企業と生活者懇談会
2016年3月1日 大阪
出席企業:阪急電鉄
見学施設:正雀工場

「阪急電鉄をもっと知ろう!工場見学で分かる安全と快適な運行への取り組み」

3月1日、阪急電鉄の正雀工場(大阪府摂津市)で、「企業と生活者懇談会」を開催し、生活者19名が参加しました。同社の概要、鉄道の安全と快適な運行の要である正雀工場の概要について説明を受けた後、工場で車両のメンテナンスの様子などを見学し、その後、質疑懇談を行いました。
阪急電鉄からは、山中直義広報部長、広報部稲荷英樹課長、都市交通事業本部技術部の毛利裕明副部長、中尾純利工場課長、工場課の堀江康生管理係長が出席しました。

阪急電鉄からの説明

■阪急電鉄の歴史■
 阪急阪神ホールディングスは、現在、都市交通、不動産、エンタテインメント・コミュニケーション、旅行、国際輸送、ホテルの6つの事業を展開しています。 
 その中核会社の1つである阪急電鉄の始まりは、1907年(明治40年)10月に小林一三が箕面有馬電気軌道を創立したことにさかのぼります。小林一三は、当時あまり栄えていなかった大阪の北摂地域、兵庫県の宝塚方面に線路を引くとともに、沿線地域に環境のよい住宅地を開発、分譲しました。当時、需要を創造しないと事業継続が困難という経営環境だったことから、沿線地域に住んでいただき、大阪まで鉄道を利用して通勤していただくことを考えたのです。さらに、箕面では動物園を開園。また、宝塚では温泉を開発し、歌劇団を創設しました。一方、大阪では梅田駅で百貨店の営業を開始するなど、沿線地域で幅広い関連事業を展開することで、その価値を高め、需要を創造して鉄道を利用していただくという、私鉄のビジネスモデルを生み出しました。

■お客様に選んでいただくために■
 阪急電鉄をはじめとする阪急阪神ホールディングスグループでは、「住みたい」「働きたい」「学びたい」とお客様に「選んでいただける沿線」になるよう、様々な取り組みを実施しています。
 一例を紹介すると、高齢者が住み慣れた街で生き生きとした生活を送っていただくことを目指して、リハビリ特化型デイサービスを沿線地域で展開しているほか、シニア向け会員サロンの運営を手掛けるロイヤルコミュニケーション倶楽部と提携し、趣味や旅行から日々の困りごとサポートまでを手掛ける「シニアライフ総合サポート事業」を実施しています。また、伊丹市と共同で防犯カメラを活用し、発信器を持った子どもや高齢者が街中の検知場所を通ると、その通過情報を保護者に通知することで安全を見守るサービスを今春から開始しました。さらに、女性が働きやすい沿線を目指して、アフタースクール(民間学童保育)Kippo(キッポ)を開業し、仕事と子育てを両立しやすい環境を整えています。
 このように、いよいよ人口減少時代に突入する中、沿線開発によって需要を創造するという従来の小林一三モデルを、沿線価値の向上によって「選ばれ続ける沿線」をつくるというモデルにシフトアップし、「安心・快適」そして「夢・感動」をお届けできるよう、今後も様々な取り組みを進めていきます。

■快適性・環境性向上のために新たな技術を導入■
 すべてのお客様に快適な移動空間を提供するとともに、環境性能も向上した新型車両を導入しています。1000系は2013年(平成25年)秋、1300系は2014年(平成26年)春に導入し、見た目は従来のイメージを継承しつつ、モーターなどに最新技術を導入し、消費電力を30~40%抑えるとともに、低騒音機器の導入や車体の遮断性を高め、車内の静粛性を高めています。また、2010年(平成22年)より、LED照明の導入にチャレンジし、省エネ性、環境性の追求にも取り組んでいます。

■すべてはお客様のために すべては安全のために■
 阪急電鉄では、使命である鉄道輸送の安全をしっかりと守るため、「すべてはお客様のために すべては安全のために」という安全スローガンを掲げています。また、「有責事故ゼロ」の継続という安全目標を掲げています。有責事故とは、同社の業務上の責任で、お客様の生命や財産を奪ってしまう事故のことです。これらを掲げることで、鉄道の運行に関わるすべての社員の安全に対する意識を高め、気持ちを1つに取り組むという強い思いが込められています。今日、訪問した正雀工場では、検査・保守の確実な実施、教育訓練の充実による人材育成の強化、安全に関する設備投資などに積極的に取り組んでいます。

