企業と生活者懇談会
2023年12月9日 東京
出席企業:TOPPANホールディングス
見学施設:印刷博物館

「印刷の歴史や技術を通して、印刷の未来を考えよう!」

12月9日、印刷博物館(東京都文京区)で「企業と生活者懇談会」を開催し、社会広聴会員15名が参加しました。まず、TOPPANホールディングスから、会社概要について説明を受けた後、2000年に開館した同館に展示されている歴史的な収蔵品とともに印刷の過去・現在・未来について説明を受けました。また、活版印刷体験を通じて実際に活字に触れることで印刷技術の発展を体感し、最後に質疑懇談を行いました。
TOPPANホールディングスからは、広報本部広報部長笠原志貴子氏、同本部印刷博物館課長石橋圭一氏が出席しました。

TOPPANホールディングスからの説明

■TOPPANホールディングスの概要

 TOPPANNホールディングスは、1900年に当時の最先端印刷技術「エルへート凸版法」という製法に強みをもって凸版印刷として創業しました。産業化が進みつつあった日本では、新技術を用いて新しいニーズに応える企業が続々と誕生していました。同社も例外ではなく、煙草包装の印刷受注を始めて以来、証券やポスターなど幅広い分野に印刷の領域を拡大し、様々な技術・ノウハウを培ってきました。1959年にはエレクトロニクス事業へ参入、1961年には常に社会のニーズに応える事業を展開していくために企画制作・マーケティング部門を設立するなどの変革を遂げてきました。
 現在、同社の事業分野は「情報コミュニケーション」「生活・産業」「エレクトロニクス」の3つに分けられます。「情報コミュニケーション」分野では、従来の出版・印刷事業だけではなく、キャッシュレス決済や偽造防止などのセキュリティー関連事業や、情報社会を支えるDXビジネスを展開しています。「生活・産業」分野では、世界最高水準のバリア性能を持つ透明バリアフィルム「GL BARRIER」を使用したパッケージや、印刷技術を活用した壁紙、床材などの建装材の分野で事業を展開しています。「エレクトロニクス」分野では、パソコンやスマートフォンに内蔵されている半導体関連製品や、液晶ディスプレー関連製品を開発・製造しています。さらに同社は、1枚のカードやスマートフォンアプリによって地域やイベント内で利用可能な「地域Pay®」や、自宅にいながら遠隔での服薬指導により処方せん薬を宅配するサービス「とどくすり」など様々な領域で社会課題の解決に取り組んでいます。
 2021年5月に公表した中期経営計画において「『DX(デジタル・トランスフォーメーション)』と『SX(サステナブル・トランスフォーメーション)』によってワールドワイドで社会課題を解決するリーディングカンパニーに」をキーコンセプトとして定め、企業価値の最大化に向けて取り組みを加速させています。「印刷だけではないTOPPAN」を訴求するために、リ・ブランディングキャンペーンを開始し、「すべてを突破する。TOPPA!!!TОPPAN」をメッセージに掲げました。
 同社は、2023年10月に「凸版印刷」から「TOPPANホールディングス」へ社名を変更しました。現在では印刷の領域を超えて国内220拠点、世界154拠点で幅広い事業を展開しています。「印刷」を社名から外し、世界中の課題を突破するという決意を「TOPPAN」に込めています。パーパスとして「人を想う感性と心に響く技術で、多様な文化が息づく世界に。」を制定しました。社員一人ひとりが新しい一歩を踏み出し、これからも時代の変化をいち早く捉え、「社会的価値創造企業」の実現に向けて、持続的な成長を目指していくとしています。

 

■印刷博物館の特徴

 印刷博物館は、創業100周年の記念事業として、2000年に開館しました。同館は、同社が運営している博物館ですが、会社の歴史だけではなく、広く印刷の歴史を紹介する施設となっています。同館が設立された背景として、ドイツなどのヨーロッパでは、国や市などが運営する印刷文化を紹介する施設が多数ある一方で、日本はほとんどないということがあります。同社は、日本で印刷が身近な存在であるにも関わらず、歴史を学ぶ施設がない現状に鑑みて、多くの人に印刷の重要性を理解してほしいという思いから同館を設立しました。館内は、視覚的なコミュニケーションを情報伝達の一種と考え、約1~2万年前の歴史的資料を展示し、印刷がどのような役割を担ってきたのかを体感できる仕組みになっています。展示室では、古代から近世、そして現代に至るまでの日本と世界の印刷の歴史を紹介しており、また、活版印刷の研究を行っている「印刷工房」では、活版印刷体験や工房見学ツアーにより活版印刷の技術に触れることができます。

