企業と生活者懇談会
2017年6月8日 東京
出席企業:ヤクルト本社
見学施設:中央研究所

「世界の人々の健康を守りたい~乳酸菌 シロタ株に込められた想い」

6月8日、ヤクルト本社中央研究所(東京都国立市)で、「企業と生活者懇談会」を開催し、社会広聴会員15名が参加しました。同社と中央研究所の概要説明を受けた後、創始者 代田 稔の研究への想いが息づく代田記念館や一般公開していない研究棟を見学し、質疑懇談を行いました。 
ヤクルト本社からは、中央研究所の長南治研究管理センター所長、有馬直美研究管理センター研究広報課課長、加地留美研究管理センター研究広報課指導研究員、木村雅行特別研究員、濱里一明研究管理センター参与、広報室の夏目裕理事兼室長、小林謙一副参事、宮岡素朗課長、児平未来CSR推進室主事補、上窪悠生CSR推進室主任が出席しました。

ヤクルト本社からの説明

■ヤクルト本社の概要■
 ヤクルトの創業は1935年(昭和10年)ですが、ヤクルト本社は、戦後、全国に拡大したヤクルトの販売会社を統括する機関として、1955年(昭和30年)に設立されました。現在は、「私たちは、生命科学の追究を基盤として、世界の人々の健康で楽しい生活づくりに貢献します。」という企業理念のもと、食品、化粧品、医薬品の製造・販売と国際事業を展開しています。2017年(平成29年)3月期決算では連結で売上高3783億円となっています。
 食品事業は、腸内細菌のバランスを改善することで人に有益な作用をもたらす微生物であるプロバイオティクスを摂取できる乳製品を中心に健やかな毎日を支える飲料や食品を製造・販売しています。腸内に生きて到達する乳酸菌 シロタ株は「ヤクルト」「ジョア」「ソフール」などで摂取できます。また、大腸で働くビフィズス菌 BY株は「ミルミル」など、胃で働くB.ビフィダム Y株は「BF-1」で摂取できます。さらに、糖の吸収を穏やかにする特定保健用食品「蕃爽麗茶」など、時代のニーズに合わせた商品を提供しています。
 化粧品事業は、皮膚や粘膜を保護する乳酸菌の働きに着目し、開発が始まりました。開発の考え方は、乳酸菌飲料で体の内側・おなかの調子を整え、化粧品で体の外側・お肌の健やかさを守る「内外美容・健腸美肌」です。「Beauty(美)+ens(本質)」が由来の「Yakult Beautiens(ヤクルトビューティエンス)」にも、その想いが込められています。代表的なシリーズは、独自の保湿成分を配合した「パラビオ」「リベシィ」です。「お肌・からだ・こころ」の全ての健康を守るため、乳酸菌のさらなるチカラを提案しています。
 医薬品事業は、医療用医薬品のほか、一般用医薬品や医薬部外品などを製造・販売しています。特に力を入れているのが、医療用医薬品の抗がん剤です。「カンプト」は同社で開発した最初の抗がん剤で、大腸がん、肺がん、婦人科がん、胃がんなどの治療に使用されています。また、「エルプラット」は腫瘍細胞の増殖を抑制する働きがあります。このように、医薬品を通しても人々の健康に貢献しています。

■ヤクルト独自の流通販売方法■
 「ヤクルト」が発売された当時は、生きた菌を飲む習慣がありませんでした。まずは、生きた乳酸菌を腸に入れて腸内環境を整えることが健康につながることを、多くの人に知ってもらう必要がありました。そこで、生まれたのが、家族の健康を守る主婦に同じ主婦の目線から“良さ”を伝える「ヤクルトレディ」によるお届けシステムです。日本では1963年(昭和38年)から導入され、現在約3万5600人のヤクルトレディが活躍しています。また、ヤクルトレディが商品を届けながら、1人暮らしの高齢者の安否を確認したり、話し相手になる社会貢献活動「愛の訪問活動」も1972年(昭和47年)から続けています。
 1964年(昭和39年)に台湾からスタートした国際事業においても、アジアや中南米でヤクルトレディの販売システムが導入されています。同社の海外展開は、少人数の日本人社員がその国に入って市場を開拓する農耕型マーケティングが中心です。現地の方を採用し、現地の文化に合わせてヤクルトレディの制服も変えるなど、地域に根差した生産・販売の環境づくりと人材育成を行う「現地主義」を大切にしています。時間はかかりますが、その地域に浸透すれば、簡単に撤退することもありません。
 現在、海外では約4万5800人のヤクルトレディが活躍しています。

