企業と生活者懇談会
2014年1月24日 広島
出席企業:IHI
見学施設:呉第ニ工場、ジャパン マリンユナイテッド呉事業所

「戦艦『大和』から先端航空機ジェットエンジンの部品製作まで~技術への挑戦」

1月24日、IHI呉事業所(広島県呉市)で「企業と生活者懇談会」を開催し、生活者10名が参加しました。会社概要の説明を受けた後、呉第二工場およびジャパン マリンユナイテッド(JMU)呉事業所を見学し、質疑懇談を行いました。
IHIからは、野口裕司理事・呉事業所長、高柳俊一理事 広報・IR室長、呉第二工場の中野裕二生産管理部長、呉事業所の加勢田喜代繁総務部長、広報・IR室の児玉豊史課長、また、JMUからは、呉事業所の高田利英管理部長が出席しました。

 

IHIからの説明

■IHIグループの概要■
 IHIは、昨年2013年(平成25年)に創業160周年を迎えました。黒船が来航した1853年(嘉永6年)、前身となる石川島造船所が誕生し、近代日本の夜明けとともにその歴史が始まりました。以来、造船から陸上機械、プラント、さらには航空・宇宙へと事業分野を拡張してきました。
 現在、IHIグループでは「資源・エネルギー・環境」「社会基盤・海洋」「産業システム・汎用機械」「航空・宇宙・防衛」の4つの領域で事業を展開しており、幅広い製品・システムを提供しています。また、これらの事業領域でお客さまの課題解決と価値創造を図るために、絶えず研究開発を追究しています。企業理念「技術をもって社会の発展に貢献する」のもと、「Realize your dreams」をコーポレート・メッセージに掲げ、卓越した“ものづくり力”で世界中の人々の夢の実現に向けて取り組んでいます。

■“造船の町”と呉事業所■
 1889年(明治22年)、旧日本海軍の呉鎮守府が開庁しました。同時に造船部が設置され、呉は“造船の町”として124年間の歴史を歩んできました。昭和初期には戦艦『大和』など多くの名艦が建造され、“大和のふるさと”としても広く知られています。
 呉におけるIHIの事業は、戦後に播磨造船所が旧海軍工廠の施設を借用して呉船渠を開設したことに始まります。当初は軍艦の解体作業を手掛けていましたが、一定期間を経て新造船も認められるようになり、造船事業を中心に発展してきました。1980年(昭和55年)には、呉第二工場が航空宇宙事業本部の所属となり、ジェットエンジン部品の生産を開始しました。2013年1月、ユニバーサル造船との経営統合によってジャパン マリンユナイテッド(JMU)が誕生し、造船・船舶事業はIHIの連結対象外となりました。
 呉事業所は現在、IHI呉第二工場とJMU呉事業所(昭和地区および新宮工作部)で構成されています。総敷地面積は約58万平方メートルで、その多くをJMU呉事業所の造船工場が占めています。従業員数は、事業所全体で約2000名です。

見学の様子

呉第二工場 
 IHIでは、瑞穂工場(東京都西多摩郡)、相馬第一、第二工場(福島県相馬市)、そして呉第二工場の4つの工場で、ジェットエンジンの部品の生産や修理、組み立て、整備を行っています。国内では防衛省が使用する航空機の大半のエンジン生産を担うほか、民間航空機用エンジンでは世界の主要エンジンメーカーに部品を供給しています。
 今回訪れた呉第二工場では、ディスク、シャフト、フレーム・ケーシングといった大型部品を中心に生産(加工)するほか、ジェットエンジンを転用したガスタービンの組立運転も行っています。規模の小さな工場ですが、もともと機械加工を専門としていた工場であり、技術的なノウハウが息づいています。 

