企業と生活者懇談会
2019年9月30日 東京
出席企業:大成建設
見学施設:環状七号線地下広域調節池工事現場

「夢と希望にあふれた社会づくりに学ぶ」

9月30日、大成建設の環状七号線地下広域調節池工事現場(東京都中野区)で「企業と生活者懇談会」を開催し、社会広聴会員19名が参加しました。まず、日本建設業連合会から業界概要、大成建設から企業概要と工事の概要について説明を受けました。続いて地下約30~40メートルにある「環状七号線地下広域調節池工事」の現場や、トンネルを掘り進めていく巨大なシールドマシンを見学し、最後に質疑懇談を行いました。
大成建設からは、環七地下調節池作業所の田中敦副所長、小松祥子工事課長代理、コーポレート・コミュニケーション部CSR推進室の新村達次長、広報室の原口翼主任、日本建設業連合会から永山貴一広報部長、東京都から第三建設事務所工事第二課の立澤延泰統括課長代理が出席しました。

日本建設業連合会からの説明

■日本建設業連合会の概要■
 日本建設業連合会(日建連)は、全国で事業を展開している総合建設会社、いわゆる大手ゼネコン142社からなる業界団体です。建設業に係る諸制度をはじめ、土木や建築、防災、安全、環境などの企業単独では解決できない様々な問題に対して、国や行政に意見書を提出したり、社会に対して情報を発信したりするなど、建設産業の健全な発展を図り、国民生活と産業活動の基盤の充実に寄与しています。

■けんせつ小町について■
 現在、建設業界では若手の不足や就業者の高齢化などが最大の課題になっています。日建連が2015年3月に発表した長期ビジョンでは高年齢層の大量離職を背景に2025年までに128万人程度の技能者数の減少を見込んでおり、生産性向上による35万人分の省人化と、若者を中心に90万人、うち20万人は女性の新規入職者の確保を目標としています。また、女性の活躍推進として、2014年3月に「女性技能労働者活用方策」などを策定し、女性技能者数を5年以内に倍増することを目指して、積極的な取り組みを始めました。このような取り組みの中で、建設業で働く全ての女性の愛称を「けんせつ小町」に決定しました。
 2015年4月には、女性が働きやすい現場環境を整備するためのマニュアルを作成し、休憩室や女性用トイレ、授乳スペース、パウダーコーナーなど、実際に働く女性の声を反映した環境が整備されるようになりました。また、「けんせつ小町」の取り組みを社会に広く伝えるため、2015年から夏休みに女子小中学生の現場見学会を毎年開催しています。第5回となる2019年は、会員企業18社の協力のもと、全国各地の土木・建設現場に374名が参加しました。取り組み開始から5年間で計79カ所の現場に、延べ1947名の女子小中学生と保護者が現場の見学と体験をしています。
 建設業界で働く女性の数は、2014年は75万人でしたが、2018年には82万人と増加しています。このうち女性技能者も8万人から10万人へと増えています。女性就業者が増えることは、建設業での働き方の多様化につながり、現場を含めた職場環境の改善、長時間労働の是正などが期待されます。

大成建設からの説明

■大成建設の概要■
 大成建設は、1873年に大倉喜八郎が大倉組商会を設立したことから始まります。輸出入貿易や建物の造営を担い、優秀な技術者を集め、近代的土木工事の先駆けとなった琵琶湖疎水や、現在の東京メトロ銀座線の上野~浅草間2.2キロメートルの東洋初の地下鉄工事などを成功させました。1946年大成建設へと社名を変更しました。その後、同社は国立競技場(1958年)や国際ホテルのホテルニューオータニ(1964年)、青函トンネル(1987年)など多くの国家プロジェクトに携わってきました。近年ではトルコイスタンブール市のボスポラス海峡横断鉄道トンネル(2013年)、カタールの新ドーハ国際空港(2013年)などの海外インフラ事業、環境配慮型のビルの開発にも着手し、同社のグループ理念である「人がいきいきとする環境を創造する」に取り組んでいます。

