企業と生活者懇談会
2018年3月14日 東京
出席企業:戸田建設
見学施設:慶應義塾図書館

「歴史的建造物を後世に残す戸田建設の技術」

3月14日、戸田建設が保存修理工事を行っている慶應義塾図書館(東京都港区)で「企業と生活者懇談会」を開催し、社会広聴会員12名が参加しました。慶應義塾の繁森隆管財部長、渡辺浩史管財部主任による慶應義塾図書館についての説明、戸田建設による同社および工事についての説明を受けた後、慶應義塾図書館を永く後世に伝えるために採用された「免震レトロフィット工事」の現場を見学し、その後、質疑懇談を行いました。 
戸田建設からは、早川誠取締役常務執行役員本社建築本部執務、澁谷由規執行役員本社秘書部長(広報・CSR部担当)、東京支店の木村幸宏支店次長(建築施工担当)、木村靖建築工事2部工事3室作業所長、刀川安満建築工事2部工事3室副所長、鮫島敏見建築工事技術部技術1課長、石戸孝人建築営業第3部営業1課長、久原寛之建築工事技術部技術1課主任、本社広報・CSR部の河東田豊昭部長が出席しました。 

戸田建設からの説明

■戸田建設の概要■
 戸田建設の歴史は、1881年(明治14年)、東京の赤坂で戸田利兵衛が戸田方と称して請負業を開始したことから始まり、2021年には創業140周年を迎えます。 
 1912年(明治45年)に竣工した慶應義塾図書館は、同社が施工した現存の重要文化財としては最古のものになります。当時の最新の技術を駆使した大型工事であり、この工事にチャレンジすること自体が、同社を大きく飛躍させる契機となりました。昭和には、早稲田大学 大隈講堂(1927年)、朝香宮邸(1933年:現東京都庭園美術館)、大阪万博スイス館(1970年)、平成には、ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル(1991年)、飯田ダム(1991年)、ベトナムバックマイ病院(2000年)など、国内外において様々な分野における建設物を手掛けてきました。
 戸田建設グループの2017年(平成29年)3月期の連結売上高は4227億円で、事業種類別構成比は、建築工事が73.3%、土木工事が25.4%、不動産事業が1.3%となっています。そのうち、建築工事では、医療・福祉施設が19.3%、教育・研究・文化施設が19.0%と高く、今後はこのような強みをさらに強化していくとともに、浮体式洋上風力発電事業や農業6次産業化を目指す取り組みなどの新事業領域についても挑戦し、収益基盤の多様化を図っていきます。

■“喜び”を実現する企業グループ ■
これからの戸田建設グループのあるべき姿、存在価値を示すグローバルビジョンとして、「“喜び”を実現する企業グループ」を掲げています。「お客さま、社員、取引先、ひいては社会全体の“喜び”をつくり出し、それを自信と誇りに変えて成長を続けていく企業でありたい」という思いが込められていて、その実現のために、働き方改革を推進するとともに、「安全性No.1」「生産性No.1」を目指して企業活動を行っています。
 働き方改革では、望ましい働き方を明確にして、それを体現するオフィスや諸制度を充実させたり、メリハリのある働き方を実現するための仕組みづくりを継続的に行ったりするなど、ワーク・ライフ・バランスの充実に向けた取り組みを進めています。
 安全性については、「安全は中心となる価値である」との理念の下、安全管理に取り組んでいます。あらゆる企業活動のベースに安全を置いて、より川上から安全を作り込む“労働環境整備のフロントローディング”を導入して以来、労働災害件数は徐々に減少してきています。
 生産性については、現場において新技術やICTを積極的に活用し、業務の効率化・省力化を図っています。また、より川上で各組織が同時並行的に議論をすることで、従来の縦割りの組織活動において発生していた設計段階と施工段階との間での手戻りなどによるロスを減少させています。 

