動かんな盤の刃物は、職人自らが木の仕上がり具合をイメージしながらグラインダーで研ぎ上げます。「大工の見習いは10年近く刃物研ぎばかり」といわれるほどに研ぎは木工の基本。その姿勢はしっかり守られています。  
 図面通りに仕上げるのが腕の見せどころ。しかしすべてが図面に指示されているわけではなく、どのような接着剤を使うか、どのように下地材を組んで強度を持たせるかなど、職人の判断に委ねられる部分も多いとのこと。経験も求められる仕事です。 

※3 天井と壁の接する部分に設ける見切り縁のこと。
 
■無垢と単板■
 造作の工程では、製作中の「ドア」を見ることができました。正面からは、分厚い無垢の扉のようでしたが、断面を見ると単板やベニヤなどが精緻に重ねられた薄い合板でした。2枚の合板の間にはハニカム(蜂の巣)構造のダンボールを挟んで強度を確保。精度、強さ、美しさを併せ持ちます。 
 無垢は美しいが高価です。反りや割れも生じます。単板は、希少な木材資源を最大限に活用する方法の一つ。単板を使った天然木化粧合板を使えば、広い室内空間を、プリント合板では得られない本物の質感で彩ることができます。0.2ミリメートルの単板は焦げるだけで燃え広がらないので、不燃台板と合わせれば、消防法により木材利用が制限される高層階にも木質内装を提供できるとのことです。 
清水建設への質問と回答
社会広聴会員:
森林の保護・育成に取り組んでいますか。 
清水建設:
東京木工場では2011年(平成23年)に間伐材委員会を立ち上げ、森林の保護と再生などについて勉強と実習を行っています。その取り組みの一環で、神奈川県の丹沢で間伐※4を行っています。清水建設では他の地域でも森林整備に協力しており、社員やその家族がボランティアで参加しています。

※4 密生する木々を間引く作業のこと。残った木は太く健全に育ち、日光が届きやすくなった地面に下草が生え土壌が安定する。
 
社会広聴会員:
国産の木材は、どの程度使われているのですか。 
清水建設:
林野庁の統計によれば、約83%は外材で、残りが国産材です。つまり木材自給率は約17%。ほとんどがスギとヒノキです。
 
社会広聴会員:
国産材の使用が広がっていく可能性はありますか。 
清水建設:
2010年(平成22年)10月、二酸化炭素の吸収源である森林の整備、林業活性化などを目的に「公共建築物等木材利用促進法」が施行されました。これに伴い、国や地方公共団体が建てる小学校、集会場、保育所などの中規模建築物は、事実上、木造化や内装の木質化が義務付けられました。国産材の利用は徐々に伸びていくでしょう。 
間伐材を、燃料や家具などに積極的に使っていくことも森林整備につながります。東京木工場でも、間伐材を使ったテーブルを試作しました。間伐材らしく節が目立ちますが、この際「節があるのは悪い材料」という認識は改めていただければと思います。実際、国宝クラスの建造物でも節のある木材が使われています。裏に回して見えにくくしているのです。
 
社会広聴会員:
若い社員に技術を確実に伝えていくため、どのような工夫をしていますか。 
清水建設:
技能五輪をはじめとする社外の競技大会に積極的に参加させて、技能のレベルアップを図っています。毎年のように入賞者を輩出しています。大会に向けた練習の中で、先輩社員や入賞経験者が指導に当たり、技術を伝えています。 
直接指導するばかりではなく、仕事を任せるのも一つの方法です。例えば、木のおもちゃやグッズのアイデアを出させます。自主的に考え成果を出すことで、組織の中で自分の存在をアピールし、木工場の一員としての自覚を持つことができます。
 
社会広聴会員:
場内では一人ひとりが黙々と作業しているように見えましたが、コミュニケーションの機会は。 
清水建設:
班編成され、班長の指示のもとチームで製作を進めています。昔のように「棟梁の言うことは絶対」という雰囲気ではなく若者が意見を言える職場です。 
製作、設計、施工といった担当間のコミュニケーションも広がりました。話し合いながら、図面を書き、ものをつくっています。 
 
社会広聴会員:
ある工程を、長い間、専門的に担当するのですか。 
清水建設:
工員数が少なくなったことから、プレス、木取り加工、製作、造作など一連の工程を、ある程度、オールマイティーにこなしています。一方、ベテランには一つの工程に特化した者もいますので、若い社員を付けて技術を学び取らせています。
 
社会広聴会員:
技術伝承のためにも受注拡大が必要ですね。 
清水建設:
 一つには、良いものをつくって次の注文につなげること、つまりお得意先を大切にすることが重要です。 
加えて、新分野に挑戦し、新しい仕事とお客さまをつくり出すことです。先に説明したとおり、規約を改正し、顧客開拓の体制は整えました。 
具体的な取り組みの一つが、東京木工場ブランド「kino style」。ブックエンドやキッチンフックなど、生活により身近な木工グッズの製作を始めました。現在は株主優待品として株主の方だけにお届けしていますが、一般の方に向けた販売を検討しているところです。注文家具の製作も構想にあります。ご関心をお持ちいただければ幸いです。
 
社会広聴会員:
海外販売に取り組まれてはどうでしょうか。 
清水建設:
良いアイデアです。実は東京木工場でも、海外某国の行政施設に納品した実績があります。 
ある米国企業の創業者が和風建築・庭園のマニアで、米国に桂離宮を模した自宅を建てたと聞いたことがあります。その企業の日本オフィスの最上階には茶室を造りました。文化が継承されるためには、その価値を理解し支援するだんな(得意客)の存在が不可欠です。今や、外国人が、日本の木の文化を支えているということでしょうか。
 
社会広聴会員:
地域貢献活動を行っていますか。 
清水建設:
地元の子どもたちに木工の楽しさを伝えたいとの思いから、体験型の木工教室を開催しています。 
昨年(2012年)秋の江東区民まつりに参加し、主に小学生を対象とする「木と遊ぶものづくり教室」を開きました。夏休み期間中には、東京木工場内で「親子木工教室」を開催しました。
 
参加者の感想から
●清水建設の、技術や創業者のDNAの伝承にこだわる姿勢に感銘を受けました。 
 
●今までホテル、美術館、会議場などの内部空間の木造部分は何気なく見ていましたが、その一つひとつが匠の技に支えられて成り立っていることが分かりました。 
 
●木工文化が受け継がれていく様子に喜びを感じた一方で、林業の衰退や後継者不足などの問題を聞き、先行きが心配になりました。人材育成、木工製品の需要喚起などにより国を挙げて努力しなくてはならないと改めて感じました。 
 
●単板を貼り合わせて仕上げられた製品の精度が高いことと、複雑な曲面を仕上げるためのかんなの刃を職人自ら管理・加工して使用していることに感心しました。 
 
●木を熟知した社員の方々のお話も大変興味深く、貴重な機会になりました。木の新しい活用の場、活用の形を広げていくことで、伝統ある木工場がさらに発展していくことをお祈りしています。
清水建設 ご担当者より
 社会広聴会員の皆さまには木工製品の工場という通常では足を踏み入れる機会のない当工場を見学していただきありがとうございました。様々な貴重な意見をいただき、130年に渡り伝承し続けてきた木工技術を今後も後世へ伝えていく責任を改めて強く受け止める機会とさせていただきました。一般の方々向けの木工製品の販売もスタートできるよう着々と準備も整えてまいります。
 
お問い合わせ先
経済広報センター 国内広報部
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館19階
TEL 03-6741-0021 FAX 03-6741-0022
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