■環状七号線地下広域調節池工事の概要■
 東京都では、台風や集中豪雨による水害から都民の生命と財産を守るため、河川の護岸や調節池などの整備による治水対策を進めています。大成建設が主となる共同企業体が、環状七号線地下広域調節池工事を進めています。この環状七号線地下広域調節池は、白子川、石神井川および神田川流域で、1時間当たり75ミリメートルの降雨に対応するため、すでに整備されている神田川・環状七号線地下調節池と白子川地下調節池を連結するもので、2025年度の供用開始を目指しています。環状七号線と目白通りの地下に内径12.5メートル、延長約5.4キロメートルの河川の洪水を貯留する大規模なトンネル構造の調節池を整備します。これらの整備が完了すると、総延長13.1キロメートル、合計140万立方メートルを超える貯留施設となります。白子川、石神井川、妙正寺川、善福寺川、神田川の5河川にまたがることから、貯留量を複数の流域間で相互に融通することで、1時間当たり100ミリメートルの局地的かつ短時間の集中豪雨にも効果を発揮します。

■トンネル状に掘り進める巨大なシールドマシン■
 調節池となる地下トンネルは、泥水式シールドマシンを使用したシールド工法によって構築します。シールド工法は、シールドマシンと呼ばれる筒状の機械によって、地中をモグラのように掘り進めていく工法です。前面を回転させながら、カッタービットと呼ばれる刃で土を削り取りシールドマシン内に取り込まれ、排泥管(鉄製のパイプ管)を通して地上へ運び出されます。シールドマシンの後方ではセグメントと呼ばれるトンネルの壁となる円弧形状のブロックを組み立てて、掘削とセグメントの組み立てを繰り返しながら、トンネルを構築していきます。今回の工事で使用するシールドマシンは、外径13.45メートルで、鎌倉大仏とほぼ同じ大きさの大型のものです。

見学の様子

■妙正寺川取水施設(発進立坑)■
 2020年3月末に妙正寺川取水施設(発進立坑)から到達立坑に向けてシールドマシンが発進する予定です。参加者は、発進立坑(中野区野方)の工事現場で発進までの準備段階の様子を見学しました。
 地上から工事用のエレベーターで、地下約30~40メートルまで降り、シールドマシンが配置されている様子を見ながら説明を受けました。工場で1年半かけて製作されたシールドマシンは、一度分解した状態で現場に搬入されます。重さが2500トンもあり、約120台に分けて陸送したそうです。組立開始前に周囲に防音壁を設置し、750トン吊のクレーン等を使って半年間で元の状態に組み立てられます。設置されたシールドマシンには、中折れ装置と呼ばれるものが設けてありました。これは、曲線区間において掘削断面積をなるべく小さくするために設けてあるもので、シールド機がほぼ中央の位置で、左右に最大4.3度屈曲することが可能となっています。今回の工事では、急曲線区間が3カ所あり、中折れ装置があることで、地盤を掘る際の地表面の沈下リスクを小さくする効果があります。 
 シールドマシンの発進方向と反対側を見るとコンクリートの壁(隔壁)がありました。これは、すでに整備されて供用中の神田川・環状七号線地下調節池から、取水した洪水が、施工エリアに流入してこないために設置したものです。また、隔壁はシールドマシンが発進する際の力を受け止める反力壁としての役割もあります。 
 今後の工事は、組み立てたシールドマシンの溶接、艤装工事、地上では、泥水処理設備、土砂を搬出する設備の組立、およびそれらの設備を覆う防音ハウスの組立等を行います。実際にシールドマシンが動き出すと、昼夜2班体制(昼:8時~17時、夜:20時~5時)で作業を行い、1日に最大10メートルほど掘り進めます。
 次に工事現場内にあるデジタルサイネージの説明を受けました。デジタルサイネージには、当日の作業内容が図と共に表示されており、朝礼時にその日の作業内容や、注意事項等の説明行う際に利用しています。また、熱中症予防として熱中症指数(WBGT)計を各作業班が持っており、その計測値に合わせて1時間ごとに強制的に水分補給を行なったり、休憩時間を設け、クーラーが効いた涼しい休憩室でしっかりと休みを取ったり、徹底した管理がされていました。

大成建設への質問と回答

社会広聴会員:
「東京2020大会」後の事業展開について。
大成建設:
 2020年以降の事業環境においても持続的に成長するべく当社は経営課題の重点施策として、海外事業の持続的な成長と海外市場に通用する企業体質への転換を図っています。取り組みの1つが東南アジアや発展途上国へのインフラの輸出です。政府が様々な省庁と連携を取りながら、日本の高度なインフラシステムを輸出しています。現在、パラオ国際空港拡張工事に参画し、設計と施工を担当しています。このような政府案件に積極的に参画し市場開拓しながら、さらなる企業拡大を目指しています。一方、国内では、インフラ整備の継続や、市街地再開発、研究・生産施設や高度成長期の建造物の更新など、多数の潜在需要があります。
 

