企業と生活者懇談会
2014年7月3日 群馬
出席企業:協和発酵キリン
見学施設:高崎工場

「次世代の医薬品生産設備」

7月3日、協和発酵キリン高崎工場(群馬県高崎市)で、「企業と生活者懇談会」を開催し、生活者19名が参加しました。会社概要、バイオ医薬品の生産方法についての説明を受けた後、高崎工場を見学し、質疑懇談を行いました。
協和発酵キリンからは、高崎工場の西村浩一工場長、鈴木秀文製造部長、総務部の今田輝義氏、バイオ生産技術研究所研究推進室の武内雅春氏、コーポレートコミュニケーション部の中村博樹マネジャーが出席しました。

協和発酵キリンからの説明

■協和発酵キリンの事業展開■
 協和発酵キリンは、キリンホールディングスに属する医療用医薬品メーカーです。キリンビールの医薬事業を担っていたキリンファーマと、協和発酵工業が2008年(平成20年)に合併して誕生しました。キリンビールは名称のとおり、100年以上ビールをつくっている会社ですが、1989年(平成元年)から医薬品事業にも進出し、透析患者さんの貧血治療剤「エスポー」や、がん化学療法を計画通りに行えるように白血球を増加させる「グラン」などの医療用医薬品を販売してきました。協和発酵工業は1949年(昭和24年)に創立し、グルタミン酸を代表とするアミノ酸の生産から医薬品事業へ進出した企業です。アレルギー性疾患治療剤「アレロック」などを発売していました。
 当社は、腎、がん、免疫・アレルギー、中枢神経を中心とする領域で、最先端のバイオテクノロジーを駆使したバイオ医薬品の研究開発、生産、営業を一貫して行っています。現在、国内5カ所(高崎・富山・富士・堺・宇部)と海外では上海に生産拠点を有していますが、堺工場は来年(2015年)、富士工場は2017年に閉鎖し、それぞれの機能を他の工場に移管する予定です。生産拠点の老朽化や地理的な問題を解決し、生産体制を最適化する取り組みを進めています。
 高崎工場は、1989年にキリンビール高崎医薬工場として設立されました。キリンビールの主力医薬品を生産してきており、合併後も医薬品生産拠点としての役割は変わっていません。敷地面積は12万5000平方メートル、設立当初は建物も少なく、敷地内に野球場やサッカー場がありました。地元のJリーグチームに練習場として貸し出したこともあります。その後、事業拡大に伴い、これらに代わって多くの生産施設が建設されました。現在も建物の改造や、新棟の建設が続いています。ここで働く従業員も年々増えており、現在、隣接する研究所を含めて約420名の従業員が勤務しています。 
 工場の主な施設として、数種類の原薬(医薬品の有効成分)を製造する原薬棟、原薬から製品(製剤)を製造する製剤棟、製剤を保管し集荷する物流センター、医薬品の品質を保証するための様々な分析を行う品質管理棟および分析棟があり、さらに敷地内にはバイオ生産技術研究所があります。バイオ生産技術研究所では、既に見つかっている「薬のタネ」を医薬品として大量生産するための生産プロセスやスケールアップ技術について研究開発を行っています。
 現在、高崎工場で生産している主な原薬には、設立当初から生産している「エスポー」や「グラン」に加え、2007年(平成19年)に発売した貧血治療剤「ネスプ」、当社初の抗体医薬品「ポテリジオ」があります。「ネスプ」は当社で最も販売額が大きい医薬品であり、「エスポー」の改良品になります。「エスポー」同様、透析患者さんの貧血治療に用いる薬ですが、「エスポー」よりも投与頻度が低く抑えられるので、患者さんだけではなく、医師・看護師の皆さんからも喜ばれる薬となっています。「ポテリジオ」は白血病の一種である「成人T細胞白血病・リンパ腫」の治療剤です。現在は国内でのみ発売していますが、今後、日本以外の患者さんにも使っていただけるように準備を進めています。

■バイオ医薬品の製造方法と特徴■
 バイオ医薬品とは、遺伝子組み換えや細胞の培養などのバイオテクノロジーを使って製造する医薬品のことです。その製造は、遺伝子組み換え技術を使い、目的とする有効成分(タンパク質)を生み出す細胞をつくることから始まります。DNAと動物細胞を混ぜた専用の容器に電圧をかけると、DNAが細胞の中に送り込まれ、遺伝子組み換えが起こります。細胞の性質が変化して、目的の有効成分をつくるようになります。この遺伝子組み換え細胞の中から、最も効率良く有効成分をつくり出す生産細胞を選び出し、生産に用います。
 生産は、細胞を培養して増やすことから始まります。増やしたものから有効成分を取り出し、100%の純度になるまで精製を行います。これが原薬です。そして、この原薬に薬の安定性を高める成分などを加えて薬液をつくります。これをアンプル瓶などの容器に充填し、包装することにより医薬品が完成します。 
 バイオ医薬品の特徴として、高分子ということが挙げられます。低分子医薬品の代表例としてアスピリンがありますが、分子の数を部品の数に置き換えて例えると自転車になります。バイオ医薬品の第一世代であるヒト成長ホルモンは自動車です。最先端のバイオ技術によりつくられる抗体医薬品は飛行機に相当します。抗体医薬品は分子量が巨大で複雑なので、それだけ生産は難しくなります。そして、高品質な医薬品を安定してつくり続けるためには、有効成分を効率良くつくり出す生産細胞を選ぶことが非常に重要です。当社では、選抜した生産細胞をセルバンクとして保管し、永年使い続けられるようにしています。セルバンクは災害等による消失のリスクを防ぐために、工場内で分散して保管するだけでなく、工場以外の場所でも保管しています。 

