企業と生活者懇談会
2019年2月27日 東京
出席企業:日本通運
見学施設:東京食品ターミナル

「暮らしと産業に欠かせない物流のしくみを学ぼう!」

2月27日、日本通運の東京食品ターミナル(東京都大田区)で「企業と生活者懇談会」を開催し、社会広聴会員17名が参加しました。はじめに、物流博物館(東京都港区)で、日本通運と同博物館の概要説明を受けた後、館内を見学し、暮らしと産業に欠かせない物流のしくみと、江戸時代から昭和までの物流のあゆみについて学びました。続いて、東京食品ターミナルへ移動し、燻蒸庫やマイナス25度の冷凍庫を見学し、食品が倉庫に搬入されてから私たちの元へ届くまでの流れを間近で体感しました。最後に質疑懇談を行いました。物流博物館からは、玉井幹司主任学芸員、川原広子氏、日本通運からは、東京食品ターミナル事業所の須山圭一郎所長、畠山克オペレーショングループ課長、ロジスティクス営業センターの関川徹新所長、広報部の神浩幸専任部長、福田健一郎課長、堀井睦氏が出席しました。

日本通運からの説明

■日本通運の概要と物流の歴史■
 日本通運は江戸時代の町飛脚から始まり、大名・旗本や商家の手紙・現金・荷物などを輸送していました。1871年に明治新政府が官営郵便を始めると、これに対抗して江戸の飛脚問屋5軒が結束しましたが、前島密(のちに「郵便制度」の父と呼ばれる)から、郵便業務に必要な輸送を請け負わせることを条件に信書の輸送から撤退する提案を受け、翌年(1872年)「陸運元会社」を設立し、運送業に特化した近代的な会社として生まれ変わりました。1875年、「内国通運会社」と改称されると、一貫輸送とそのサービスや内国通運会社を指す言葉として「通運」が広く使われるようになりました。この頃には新しい輸送手段として、新橋・横浜間に鉄道が開業し、貨車を使った貨物輸送が始まりました。同社は、1877年に蒸気船を導入し、関東の河川・海上に走らせました。日本通運の前身も含めた長い歴史の中で客を乗せて運んだ珍しい例です。
 その後、道路輸送から鉄道中心の業務に移行し、昭和に入って、1928年の「国際通運株式会社」を経て、1937年に半官半民の国策会社として「日本通運株式会社」が創設されました。戦後、1950年からは民間会社として再出発し、2017年には創立80周年(創業145周年)を迎えました。国内に約350の支店と世界46カ国、701カ所の拠点を持ち、世界最大規模の物流ネットワークを構築しています。グループ全体で約7万人が日々お客さまの物流を陰で支えています。

■陸・海・空を駆使した多彩な物流サービス■
 日本通運は、様々な輸送モード(手段)、システム、サービスを展開しています。トラック輸送は、日本全国をカバーするネットワークと圧倒的機動力によるドア・ツー・ドアの輸送モードです。近年では、環境配慮車両の導入により、低公害化と燃費改善に取り組んでいます。鉄道輸送は、定時制に優れ、地球に優しい、中・長距離大量輸送向けのサービスです。社名にもある「通運」は鉄道輸送にゆかりがあり、同社では最も歴史のある輸送モードです。CO排出量はトラックの8分の1、エネルギー消費量は5分の1まで削減できるため、近年では主要都市間のまとまった輸送を鉄道に切り替えるモーダルシフト(トラックから鉄道や海上輸送に貨物輸送を転換すること)を進めています。また、日本の輸出入の99.7%が船で運ばれるため、海上輸送は海外との貿易において非常に重要な役割を担っています。そして、輸出入の残りの0.3%を担うのが航空輸送です。自動車部品や流行のスピードが早いアパレル商品、冷凍せずに輸送する生鮮食品など、スピードと品質が求められる商材を主に輸送しています。
 倉庫・物流センターでは、国内に約290万平方メートル、海外に約299万平方メートルの営業倉庫を保有しています。保管するだけでなく、最適な状態を保つための温度や湿度管理、検品や詰め合わせ作業などの流通加工も行っています。また、これまでに蓄積されたノウハウや最新技術を組み合わせ、倉庫の在庫管理や店舗・商品別の売れ行きを随時把握し発注するシステムなどを開発し、効果測定や課題発見など様々なシーンで活用しています。
 輸送サービスとしては、最も身近な引越しをはじめ、超重量品からハイテク設備、美術品に至るまであらゆる輸送に携わっています。引越しは国内だけでなく海外でも展開しています。また、移転も得意としており、オフィスに限らず、官公庁や空港、医療機関や学校など様々なお客さまに利用されています。また、新幹線やプラントなどを輸送する重量品輸送、これまで「モナ・リザ」、唐招提寺の国宝「盧舎那仏坐像」、古代エジプトの秘宝「ツタンカーメン」などを扱った美術品輸送、現金をはじめとした貴重品を運ぶ警備輸送などがあります。これらの多彩なメニューを組み合わせながら、お客さまの多様なニーズに合わせてサービスを提供しています。