■ヤクルト本社中央研究所の概要■
 ヤクルト本社中央研究所は、医学博士の代田 稔が1955年に京都の自宅に設立した代田研究所が始まりです。代田は、病気にかかってから治療するのではなく、病気にかからないための「予防医学」、栄養素を吸収する場所である腸を丈夫にすることが健康で長生きにつながる「健腸長寿」という考えに基づき、腸を守る「乳酸菌 シロタ株」を一人でも多くの人に手軽に飲んでもらえるように「誰もが手に入れられる価格で」提供することを提唱しました。この考えは「代田イズム」として受け継がれ、全ての研究活動の基礎となっています。
 1967年(昭和42年)に東京都国立市へ研究拠点を移し、2016年(平成28年)4月に、研究管理棟、基礎研究棟、食品研究棟、医薬品・化粧品研究棟、品質・技術開発棟、共用研究棟、エネルギー棟を持つ、最新鋭の研究施設に整備しました。研究所では、腸内微生物や人の健康に役立つ有用微生物を研究する基礎研究、そこで得られたデータについて人での有効性を検証し、有効な素材を製品化に向けて開発する製品化研究を一貫して行い、研究開発のスピードアップにつなげています。

見学会の様子

■ヤクルトの原点「代田イズム」を体感■
 代田記念館は、代田の生涯と研究開発の歴史を受け継ぐ同社の取り組みを紹介する施設として、2016年に開館しました。館内は7つのゾーンで構成され、ヤクルトの原点「代田イズム」を体感できます。
 入口では、代田の出身地、長野県産のヒノキを使ったヤクルト容器の美しいモニュメントが出迎えてくれます。
 誰が見ても「ヤクルト」と分かる容器は、「こけし」をイメージした形状です。2011年(平成23年)に立体商標に登録されました。参加者は、容器の中ほどのくぼみが、握力が弱い人でも握りやすく、飲む際にたくさんの量が出てむせるのを防ぐための工夫と聞き、感心していました。
 1899年(明治32年)に誕生した代田は、幼少期に伝染病がはやり、多くの方が亡くなるのを目の当たりにします。この体験が代田を医学の道に進ませました。その後、京都帝国大学医学部で研究を続け、良い菌の働きで悪い菌を抑え込んだらよいのではないかと考え始めます。そして、様々な微生物を調べ、候補となる乳酸菌を絞り込み、胃液や胆汁に負けない乳酸菌を選び抜くため、耐性試験を繰り返しました。ついに1930年(昭和5年)、生きて腸に届く乳酸菌「ラクトバチルス カゼイ シロタ株」(乳酸菌 シロタ株)の強化培養に成功しました。
 その後、1935年(昭和10年)、福岡県福岡市に「代田保護菌研究所」を設立し、「ヤクルト」の製造・販売を開始しました。「ヤクルト(Yakult)」は、エスペラント語でヨーグルトを意味するヤフルト(Jahurto)に由来します。1940年(昭和15年)には販売専門の「代田保護菌普及会」が各地に設立されました。参加者は、当時の「ヤクルト」も、一日当たり「はがき一枚」と手頃な価格だったと聞き、「人間の幸せは健康であることから始まる」という代田の想いに共感していました。

■乳酸菌 シロタ株を観察■
 2種類の顕微鏡で乳酸菌 シロタ株を見比べます。乳酸菌 シロタ株は、無色透明で光を透過するため、通常では見ることができません。まず、紫色に染色した状態を光学顕微鏡で観察します。細長い線に見えるのが乳酸菌 シロタ株で、顕微鏡では1ミリ程度に見えますが、実際は1マイクロメーター(1000分の1ミリ)の大きさです。次に、プレートに「ヤクルト」を1滴垂らし、生きている乳酸菌 シロタ株を微分干渉顕微鏡で観察します。乳酸菌 シロタ株と乳たんぱく(カゼイン)の固まりが見えます。乳酸菌 シロタ株自体に運動性はありませんが、菌や乳たんぱくの周りの水分子が振動することで動いているように見えます。参加者は、乳酸菌 シロタ株を食い入るように見つめていました。
 展示の中には、乳酸菌 シロタ株の種菌のアンプルもあります。凍結乾燥すると半永久的に生きて保存することができます。種菌は、温度を厳重に管理され、中央研究所から各工場へ運ばれています。

■ヤクルトの最先端の研究を体感■
 ここからは、一般に公開されていない研究施設を見学しました。はじめに、医薬品・化粧品研究棟です。分析センターには、底を切り取ったヤクルト容器をろ材として活用した「ヤクルトA&G水浄化システム」を展示しています。コーポレートスローガン「人も地球も健康に」を体現する独自のシステムで、ろ材に付いた微生物が汚れを分解し、生活排水や工場廃水、河川などを浄化する仕組みです。汚水を生物処理するポイントは、微生物を健康体に保ちながら繁殖させることです。「ヤクルト」容器の形状と材質は微生物のすみかに適し、川底の石のような役割を果たします。1991年(平成3年)以降、国内外のヤクルト工場に導入され、兵庫三木工場ではろ材1250万本を使い、事業所排水の90%を浄化しています。また、浄化槽は、東日本大震災の被災地にも寄贈され、仮設診療所事業を支援しています。参加者は、展示水槽の澄んだ水は実は2年以上も交換していないと聞き、驚いていました。
 続いて、化粧品研究フロアへ進みました。化粧品の性能検査を行う「皮膚計測環境調整室」では、再現性のある正確なデータを取るため、皮膚の検査に影響する温度と湿度を調整しています。また、香りの検査を行う「官能検査室」には、中央にスライドする扉がついた机が置いてあります。被験者が香りのサンプルを試しますが、扉で検査員の顔を見えないようにすることで、検査員の表情の変化が他の検査員の検査結果に影響を与えないようにしています。
 次に、基礎研究棟で、同社が開発したおなかの中の菌を計測する腸内フローラ解析システムYIF-SCAN®を見学しました。このシステムでは、採取した便を安定液の入った専用の容器に入れ、機械で菌のDNAなどを抽出して、菌の種類や量を計測するので、「迅速」「簡便」「高精度」が特長です。「迅速」では、培養法で1カ月かかる解析作業が数日で完了します。「簡便」では、自動解析システムとすることで操作が簡略化されました。「高精度」では、熟練技術を必要とせず、誰が分析しても同じデータが取得できます。また、微生物の遺伝子情報を利用した一般的な解析システムに比べて菌の検出感度が優れており、数百から千個程度の少量でも計測できます。さらに保存性も向上しました。培養法では、酸素を苦手とする腸内細菌を操作しなければならず、時間との戦いでした。現在は、安定液のおかげで、室温で1カ月間保存でき、多数のサンプルを同時に分析することが可能になりました。