■正雀工場の概要■
 阪急電鉄は、大阪梅田を中心に神戸三宮まで延びる神戸本線、創業のルーツである宝塚まで延びる宝塚本線、京都河原町まで延びる京都本線の大きく3つの路線を保有しています。車両はすべての路線を合計すると約1300両保有しています。正雀工場では、そのすべての車両の自動車でいう車検のような検査である全般検査と重要部検査を一手に担っています。本工場は、1968年(昭和43年)から営業を開始し、4年または走行距離が60万キロメートルを超えない期間に一度、車両の主電動機、走行装置、ブレーキ装置などの主要部分について検査する「重要部検査」、8年を超えない期間に一度、車両の全般にわたって検査する「全般検査」の2つの検査を主に実施しています。これらの検査は1両当たり7日をかけて、年間約300両の車両を検査しています。また、同工場は、環境への負荷低減に積極的に取り組んでおり、環境マネジメントシステムの国際規格であるISO14001を取得しています。

見学の様子

■正雀工場内の見学■
 まず、車両の心臓部であるモーターの整備を見学しました。阪急電鉄の列車の多くは8両編成で、16台のモーターを搭載しているそうです。そのモーターを1つひとつ丁寧に分解し、故障や不具合などを確認し、細部まで点検した後、組み立てて、回転試験をします。回転試験が終われば、車両に搭載して試運転などを行い、最終の確認をします。作業をする社員の方の緊張感と高い技術力に見学者は舌を巻いていました。
 次に電動発電機の整備を見学しました。電動発電機は、車両に送電される直流1500ボルトの電気を車内の照明や空調で使用するために、交流の200ボルトに変換するための設備で、1つの重量が2トンもあります。阪急電鉄では、このような重量物を扱う際、安全面を考慮し、できるだけ持ち上げる作業(クレーン作業)を少なくする工夫をしています。人の手ではなく、無人自動搬送装置を用いて、持ち上げることなく、水平に移動させ、できるだけ安全にかつ効率的に作業ができるようにしています。この無人搬送装置はボタン1つで所定の場所まで運んでくれるとともに、作業中に音楽を流して、周りで作業している人に存在を伝え、巻き込み事故などが起きないよう工夫されています。
 続いて大量に並んで置かれている車輪の整備について説明を受けました。車輪は、走行中に表面が損傷したり、ブレーキをかけた際に傷ができてしまったりすると、車庫で削るなどして整備する作業があります。何度も繰り返すと少しずつ車輪が小さくなってしまうので、工場で新しい車輪に取り替えているそうです。
 次に車体と台車をくっつけ、1つの車両にするためのドッキングの瞬間を見学することができました。車両は1両当たり車体が20トン程度、台車が10トン程度で合計30トン程度あるそうです。ドッキングする際は、車体を地上から遠隔操作する専用のクレーンで吊り上げ、四方から確認しながら作業を行います。普段は下から見ることがない車体を見上げながら、目の前で繰り広げられる迫力あるドッキング作業に参加者は終始興奮の声を上げていました。
 検査をすべて終えた車両は、最後に自動塗装機に入り、阪急独特のカラーに塗り上げられます。塗装は4年に1度行われています。独特の塗装をすることで、車体が鏡のように反射し、大変美しい印象になる一方、車体に傷やへこみなどがあると目立ってしまいます。そのため、塗装の際は、へこみなどをパテで補修して、車体の形を整えてから塗装しています。駅のホームに電車が入ってきたときに、学生などが電車の車体を鏡代わりに使用できるくらいの滑らかな状態にすることが、塗装に関わっている社員のプライドだという話を聞いて、「私も鏡としていつも利用しています」といったうれしい声が聞こえていました。

■資材倉庫の見学■
 正雀工場のすぐ横にある資材倉庫も特別に見学しました。この倉庫には、明治時代の電車など、歴史ある車両のカットボディが展示されていました。これらの車両は、年に2回正雀工場で開かれる「阪急レールウェイフェスティバル」の際に一般公開されています。明治時代から大正時代は大工さんが木で電車をつくっていたそうで、大工用語の名残が今も電車のパーツの名前として残っているそうです。