■建設業の「将来の担い手不足」解消に向けて■
 現在、建設業では、将来の担い手不足が大きな課題となっていて、総務省の「労働力調査」によると、1997年(平成9年)から2015年(平成27年)までの18年間で、建設業の就業者数は685万人から500万人へと185万人も減少しています。特に若年層の減少が目立っていて、相対的に高齢層の割合が高まっているため、若年層の就職促進と長期間の定着を図ることが根幹的な課題となっています。
 同社は、こうした課題解決に向けて、2016年(平成28年)に「一般財団法人戸田みらい基金」を設立し、就労機会の拡大、技術・技能の向上を実現するとともに、建設業全体の発展に貢献することを目的に・若手技能者の採用や育成に資する活動に対する助成、・女性技能者の継続就労に対する助成、・外国人技能実習生の受け入れに対する助成、などを行っています。

見学の様子

■慶應義塾図書館の概要■
 慶應義塾図書館は、慶應義塾の創立50年記念事業として、曽禰中條建築事務所の設計、戸田組(現:戸田建設)の施工により1912年に竣工した、慶應義塾の理念を象徴する記念碑的な建造物です。
 1923年(大正12年)には関東大震災により被災、1945年(昭和20年)には戦災により書庫以外が全焼しましたが、大規模な工事により復旧し、書庫などの増改築を経て、現在の慶應義塾図書館は、図書館本体、第1書庫、第2書庫、第3書庫などから構成されています。構造としては、竣工当時からのレンガ造に加え、復旧や増築の際には、鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造が採用されています。
 1969年(昭和44年)には明治後期のゴシック様式を代表する建築として、図書館本体および第1書庫が重要文化財の指定を受けています。

■保存修理工事の概要■
 今回の保存修理工事は、築105年以上経った慶應義塾図書館を次世代に保存・継承するために計画されたもので、2017年2月から着工し、2019年5月に竣工を予定しています。主な工事の内容としては、建物の耐震性を強化するための免震レトロフィット工事と、文化財としての価値を保護するための屋根や外壁、内装などに対する補修工事が挙げられます。
 免震レトロフィット工事とは、既存の建物を免震構造に作り替える耐震改修工法のひとつです。建物の基礎などに免震装置を新たに設けることで、建物のデザインや機能を損なうことなく耐震性を強化できるため、歴史的建造物のように外見に手を加えられない建物の耐震改修に特に有効です。主に基礎または地下階において工事を行うことになるため、工事中も建物を使用し続けることができるという特長もあります。
 同社は、これまでに愛知県庁舎や名古屋市本庁舎など数々の重要文化財で免震レトロフィット工事による耐震改修を施工してきました。
 今回は、特に耐震性の向上が必要とされる、図書館本体と第1書庫、第2書庫を施工しています。総重量約1万6000トンの既存建物を支える基礎に対して、補強のために鉄筋コンクリート(RC)の梁や耐圧スラブなどを構築した後、合計54基の免震装置を設置して、建物の耐震性を強化します。慶應義塾図書館は、主構造のみならず基礎もレンガ造であるため、鉄筋コンクリート(RC)造の建物と比較して、施工中に地震などの影響で建物に変形が生じた場合、亀裂や破損が生じやすく、細心の注意が求められます。また、戦災などにより竣工当時の資料が不十分な中、建物の保持方法や施工中の地震対策といった、難易度の高い施工計画を実施しなければなりません。これまでの実績に裏打ちされた綿密な事前検討と様々な解析・シミュレーションを行い、万全な安全対策の下、重要文化財である慶應義塾図書館に“万一”が発生しないよう、保存修理工事に取り組んでいます。

■歴史的建造物を後世に残す舞台裏をのぞく■
 慶應義塾図書館の外観や玄関ホールにある慶應義塾建学の精神を表すステンドグラスなどを見学した後、免震レトロフィット工事が行われている地下に降りて、工事の状況について説明を受けました。
 現在、地下では、掘削最終段階の3次掘削を終え、耐圧スラブを構築中。その前の2次掘削のステップで、既存の基礎直下を掘削し、その都度地盤支持力の低下した分を鋼管杭で受け換えるという作業が行われた結果、直径約300ミリメートル、長さ約14メートル(地中部分含む)の鋼管杭が地下全体で計207本も立ち並ぶ状況となっていました。
 既存の基礎を一気に掘削すると、建物に亀裂や破損が発生する恐れがあるため、基礎を少し掘削しては鋼管杭で受け換えて、また掘削しては受け換えてという地道な作業を、安全性とバランスを確認しながら、着実に行っていく必要があります。また、1本1本の鋼管杭に掛かる応力が常に変化していくことから、掘削するエリアと207本の鋼管杭を打設する順番は、解析・シミュレーションに基づいて定められています。これらの鋼管杭は、54基の免震装置を設置する工程において一時的に必要なもので、最終的には切断・除去されます。