■環境保全活動・安全への取り組み■
 高崎工場では環境保全活動に力を入れており、「協和発酵キリン高崎水源の森づくり」活動として、毎年高崎市倉渕町で間伐などの森林保全活動を行っています。ほかにも、工場周辺での清掃活動の実施や、高崎市主催の清掃活動への参加など、地域に根ざした取り組みをしています。工場のすぐそばを利根川が流れていることもあり、工場から出る排水には特に気を使っています。排水は工場内の専用の処理場に集め、活性汚泥法という方法で処理して放流しています。工場内の緑化も進めており、2012年(平成24年)には関東経済産業局長から緑化優良工場等関東経済産業局長賞を受賞しました。 また、安全への取り組みも徹底しています。高崎工場は操業から25年間、連続して休業災害件数ゼロを継続しています。 

見学の様子

■HA4棟(バイオ医薬品の原薬製造設備) ■
 HA4棟は、今年(2014年)4月に竣工したばかりの建物で、遺伝子組み換え動物細胞を用いた原薬を製造しています。建築基準法上は4階建てですが、天井が高く、また各階の間に空調や水の配管パイプが通っているため、一般的な建物だと6~7階建てに相当する高さになります。
 原薬の製造は、凍結保存している生産細胞を解凍するところから始まります。最初はフラスコで培養することから始めますが、細胞の増加に合わせて、小さな培養タンクから大きな培養タンクへと移し替えて、細胞を増やしていきます。2カ月程度培養を続けると、次の精製工程に移ります。精製工程では、カラムクロマトグラフィーという専用の設備を使って、不純物を取り除いていき、100%純度の原薬(タンパク質)を取り出していきます。製造の工程、特に培養工程では、雑菌がほんのわずかでも混入すると製造は失敗となるため、一連の工程は完全な無菌状態で行われます。
 高崎工場では、動物細胞用の培養タンクとしては日本最大級となる1万2000リットルの培養を行えるタンクを備えています。参加者は、様々な大きさのタンクや不純物を取り除くための複雑な設備を見学しながら、原薬の製造工程について学びました。 

■鳥居から感じる歴史■
 工場内を移動する際、きれいに整備された芝生の奥に社を目にすることができます。鳥居が立ち並んでいますが、この鳥居は新薬の出荷に合わせて増やしているそうです。鳥居の数に高崎工場の歴史の一端を感じることができました。 

■製剤棟■
 製剤棟では、薬液をバイアルやアンプルといった専用の容器に充填し、ラベルを貼り、包装する工程を行っています。参加者は、原料を量る秤量室、バイアルやアンプルを洗浄する洗浄機、薬液を容器に詰める充填室、バイアルに充填した医薬品の中に異物が入っていないかを検査する検液機などを見学しました。
 オートメーション化が進んでいる高崎工場ですが、秤量室で原料を量るのは今でも人の仕事です。多種多様な原料を量るため、機械化しにくいことが理由です。原料の秤量ミスは大きな品質事故につながりかねないため、本来なら短時間でもできる秤量作業を、複数人で1時間程度かけて行い、二重三重の確認をしています。また、原料を溶かす水や容器の洗浄に使用する水は、すべて高崎工場内でつくられた注射用蒸留水を使用しています。その日つくった蒸留水は、当日のみの使用とすることで、雑菌の混入などを防いでいます。
 参加者は、見学を通して、安全で高品質な医薬品を製造するために、徹底した取り組みが行われていることを知ることができました。

協和発酵キリンへの質問と回答

社会広聴会員:
経営統合の目的を教えてください。また、統合に当たって苦労したことはありますか。
協和発酵キリン:
キリンファーマも協和発酵工業も、バイオテクノロジーを核とした研究開発を行っていたことから、統合することで、より多くの薬を、スピード感を持って研究開発できると考えました。苦労したことですが、統合直前に社員1000人が集まり、「なぜこの仕事をしているのか」「どういう会社にしたいか」などを話し合い、新会社の理念をつくり上げたことです。意見を出し合う中では当然意見の食い違いもありましたが、新会社として結束するための良い取り組みだったと考えています。
 