■高精細なジェットエンジン部品■
 工場の正面入口には、ジェットエンジンの実機が展示されています。工場で生産されているという民間エンジンのファンケースやフレームは、いずれも大きな部品ですが、チタン合金を使用することで軽量化を図っているそうです。チタンの比重は鉄の半分で、実際に鉄とチタン合金でできた板を持ち比べてみると、その重量の違いが実感できます。
 工場内部には大型機械が並び、シャフトやディスク、フレームなど加工前後の様々な部品を目にすることができます。シャフトはタービンの回転動力をファンに伝える筒状の回転体です。長いものは3メートルにもなりますが、中空構造の内径・外径の中心をそろえてまっすぐに削ります。この工場では年間4000本以上のシャフトを生産しており、シャフト全体で約4割、3メートルクラスでは7割を超える世界シェアを持つそうです。
 ディスクは、ブレードを保持する皿状の回転体で、耐熱性の高いニッケル合金が多く使用されています。硬い素材ですが、直径が1000ミリを超え薄肉な部品は、ちょっと手で持ち上げただけでも0.2~3ミリ程度のたわみが生じてしまい、正確に削るのは非常に難しいそうです。この素材を変形させることなく、複雑かつ高い精度で加工するのがIHIの技術力です。 
 ディスク加工エリアの周辺には、取付具がたくさん見られます。ディスクを直接機械ではさむと変形やキズが生じるため、形状や工程ごとに冶具が必要となります。工場では約200種類を超えるディスク類を生産しており、使用する冶具は実に4000個にも上るそうです。エンジン生産にはコストも手間もかかりますが、事業の持続的成長にはこのような設備投資も欠かせません。
 工場の一角では、「非破壊検査」が行われています。蛍光塗料を使って金属表面にキズが無いか調べる検査で、工場から出荷する約1万4000個の部品全数で実施しています。また、工場のあちこちで加工した部品の「寸法検査」も行われています。こうした徹底した検査が、高い品質を支えています。 
 ふと目をやると、柱に「呉海軍造兵廠製」の文字が刻まれています。実は建物の骨格は当時のままで、白く塗られた壁にも赤レンガの面影が残ります。呉第二工場でジェットエンジン部品を生産していることは地元でもあまり知られておらず、今も“クレゾウ”(=呉造船所)と呼ばれることが多いそうです。 

■ガスタービンへの転用展開■
 さらに奥に進むと、護衛艦用ガスタービンが組み立てられています。スクリュー駆動に用いられる「LM2500」というタイプで、同じものを4基搭載して10万馬力の出力があります。近くには実艦の使用環境をほぼそのまま再現した設備があり、ここで実際に2基ずつ運転して性能確認をしています。
 「LM6000」という発電用ガスタービンもあります。このタイプは出力が4万キロワットで、1基で1万戸分もの電力を賄えるそうです。例えばオーストラリアでは、鉄鉱石の採掘エリアへの電力供給源として採用されています。 

JMU呉事業所 
 JMU呉事業所は、3本のドックを有する昭和地区と、ブロックや大型艤装品を製作する対岸の新宮工作部からなります。コンテナ船や石油タンカー、ばら積み貨物船など、様々な船を建造できるのが呉の特徴です。ほかに艦船修理や海洋浮体構造物なども手掛けています。昭和地区の敷地面積は約39万平方メートルと、造船所としては比較的狭いため、できるだけ生産性を向上させるよう、機械化にも力を入れています。 

■壮大なスケールの建造ドック■
 最初に、昭和地区最大の第三建造ドックを見学しました。ドックは長さ510メートル、幅80メートルと、そのスケールの大きさに圧倒されます。
 近くの桟橋には、全長330メートルの大型原油タンカー(VLCC)の姿があります。ちょうど見学当日の朝、ドックから引き出されたばかりだそうです。一見、既に完成しているように思えますが、実際はまだようやく浮かぶ状態とのことです。最終的に海に出るまでに、さらに2カ月近くの内部工事が必要となります。
 ドックでは、建造中のVLCCを間近に見ることができます。桟橋のVLCCと同時に建造されていたもので、船の後ろ半分が出来上がった状態です。これは「セミタンデム工法」と呼ばれ、第三建造ドックでは常に同時進行で1.5隻ずつ建造しています。
 ドックの向こう側には、船底に使われるブロックが何段にも積み重ねられ、次の作業に向けた準備が進んでいる様子がうかがえます。ここから約60日間で、残りの前半分を一気に組み立てていきます。

■“大和のふるさと”に残る大屋根■
 続いて向かったのは、かの有名な戦艦『大和』の建造ドック跡です。大屋根の骨組みが当時の姿のまま残され、壁には「大和のふるさと」と書かれています。この大屋根は、山から建造中の『大和』の姿が見えないよう、いわば目隠しとして設置されたそうです。ドックは1993年(平成5年)に埋め立てられ、現在は最新鋭の溶接ロボットを導入した平板工場へと生まれ変わっています。
 隣にある第二建造ドックには、真ん中に中間ゲートという仕切りが設けられています。これは、限られた敷地を有効活用する工夫の1つで、海側のスペースで小型船を建造している間に、残りのスペースでブロックを製作しています。
 さらに奥に見える第四修理ドックでは、艦船修理を手掛けています。