見学の様子

■物流博物館の概要と見学■
 物流博物館は、1958年に日本通運本社内に創設された「通運史料室」が基礎となっています。当初は、社史に関わる日本の近世や近代初期の交通・運輸の概要を展示していましたが、1998年、「物流」を社会にアピールすることを目的に「物流博物館」として東京都港区に誕生しました。現在は、公益財団法人利用運送振興会が運営し、主に近世から現代に至るまでの物流の歴史や物流産業の概要のほか、天びん棒や米俵を担ぐ体験ができるなど、広く物流全般について紹介しています。
 「物流の歴史展示室」では、江戸時代の宿場に関する資料や、飛脚の道具、明治時代以降の内国通運会社などに関する資料、荷役道具などが展示されており、参加者は説明を聞きながら貴重な資料を通じて、物流のあゆみについて理解を深めました。
 「現代の物流展示室」では、日本通運のみならず物流業界として、「物流とは何か」をパネルや映像、ゲームなどによって、楽しみながら学ぶことができるよう展示が工夫されています。また、身近な宅配便から国際物流まで様々な物流の姿も紹介されています。中でも陸・海・空の物流ターミナルの大型ジオラマは圧巻です。トラックや鉄道、飛行機、コンテナ船、貨物機などを一望でき、照明によって昼間と夜間の物流現場の様子を見ることができます。

■東京食品ターミナルの概要■
 東京食品ターミナルは、日本最大級の卸売市場である大田市場から非常に近くに立地し、東京港の各コンテナ埠頭にも隣接しています。果実、野菜、ワインなどの輸入食品を主に取り扱っています。地上5階建て、保管面積約3万2000平方メートルという日本屈指の規模と、集中管理室による高品質管理や燻蒸が特徴の倉庫です。
 海外から運ばれてきた貨物は、船から降ろし倉庫へ搬入します。そして、植物検疫と燻蒸の工程を経て通関後、貨物をトラックへ積み、私たちの元へ運ばれます。

■日本の生態系を守るための燻蒸庫■ 
 東京港では、週に1回、フィリピンからバナナを積んだ定期船が着き、全体の10万カートンのうち6~7万カートンが東京食品ターミナルで取り扱われています。また、南アフリカからはグレープフルーツやオレンジ、レモンなどのかんきつ類が、1船につき、約6~10万カートン輸入され、東京食品ターミナルの燻蒸庫に保管されます。
 海外から輸入された生鮮貨物は、植物防疫法によって検疫を受けることが定められています。その際、日本国内に入ってはならない種や害虫などの特定外来生物が発見された場合、この燻蒸庫で消毒を行います。消毒のガスを満遍なく行き届かせるため、倉庫は非常に機密性の高い仕様になっており、室外へ排気する際は、ガスをそのまま放出するのではなく中和させ、天井にある太いダクトを通して大気へ戻します。倉庫内は、人体に影響のないよう安全管理が徹底されています。燻蒸庫は全て合わせると4000坪あり、同社の中でこれほどの規模は東京食品ターミナルのみです。

■輸入されたバナナが私たちの元に届くまで■
 輸入されたバナナを保管する際、倉庫の温度は約13.5度に設定されています。これは寒すぎるとバナナが黒くなり、逆に温度が高いと倉庫内で熟成が進み、食卓に並ぶ頃には食べ頃を過ぎた状態になってしまうからです。バナナを仮死状態にしておくため、温度管理とともに湿度も95%以上に保っています。
 また、バナナは皮が青く、硬い状態でないと輸入ができません。皮が柔らかいと中に日本の生態系を壊す恐れのある種や害虫が混入している場合があるため、必ず未成熟のものが輸入されます。
 青く、硬い状態のバナナが検疫・通関された後は、熟成庫で黄色い状態にします。エチレンガスと温度調整により3~4日間くらいで黄色く色づくので、店頭に並ぶ日程を逆算し熟成の工程が行われています。