阪急電鉄への質問と回答

社会広聴会員:
駅・ホームなどにおける安全設備にはどのような工夫や取り組みがあるか教えてください。
阪急電鉄:
駅・ホームには、様々な安全設備が設置してあります。例えば、お客様が誤って線路内に転落するなどの緊急時に電車を停止することができる列車非常停止ボタンがあります。また、電車とホームの間に転落したことを知らせる転落報知装置や電車の接近を知らせる列車接近警告表示器、目の不自由なお客様もホームを安全に利用できるよう内方線付き点状ブロックなども設置しています。なお、駅・ホームと同様に踏切でも安全装置の設置を進めています。踏切内での異常をいち早く電車に知らせるための踏切非常通報装置、踏切内に車などが取り残されたことを検知する踏切障害物検知装置などについては2017年度内に全踏切への設置を完了する予定です。

社会広聴会員:
電車の安全システムについて教えてください。
阪急電鉄:
電車にはATS(Automatic Train Stop)装置(自動列車停止装置)が付いています。これは、電車の速度を常時監視し、信号などに従って、制限速度を超えると自動的にブレーキを作動させるものです。阪急電鉄では、1970年代に全線で設置を完了しています。また10年程前から、新たに改良したパターンATSを導入して、誤通過の防止や終端駅での車止めへの衝突を防止するための新たな取り組みも実施しています。
 

社会広聴会員:
車両は何年ぐらい使用しますか。
阪急電鉄:
阪急電鉄では、新車から廃車まで約50年間使用します。50年間メンテナンスはもちろん続けるとともに、25年をめどにリニューアル工事を実施し、内装や電子部品などを大規模に更新します。その際、LED照明などの最新の省エネ機器を導入しています。また、車両をきれいに維持するために、5日に1回程度、洗車を行います。雨の後などで特に汚れが目立つ場合は、連日洗車をすることもあります。きれいな伝統的な車両の色、つやを50年間守るため、日々きれいな状態を保っています。
 

社会広聴会員:
阪急電鉄の座席は座り心地が良いと感じますが何か工夫されていることはありますか。また、緑色ではなく、小豆色の座席が最近見られますが。
阪急電鉄:
阪急電鉄では、天然のアンゴラヤギの毛(モヘア)を生地に使っています。天然の毛を使っているため、長く使うと毛が寝てしまうなどの苦労もありますが、4年または8年に1度程度張り替え、お客様に快適にご乗車いただけるように努めています。また、座席の色については、優先座席の明確化のための取り組みです。優先座席を使用するお客様に分かりやすいように色を変えています。
 

社会広聴会員:
人材育成において(特に電車を運行する人)注力している点を教えてください。
阪急電鉄:
 一番は安全を意識した作業を常にできるような人材の育成に取り組んでいます。「ミスは誰でも起こし得る」「昨日までの安全は今日の安全とは限らない」といったことを意識し、小さなミスが大きな事故につながる可能性があるという認識のもと、安全に運行や作業ができるよう、他社の事例も含めて、どのようなリスクがあるのかなどを常に考えるようにしています。今後も安全の維持・継続ができるような人材の育成に努めていきます。
 

参加者の感想から

●阪急電鉄が、常に業界のリーディングカンパニーとして、自覚と誇りを持って、画期的な省エネ技術を新車両に採用したり、LED照明など先進的な取り組みを推進されていることに、感心しました。

●広大な工場内部は見学通路だけでなく、汚れたり傷んだりした車体や台車を取り扱う作業区域、作業台・机、工具棚、部品棚なども隅々まで整理・整頓・清掃されており、整然とした作業環境に驚きました。

●部品の精密さ、点検・補修をする技術者の高度なテクニックなどのすべてが安全につながっていると実感しました。

●様々な方の丁寧な仕事の上に安全・安心・快適な運行が成り立ち、走っている電車なのだと認識を新たにしました。そして、安心・安全が当たり前と思えるのは、企業の努力があるからこそと感じることができました。 

●座席について、普段乗る電車の中で、一番好きな乗り心地、手触りでしたが、天然のアンゴラヤギの毛を使用しているということを知り、納得しました。

阪急電鉄ご担当者より

 このたびは、阪急電鉄正雀工場にお運びいただきまして、誠にありがとうございました。
 当工場では、全従業員、故障のない快適な車両をご提供できるように日々検査業務に努めておりますが、今回皆様からのご質問や忌憚のない貴重なご意見を頂戴することができ、改めてさらなる安全・安心な車両の提供を目指していかなければいけないと、一同気持ちを新たにすることができました。
 今後も、阪急電鉄をご愛顧賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。なお、正雀工場では見学の受け入れを通年で行っています。ぜひ、お待ちしています。

お問い合わせ先
経済広報センター 国内広報部
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館19階
TEL 03-6741-0021 FAX 03-6741-0022
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