見学の様子

■プロローグ
 展示室までの導入路であるプロローグでは、印刷文化の概要を学ぶことができます。
 印刷が始まる前のコミュニケーションには、文字を使うものと図像を使うものの大きく2つに分かれていました。文字は、仏教経典が多く求められたことで、木版印刷が活用され、その後、活版印刷が登場しました。活版印刷術は、出版活動に大きな変化をもたらしました。聖書を含め手作業で作られた本は、大きくて分厚く高価だったため、一部の人しか入手することができませんでした。しかし、活版印刷の普及により、書物の大量生産が可能となり、サイズも非常に薄くコンパクトになりました。現在のタブレット端末を使用するように、情報をより素早く取り入れることにつながる第一の変革期といわれています。
 活版印刷は文字に特化した印刷方法でしたが、図像の製版方法も存在しました。浮世絵に用いられた木版などの凸版印刷、銅を使った凹班印刷、石版(平版)印刷の3種類です。木や金属では大きな版の作成が困難でしたが、石版印刷の登場により大きな印刷物の作成や色の調子も再現できるようになりました。
 このように、時代ごとの印刷物の足跡を展示室までたどりながら印刷文化の楽しみを伝えています。参加者は、これまで目にしたことのない印刷の歴史や技術に驚くとともに、初めて見る大きな印刷物のレプリカに圧倒されていました。

 

■展示室エリア
 このエリアでは、印刷が始まった中世から現代に至るまでの日本と世界の印刷史を、プロローグで学んだ内容とともに実物の歴史的資料を用いて紹介しています。

 

●印刷の歴史
 古代・中世のコーナーでは、日本の印刷史の始まりが、現存する印刷物としては世界最古の「百万塔陀羅尼(ひゃくまんとうだらに)」が製作された奈良時代(8世紀)であることが紹介されています。
 「陀羅尼(だらに)」とは、サンスクリット語を漢字で音写したもので、仏教の経文が印刷されています。この印刷物は、仏教や印刷を優れた大陸文化の象徴として捉え、天皇の発願により作られました。貴族が政治の中心を担った平安時代は、仏教と国家の結びつきが弱くなり、印刷の舞台が各寺院へと移っていきました。寺院は当時、多くの職人を抱える技術の集積地でもありました。文物を世の中に広めることによって、版経(印刷された経典)の寄進が盛んに行われる時代が長く続き、様々な文物が世界中に散らばっていったといわれています。
 鎌倉時代以降には、宗派によって異なる経典を印刷するだけではなく、独自の形態や紙を用いるなど、仏教の中で印刷の多様性は徐々に育まれていきました。応仁の乱で京都が荒廃すると、各地の大名が台頭し地域色豊かな出版活動が近世の印刷文化の基盤となりました。
 近世のコーナーでは、16世紀後半に外国からもたらされ、古典文学や生活に役立つ知識の普及に大きな役割を果たした活版印刷について紹介しています。
 日本には活版印刷が異なる2つのルートからもたらされました。豊臣秀吉による朝鮮出兵を契機に伝わったとされる朝鮮由来の印刷法と、宣教師たちを通じた西洋由来によるものです。2つの技術が日本の印刷史に変革をもたらしました。また、技術の流入によって、新たな活版印刷に取り組む担い手が登場しました。徳川家康もその一人です。
 家康は、日本で初めてとなる銅製の活字の鋳造を実現させました。この活字は、家康が隠居していた地から名が取られ、「駿河版活字」と呼ばれています。現在、国の重要文化財にも認定されている資料です。この活字を使用して出版された書籍に、大蔵経から抜粋した文章を分類し、調べやすいように編集した書籍「大蔵一覧集(だいぞういちらんしゅう)」と、中国・唐代初期に治世のための参考書として編まれた「群書治要(ぐんしょちよう)」があります。
 家康らが取り組んだ活字による出版活動は武家や公家、文化人までにも広がり、教養の裾野を広げていきました。活版印刷の流行は一時的なものとして収束していったものの、やがて印刷で身を立てる版元(出版社)という職業が誕生しました。
 京都で始まった版元による印刷は、江戸や大阪に伝播し、各地で独自の発展を遂げました。特に、江戸では庶民文化の成熟に伴い、多様な印刷物が登場しました。名所・庶民の風俗を描いた浮世絵版画は、版元の統括のもと、出版作業が行われていました。葛飾北斎の「富嶽三十六景」が代表的な作品として、挙げられます。多色刷りの印刷物でも正確な複製ができたことがさらに流行した要因といわれています。

 近代のコーナーでは、明治維新によって、日本の社会、政治、産業が大きく変化する中で移り変わっていった印刷について紹介しています。
 明治新政府は発足後まもなく、殖産興業に向けた資金調達のために全国通用の紙幣製造に着手しました。当初は民間が請け負いましたが、贋札が濫造されたことから偽造防止の必要性が高まりました。1875年、イタリアの版画家・画家であるエドアルド・キヨッソーネを招聘し、日本初の肖像入り紙幣が誕生しました。凹版印刷は細かい線が描画できるためセキュリティー面でも活用できる技術でしたが、大量刷りができませんでした。これを解消するための方法として開発されたのが、「エルヘート凸版法」です。この方法は、原版は残しつつ、印刷用の刷版を複製することができるようになり、精密な図像を大量に印刷することができました。
 当時の最先端印刷技術「エルヘート凸版法」は、商品パッケージにも活用され、模倣品が出回ることを防ぐ、ブランド保護に大きな役割を果たしました。