社会広聴会員:
働き方改革について教えてください。
大成建設:
長時間労働是正のため、4週8休と第2土曜日の閉所を推進しています。2018年度は4週間で8日以上の休暇取得者が91%、第2土曜日の閉所については57.3%となっています。また、2016年7月から男性社員の育休取得率100%を目指し、社長メッセージ発信や制度拡充などによって、男性社員の育休取得率は94.2%、平均取得日数は5.8日(2019年3月末)に達しました。このような取り組みにより、制度を利用しやすい企業風土を醸成し、働きがいのある魅力的な職場環境づくりを行っています。
 

社会広聴会員:
けんせつ小町の実情についてお聞かせください。 
大成建設:
現在、当社では、土木技術者の女性職員が約100名、そのうち工事現場で監理技術者として2名程度が働いています。私が入社した年は、土木系の女性の新入社員が4名でしたが、今では毎年10名ほどと、採用数が増えています。今後、ますます女性の技術者が増えていく傾向にあります。また、子育て中は、現場での就業後、女性だけでなく男性も、子どものお迎えなどで早く帰ることがしやすい環境です。希望をすれば本社や支店の部署へ異動できるなど、柔軟な対応で働きやすい環境です。
 

社会広聴会員:
都心での工事の際、近隣地域の方々にどのような配慮をしていますか。
大成建設:
防音壁や防音ハウスはもちろん、騒音が少なく、振動のない工法を選択し作業を進めています。また、資材を運搬するトラックのアイドリングストップや、車両の出入りが多い工事現場では、常にガードマンを4名配置し、歩行者の安全を守っています。また、週間工程表の配布や工事の進行状況が分かるタッチパネル式モニターを設置し、情報提供にも努めています。そして、週に1回朝礼後に、現場周辺の掃除を行ったり、雪が降った際は歩道の雪かきをしたり、地域の方々へ向けた活動にも取り組んでいます。 
 

社会広聴会員:
環境問題に対しての取り組みは。
大成建設:
2050年環境目標(「TAISEI Green Target 2050」)の1つとして、循環型社会を実現するために、建設廃棄物の最終処分率ゼロという目標を掲げています。現状では、工事後に残る廃材や廃プラは、現場で徹底した分別を行った後、処理業者を介して約3.5%が埋め立て地に最終処分されています。引き続きゼロ達成を目指して重点的に取り組んでいきます。
 

参加者の感想から

●着工からすでに2年半が経過し、完成まで長期にわたることに大変驚きました。これからシールドマシンが発進する状況だということで、モチベーションを維持しながら、無事故で作業を行っていることに敬意を表します。

●普段私たちが見えないところで、防災事業が着々と進められているのを見て、非常に心強く感じました。大規模災害が相次ぐ中、治水行政の重要性を再確認することができました。

●ITの活用で技能者技術の見える化や、質の良い材質によってメンテナンスの回数が減ったり、機械の性能向上など、様々な技術を結集して工事が進んでいると実感しました。

●新3K(給料が高い、休暇が取れる、希望がある職業)を目指して、職場環境の改善に広く取り組み、少子高齢化への強い危機感とそれに立ち向かう強靭な姿勢が感じられました。

●女性ならではの視点を現場に生かしたり、作業員や地域住民とのコミュニケーションが円滑になるというお話を伺い、感動しました。もっとたくさんの女性に建設業界で活躍してほしいと思いました。

大成建設かご担当者より

 このたび、当社作業所の見学にご参加いただき、誠にありがとうございました。見学会を通じて、建設業の現状、課題、そして魅力がご参加された皆さまに伝わり、大変うれしく思います。昨今、自然災害の多発によりインフラ整備が再注目されています。インフラ整備の中心を担う当社は今後も品質の高いインフラを構築することで、市民の皆さまの安全な生活を支えてまいります。

お問い合わせ先
経済広報センター 国内広報部
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館19階
TEL 03-6741-0021 FAX 03-6741-0022
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