■ハラールエリア■
 東京食品ターミナルでは、日本ハラール協会から倉庫保管および輸送に関するハラール認証を取得し、イスラム法に則った輸送時の経路や倉庫の管理などを行う「ハラール物流」を取り扱っています。ハラール物流とは、ムスリム(イスラム教徒)が日常生活で口にするもの、身に付けるものの原材料、医薬品、化粧品、加工品などを健康的・清潔・安全・高品質・高栄養価な状態で輸送することです。ハラールエリアでは、製品や商品が豚やアルコールなどのムスリムにおいて禁止されているものと混合しないように保管され、輸送時にはハラール専用のボックスやコンテナを使用しています。また、倉庫内は年に1度、日本ハラール協会による監査があり、搬入ルートや作業導線、気密性、書類、教育など様々な項目をクリアし、許可が得られるとライセンスが更新されます。

日本通運への質問と回答

社会広聴会員:
今後の事業展開について。
日本通運:
2037年の創立100周年に向けて「グローバル市場で存在感を持つロジスティクスカンパニー」という長期ビジョンを掲げています。国内の人口減少など貨物輸送量が減少トレンドにある中で、海外の売上高比率を現在の20%から50%まで高めることを目標としています。
長期ビジョン実現に向けた新たな経営計画においては、産業軸のアプローチでは、電機・電子、自動車、アパレル、医薬品、半導体の各産業に力を入れていきます。
また、エリア軸のアプローチでは、日本、米州、欧州、東アジア、南アジア・オセアニアの各ブロックにおいて、エリア特性に応じた成長戦略に取り組んでいます。特に力を入れているのが、南アジア・オセアニアです。これらの国々は、以前は「世界の工場」としての位置付けが大きかったのですが、近年では、経済成長にともなう国民の購買力を背景として、工場で出来たものが現地で消費される動きが活発になっています。工場に原材料を納品したり、出来上がった製品を輸出したりといった生産物流だけでなく、その国の中で生産し消費するいわゆる販売物流にも投資し展開しています。
 

社会広聴会員:
ドライバーなど人手不足への対応について。
日本通運:
1つは、倉庫の自動化や自動運転などの先端技術を導入することです。省力化、省人化が進めば、女性や高齢者、障がいのある方など幅広く職域が広がっていく可能性があります。
一方、事業の中では、モーダルシフトがあります。トラック輸送は小回りが利きますが、人手が必要なため、それを鉄道や船舶などの輸送手段に切り替えていこうという取り組みです。しかし、当社だけでできることではありせん。最近では複数の飲料メーカーが、従来は各社手配のトラックなどで輸送していたものを、共同で積んで運ぶといった取り組みに当社も協力しています。また、荷物を輸送する際に使用するパレットについても、各社で形や大きさが異なるものを共通化したり、荷姿を同じにしたりすることによって、作業効率の向上を図る動きがあります。

参加者の感想から

●物流を支える総合物流企業は世界および日本経済の基盤を支えるものです。陸・海・空の一貫輸送は国際物流としてその効力のすごさを感じました。

●モノを運ぶという世界は、日本の発展、ビジネスの進化に影響していることを改めて理解できました。

●トラックから鉄道や船舶へ輸送手段を転換していくモーダルシフトの推進など、省エネルギーやコストダウンに積極的に取り組む姿勢が伝わりました。

●物流博物館では、広く物流という世界を紹介しているところに大変感動しました。

●江戸時代から明治初期の荷役や運搬設備、仕組みなどは異次元世界を見ているようで面白かったです。

●通常は見ることができない物流倉庫を見学し、管理された倉庫の中で整然と並んだバナナやかんきつ類を見て、購入する側として安心しました。

●東京食品ターミナルの見学は、食卓に上る食品たちの壮大な旅ドラマを垣間見たようでした。

日本通運ご担当者より

 このたびは、物流博物館および当社の東京食品ターミナルの見学にご参加いただき、誠にありがとうございました。社会のインフラである物流の「歴史」と実際の「モノの流れ」を、ごく一部ではありますがご紹介しました。日本通運がどのような会社なのか、少しでもご理解いただくきっかけとなれば幸いです。懇談会では多くの貴重なご質問・ご意見をいただき、感謝しております。
 当社は今後も物流を通して社会に貢献してまいります。引き続きよろしくお願いいたします。

お問い合わせ先
経済広報センター 国内広報部
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館19階
TEL 03-6741-0021 FAX 03-6741-0022
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