 現代のコーナーでは、大量消費時代が到来し、印刷の工程も自動化され、製版工程の効率化と標準化が進展した様子が紹介されています。
大量生産の実現だけではなく、品質も向上し、印刷物のカラー化が進みました。低価格の書籍が流行し、人々の消費行動を変えるスーパーマーケットが登場したことにより、印刷は購入を促すポスターやチラシなどパッケージ分野へ進出しました。さらに、製版技術を応用した精密電子部品を作りだすなど、人々の生活を支える基盤として様々な分野に拡大していきました。
 このように印刷博物館では、印刷の歴史を、現存する貴重な資料とともに、歩みながら見学することができます。また、実際に活字に触れて活版印刷技術を体験することで、当時の技術の素晴らしさや現在の印刷技術の進歩を体感することができます。

懇談会の概要

社会広聴会員:
アナログからデジタルへと世の中が変遷していく時代に紙文化が廃れていくという危機感はなかったのでしょうか。
TOPPANホールディングス:
当社は、1990年代から紙の印刷が減少していくと予想して業務の多角化に取り組んでいました。出版物の販売金額の推移を見ると、96年をピークに下降し、2022年には、初めて売上高で電子出版が紙媒体を上回りました。これまで紙に出力していた情報の出力先が、電子出版やデジタルサイネージなどに変遷したと考えています。当社発の代表的なデジタルサービスの一つに、電子チラシサービス国内利用率ナンバーワンの「Shufoo!®(シュフー)」があります。紙チラシのデータをデジタルに活用し、新聞を購読していない層にもチラシが届けられるサービスとして小売・流通企業に積極的に利用されています。

 

社会広聴会員:
これからの印刷技術を知りたいと思います。例えば、音声に反応した印刷技術はありますか。
TOPPANホールディングス:
当社は、これまで音声翻訳サービス「VoiceBiz®(ボイスビズ)」をはじめとして、外国人との多言語コミュニケーションを支援する様々なサービスを提供してきました。当社は、総務省が2020年より実施している「多言語翻訳技術の高度化に関する研究開発」の委託先に選定されました。この研究によって開発した高度な自動翻訳技術により、国内外の様々なシーンでの同時通訳ニーズに応え、社会経済活動において「言葉の壁」を感じさせない環境を創出しています。この音声翻訳サービスは、2025年の大阪・関西万博でも活用いただくように調整しています。

 

社会広聴会員:
東京国立博物館内の「TNМ&TOPPANミュージアムシアター」といった事例など、美術品展示や文化財活用に関わる今後の取り組みについて教えてください。
TOPPANホールディングス:
東京国立博物館内のシアターでは、収蔵品を中心とする文化財デジタルアーカイブをVR技術で可視化し、デジタルならではの新しい感覚で楽しむ空間を提供しています。今後は、印刷テクノロジーを活かし、文化財をデジタル化し保存することによりVRなどでの活用をさらに推進します。リアルとバーチャルを組み合わせた研修型の観光などで利用いただけると考えています。

参加者からの感想

●印刷博物館は、印刷の歴史が時代ごとに順序立てて展示されているため非常に分かりやすかったです。活版印刷体験では、実際に活字を手で組み込む際に、文字と文字の間隔をバランスよくとる作業に苦労をしました。センスを要求される作業だと実感しました。
●印刷博物館を見て、印刷の歴史は何も知らなかったんだなと気づかされました。さらに、活版印刷体験は本物の活字に触れることができ、素晴らしい体験でした。読み物が様々な形で印刷されるようになっても、原点の活字は愛おしいと改めて思いました。
●紙に印刷することが減り、業界として大変ではないかと思っていましたが、それを見据えて印刷物を情報として捉え、対策している点に感銘を受けました。企業が120年続くというのは努力と貢献のたまものだと感じました。
●印刷博物館やコンサートホールの創設など文化・芸術に関する活動のほか、様々な社会貢献活動をきっちり実践されている企業として、懐の広さを感じました。

TOPPANホールディングス ご担当者より

 2023年は当社にとって、第二の創業ともいえる大きな変革の年でした。その姿を多くの生活者の方に知っていただき、ご意見を伺う機会として、今回の懇談会は大変貴重な機会でした。参加いただいた皆さま、企画を行っていただいた事務局の方々に、改めて御礼申し上げます。
 皆さまからいただいた当社への期待を力に変え、TOPPANは「多様な文化が息づく世界」の実現に進んでまいります。今後も当社活動にご支援いただけましたら幸いです。

お問い合わせ先
経済広報センター 国内広報部
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館19階
TEL 03-6741-0021 FAX 03-6741-0022
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