IHIへの質問と回答

社会広聴会員:
呉第二工場では、どのような安全・環境活動に取り組んでいますか。
IHI:
安全面では、現場の安全パトロールのほか、従業員からのヒヤリハット提案を実施しています。提案件数は年間3000件にも上りますが、ささいなことでもすべて改善することで、現場から根本的に災害要因をなくす本質安全に取り組んでいます。
環境面では、省エネタイプの機械や設備を導入することで、消費電力量の削減に努めています。工場における最大のエコは、“オシャカ”(不良品)をつくらないことです。オシャカをつくれば材料やエネルギーが無駄になることを、常に意識するように心掛けています。
 

社会広聴会員:
船の省エネ技術の開発状況を教えてください。
IHI:
JMUの技術研究所(津・横浜)では、次世代船の研究開発を行っています。津には全長240メートルの船型試験水槽があり、大型のモデルシップを使って高性能な新型船型を研究しています。また、推進効率を向上する省エネデバイスや低燃費機関プラントの構築、最も燃費効率の良い航路を示す運行支援システム「Sea Navi」の開発にも取り組み、従来船に比べて25%以上の環境負荷および燃費低減を実現しています。
今後は、太陽光発電や風力利用推進といった将来技術の研究開発を進め、長期的には温室効果ガス50%削減を目指しています。
 

社会広聴会員:
海外の造船会社に対して、日本はどうやって優位性を保っていくのでしょうか。
IHI:
1つには、この省エネ技術を磨くことです。船の燃料価格は10年前の約6倍に跳ね上がり、今や運航コストの5割を占めます。お客さまの間では燃費低減に対するニーズが強く、そのための省エネ技術は大きな武器となります。
もう1つの方策が、2013年1月の経営統合(JMU設立)による会社規模の拡大です。造船技術者の増加による開発力強化や、生産能力増強といったメリットが生まれ、規模で上回る韓国・中国勢に対抗することができます。
JMUは社名に“Japan”を冠していますが、将来的にはさらに多くの日本企業が参加して、一層拡大する可能性もあると思っています。
 

社会広聴会員:
技術者の育成にどう取り組んでいますか。
IHI:
JMUでは、数年前から「技能師範制度」を設け、第一線の超ベテランを「技能師範」に指名して、“匠の技”を確実に後任者に伝承する工夫をしています。また、ベテランを技能指導員とする若手教育にも取り組んでいます。
IHIでは、若手社員に自らの技術レベル向上のため、国家技能検定の受検を推奨しています。また、およそ20年ごとに国産エンジンを自社で設計製作するタイミングがあるため、設計技術者の育成にも力を入れています。

社会広聴会員:
人材育成の方針、求める人材像とは。
IHI:
人材=人財であり、人を宝のように育てることを基本方針としています。求める人材像としては、元気な人、そしてものづくりが好きな人であってほしいと思います。造船所は屋外作業も多く大変な職場ですが、自分が建造した船が形になり、大海原を走るのを実際に見ることができるというロマンも感じられると思います。
 

社会広聴会員:
「イプシロン」の今後の展望をお聞かせください。
IHI:
「イプシロン」は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)とIHIグループが開発した固体燃料ロケットです。人工知能を駆使し、手軽かつ高頻度に打ち上げることができます
日本での次回打ち上げ予定は2年後ですが、今後さらなるコストダウンを図るには、もっと打ち上げ回数を増やす必要があります。そのため、JAXAと協力しながら、小型衛星の需要が高まっている東南アジアの新興国などに積極的に売り込んでいきたいと考えています。
 

参加者の感想から

●これまで『大和』が建造された場所という認識でしたが、船からジェットエンジンまで、トップレベルの技術を誇る総合エンジニアリング会社に成長している姿を目の当たりにして驚きました。 

●世界で高いシェアを持つシャフトの製造現場を実際に見学して、本当にすごい技術を持った会社だと力強く感じました。 

●進水したばかりの巨大タンカーを間近に見て、あんなに大きな船をコツコツと造っていくのを想像すると気が遠くなる思いでした。 

●工場内のいたるところに安全に対する啓発や標語が掲げられ、安全面に注意を促している様子がよく分かり、企業姿勢が感じられました。

IHIご担当者より

 参加者の皆さまには、IHI呉第二工場およびJMU呉事業所という通常では足を踏み入れる機会のない造船現場とジェットエンジンの部品の製造現場をご見学いただきありがとうございました。様々な視点から貴重なご意見をいただき、160年にわたり伝承し続けてきた製造技術を、今後も後世に伝えていく責任をあらためて強く受け止める機会とさせていただきました。
 また、応援の言葉も頂戴し勇気もいただきました。今後もものづくりを通じ、地域に根差した事業活動を行ってまいります。

お問い合わせ先
経済広報センター 国内広報部
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館19階
TEL 03-6741-0021 FAX 03-6741-0022
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