ヤクルト本社への質問と回答

社会広聴会員:
乳酸菌 シロタ株の効果を教えてください。
ヤクルト本社:
 研究の結果、良い働きをする腸内細菌が、健康を守るために欠かせない存在であることが分かってきました。おなかの健康を守るためには良い働きをする菌で悪い働きをする菌を制し、腸内細菌のバランスを整えることが大切です。ただ、乳酸菌を摂取していればよいわけではなく、「生きて腸に届いたか」が重要です。乳酸菌 シロタ株は生きて腸まで届き、整腸作用、感染防御作用、免疫調節作用の効果が認められています。そのため、病院や高齢者施設でも取り入れています。最近では、メンタルヘルスにも効果があることが分かってきました。乳酸菌の知られざる力を引き出すため、日々研究を続けています。
 

社会広聴会員:
「ヤクルト」の商品開発の姿勢を教えてください。
ヤクルト本社:
 約80年前に「ヤクルト」を発売してから、有害事象の報告はありません。それは、安全・安心をお届けするために素材や製品に関する安全性の評価を行うだけでなく、日本、ヨーロッパ、インド、中国などでも有効性を検証しているためです。科学的な裏付けを積み重ね、その姿勢を守り続けることが製品づくりの基本です。また、「ヤクルト」の味は発売以来、変えていません。時代の変化に合わせ、カロリーや糖分を抑えた商品などを開発しています。
 

社会広聴会員:
ヤクルトの事業の方向性を聞かせてください。
ヤクルト本社:
 当社は、人類普遍の願いである「健康」が、事業の根幹にあります。その実現のため、科学に基づいた商品を、ヤクルトレディという販売組織でお客さまにお届けし、商品の効果を体感しながら愛飲していただいています。これがヤクルトの成長の源です。また、「Yakult Vision 2020」で長期ビジョンを発表しています。企業理念と持続的成長の実現を目指し、プロバイオティクスのパイオニアとして、有用菌のエビデンスを全世界に普及し、安全・安心で人々の健康に寄与する独自の商品やサービスを提供していきます。また、事業活動だけでなく社会貢献活動を通じて、社会から必要とされる企業を目指し、企業価値の向上を実現していきます。
 

 

社会広聴会員:
海外での生産体制について教えてください。
ヤクルト本社:
地域に親しまれる企業を目指し、海外26の工場でヤクルト類を現地生産し、現地で販売を行っています。製造用菌株の種菌の製造や品質管理は、当研究所が中心となって行い、半永久的に種菌を保存する技術も開発しました。特に生きた菌、食品を輸送する際の温度管理には、細心の注意を払っています。

参加者の感想から

●「代田イズム」が浸透していることを実感し、製品の安全性に信頼を抱きました。「健腸長寿」の話から、「長生きすることは幸せ」であることを思い出しました。

●研究所は「乳酸菌 シロタ株」の製造所でもあり、宇宙空間へも出港する「ヤクルト」の母港だと知りました。 

●乳酸菌と大腸菌がせめぎ合う映像は印象的でした。腸内細菌のような微生物が1000種類約100兆個も存在するということは驚きでした。

●すれ違う社員の方々がにこやかに会釈され、とても自然なのに驚きました。ヤクルトの強さを支える一端をここにも垣間見る思いがしました。

ヤクルト本社ご担当者より

 このたびは、当社中央研究所にお越しいただき、誠にありがとうございました。私たちは「代田イズム」(「予防医学」、「健腸長寿」、「誰もが手に入れられる価格で」)の考えを、全ての事業の原点と位置付けています。
 最新鋭の施設と最適な研究開発体制を敷き、これからも確かな科学的エビデンスに基づいた企業活動で、世界の人々の健康で楽しい生活づくりに貢献していきます。

お問い合わせ先
経済広報センター 国内広報部
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館19階
TEL 03-6741-0021 FAX 03-6741-0022
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