■地震の影響を抑える免震装置■
 次に、今回の工事で採用された「球面すべり支承免震装置」の実物大モデルを見学し、仕組みについて説明を受けました。
 球面すべり支承免震装置は、建物と地盤の縁を切り、その間にプレートやスライダーが配置された構造となっています。地震時には、スライダーが上下のプレートの間で振り子のように移動することで、建物への地震の影響が低減され、建物の損傷を防ぐことが可能となっています。

■戦争の傷痕を色濃く映す屋根裏■
 最後に、工事直前まで蔵書の保管に使用されていた第1書庫の屋根裏を見学しました。ここでは、ぐにゃりと曲がった鉄骨をあちこちに見ることができますが、これは、太平洋戦争末期に空襲に遭い、焼夷弾による火災の影響で曲がってしまった鉄骨を、現在でもそのまま利用しているものです。今回の工事では、これらの鉄骨については補修工事を行わず戦争遺産として残すこととなりました。

戸田建設への質問と回答

社会広聴会員:
なぜ建築工事における医療施設や教育施設の売上高比率が高いのですか。
セイコーホールディングス:
関東大震災や戦災からの復旧において、医療施設や教育施設の工事を積極的に手掛けてきた中で、時代の流れに応じた技術やノウハウを蓄積するとともに、お客さまからの信頼を獲得してきました。施工実績の積み重ねから築いた技術力・提案力や信用が新たな受注につながっていると思います。
 

社会広聴会員:
若年層に対する広報で実践していることを教えてください。
セイコーホールディングス:
 建設業は、本来の魅力が伝わりにくいこともあり、働き方改革を推進するとともに、最新の魅力的な現場の状況を伝えていくことを意識しています。また、仮囲いの外からは見ることのできない現場の姿を、直接見ていただける機会を拡大するとともに、SNSをはじめとしたウェブメディアでの情報発信にも取り組んでいます。
 

社会広聴会員:
女性の活躍を推進していくためにどのような取り組みをしていますか。
セイコーホールディングス:
かつては、例えばトンネル工事において「山の神がお叱りになるから」といった理由で女性の立ち入りを禁止していた現場が実在していて、活躍の場が限られていました。現在では、ダイバーシティ推進室を設置し、女性の採用比率を高めるとともに、多様な人材が様々な職場で、安全・安心に活躍できる環境づくりにも力を入れています。
 

社会広聴会員:
建設の現場に導入されている新技術について教えてください。
セイコーホールディングス:
カメラや通信機、センサーなどを組み合わせて設置することで、現場の状況をリアルタイムで把握したり、資材の搬送に自動運転のロボットを活用したりするなど、現場の安全性・生産性を向上させるために様々な技術を導入しています。

参加者の感想から

●工事現場や実際に作業をしている方の様子を見学して、企業理念が現場までしっかりと浸透していることを体感しました。 

●明治時代からの重要文化財を保存するため、最新の技術が用いられた大規模な工事が人知れず行われていることに感動しました。

●歴史に残る建造物を守り、文化を継承していこうとする姿勢・思いを持ち続けていただくとともに、このような取り組みについて社会へ広く発信してほしいと思います。

●建設という社会インフラに関わる企業の「矜持」に感銘を受けました。建設業界の魅力が拡散し、未来の担い手の増加につながることを期待しています。

戸田建設ご担当者より

 今回、ご参加いただいた皆さまには、本工事について、活発なご質問とともに、数多くの貴重なご意見を頂戴し、厚く御礼申し上げます。
 「現場には大きな魅力があり、それをもっと伝えるべき」などのアドバイスは、大変参考になるとともに、大きな励みとなりました。
 当社は、貴重な重要文化財である本工事への取り組みと同様に、今後も真摯な企業活動を通じた社会への貢献に努めてまいります。

お問い合わせ先
経済広報センター 国内広報部
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館19階
TEL 03-6741-0021 FAX 03-6741-0022
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