社会広聴会員:
バイオ医薬品の安全性について。 
協和発酵キリン:
バイオ医薬品は分子量が多く、生物(細胞)が生産するので構造が複雑です。そのため、製造途中の中間体には薬として不要な成分も入ってしまいますので、これらを厳格な精製工程のもとで除去しています。また、ウイルス等の混入を防ぐため、原料の品質管理にも非常に気を使っています。完成した製品のチェック体制は何重にもなっており、徹底した品質管理を行っています。
 

社会広聴会員:
これからは化学合成医薬品よりもバイオ医薬品の時代になるのでしょうか。今後の見通しを聞かせてください。
協和発酵キリン:
バイオ医薬品が使用される割合は大きくなっていると感じています。全世界の医薬品市場のデータによれば、2002年(平成14年)には売り上げが10億ドル以上のバイオ医薬品は6製品しかありませんでしたが、2012年には31製品に増えています。また、世界で普及している医薬品トップ10のうち7品目がバイオ医薬品となっています。近年期待されているのは、抗体医薬品のように、病気の原因となるターゲットに特化して効力を及ぼす薬です。効果が強いだけでなく、副作用が抑えられるという期待から注目されています。
 

社会広聴会員:
薬の副作用について教えてください。 
協和発酵キリン:
薬に効き目があるということは、体の機能に影響しているということなので、それに伴い効果以外の作用(副作用)が出てくることは、やむを得ない面もあります。一方で、最近の技術革新により、バイオ医薬品のようにもともと体にあるものや、先ほどご説明したような抗体医薬品により、従来よりも副作用を減らせるような医薬品も発売している状況になってきています。
 

社会広聴会員:
新薬を発売する予定はありますか。 
協和発酵キリン:
新薬の研究開発は常に行っています。現在、当社ではがん、腎臓、免疫・アレルギー、中枢神経の領域で臨床試験の最終段階にある開発品が複数あります。パーキンソン病やぜんそくの治療薬、糖尿病が悪化した際の腎機能の悪化を抑える薬などです。開発の状況は当社ホームページでも情報公開しています。
 

社会広聴会員:
サプリメントは発売していますか。また、健康に良いサプリメントとはどのようなものですか。 
協和発酵キリン:
サプリメントなどの健康食品は、子会社の協和発酵バイオが発売しています。これらはあくまでも健康“食品”なので、効能効果をうたっているものではありません。医薬品は臨床試験を行い、どの程度の量を投与すればどのくらいの方が、どの程度改善するのか、どのような副作用が現れるのかといった有効性・安全性を精査した上で、厚生労働省の認可を得て初めて販売することができます。サプリメントと医薬品はこのような面で一線を画するということをご理解いただければと思います。
 

社会広聴会員:
工場の安全管理について、25年間休業災害件数ゼロの秘訣は何ですか。
協和発酵キリン:
研究開発から製造、販売、使用に至るまで、環境、安全、健康に配慮して事業を進めています。高崎工場ではISO14001を取得しており、環境負荷の少ない原材料を使用したり、廃棄物のリサイクルを進めるなどの環境保全対策を実施しています。連続無災害の秘訣は地道な活動の成果であり、華々しいことをしているわけではありません。マンネリに陥ることなく基本に忠実に、リスクアセスメントも徹底しています。

参加者の感想から

●製薬会社は、秘密主義ではないかという不安が訪問前にありましたが、企業および高崎工場を正しく理解してほしいとのお考えが手に取るように感じられ、真剣かつ誠実な対応に感激しました。 

●人の一生で医療のお世話にならずに終わることはないと思います。「たった一度の、命と歩く。」という会社の理念には感動しました。 

●バイオ医薬品を扱うのは、今までにない難しさが多々あると思います。私たちもいたずらに不安がったり、逆に期待しすぎたりするのではなく、企業の活動を理解し、評価する視点を持ちたいと感じました。

●情熱を持って新薬の開発に挑んでいるということがよく分かりました。患者にとって薬は希望です。ますますの発展を期待しています。 

●操業以来9000日以上休業災害件数ゼロと、胸を張って説明された工場長の柔和な笑顔が印象的でした。

協和発酵キリンご担当者より

 当社の高崎工場やバイオ医薬品について、一般の方にもできるだけご理解いただけるよう、分かりやすい説明を心掛けました。参加者の皆さまの忌憚ないご質問やご意見は、今後の企業活動に参考とさせていただける点も多く、このような機会をいただけたことをありがたく感じています。引き続き、安心・安全を基本に患者さんに貢献できるような医薬品が提供できるよう取り組んでまいります。

お問い合わせ先
経済広報センター 国内広報部
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館19階
TEL 03-6741-0021 FAX 03-6741-0022
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