企業と生活者懇談会
2002年7月26日 岡山
出席企業:キリンビール
見学施設:岡山工場

「品質本位~最高の品質をお客様へ」

キリンビールからの説明
■会社概要の説明■
 私どもの事業活動の考え方をキーワード的に申し上げますと、「成熟市場を勝ち抜く企業グループ価値拡大を目指して、企業グループの価値拡大を図る」ということになります。
 ビールは1980年代から新商品の開発やマーケティングなどを軸に競争が激しくなり、90年代にかけて市場は拡大しましたが、記録的な猛暑の94年をピークに減少に転じています。
 ビールの消費量が落ちる一方で、発泡酒「麒麟淡麗<生>」を発売した98年を境に発泡酒が勢い良く伸びています。
 このような中で、私どもの事業への取り組みを200年に策定した中期経営計画「KG21アクションプラン」のポイントをお話したいと思います。
 このプランは「将来のための効率性向上」と「企業の価値の拡大」の2つのパートからなっています。
 1つめの「効率性向上」についてですが、大きな取り組みとしては国内15.工場体制を11工場に再編成したことです。
 2つめの「企業価値の拡大」ですが、これを実現するために我々は、総合酒類事業、グループ経営、事業のグローバル展開が3つの柱と考えています。
 まず始めに、なぜ総合酒類事業を目指すのかをご説明します。アルコールの消費量は21世紀に入って減少傾向に転ずる見通しですが、カテゴリー別に見ると、消費量が伸びているものもあります。日本酒、ハードリカーは減っている一方、焼酎、ワインは伸びています。ビールは減少傾向にあると言いましたが、発泡酒は増加傾向が出ています。
 カテゴリーによっては成長が見込めるものがあります。そこでお酒のカテゴリーの垣根を取り払い、お客様のさまざまな生活シーンに合った、豊かさと楽しさを提案する総合酒類事業を展開していこうということです。
 次にキリンのグループ経営ですが、これまで単体を中心にしてきた体制を見直し、グループ全体の力を強めていこうという考え方です。グループの事業はコア事業、コア関連事業、多角化事業に再編しています。
 コア事業は総合酒類事業で、ビール、発泡酒、洋酒、その他酒類に加え、清涼飲料などの飲料事業や小岩井乳業・米久など食品事業を含みます。
 コア関連事業はコア事業をサポートするもので、物流、エンジニアリング、外食事業、不動産事業といった事業が含まれます。
 さらに将来に向かっての新しい成長の種になるべく位置づけられている多角化事業は、医薬事業、アグリバイオ事業、機能食品事業などです。これら将来に向けての事業展開には一つの共通点があります。つまりビールで培った技術をもとに、その強みを生かせる事業分野を開拓していることです。
 たとえば、細菌管理、酵母の培養技術から派生したバイオ技術や遺伝子組替え技術を活用した医薬事業、アグリバイオ事業などです。ホップの栽培事業にも応用できます。
 医薬事業では現在、腎性貧血の治療薬エスポー、ガンの化学療法で減少する白血球の一種である好中球を増加し、さらにその機能を高めるグラン、この2つが主力商品です。腎臓、免疫・アレルギーを重点領域とした取り組みを行い、将来は注目されている細胞医療事業、ヒト抗体事業に焦点を当てて開発を進めています。
 アグリバイオ事業は、バイオテクノロジー、栽培技術を駆使して花卉、種苗の生産・販売などで、たとえばほふく性ペチュニアは世界シェアが60%。菊、カーネーションも25%を超えています。
 機能食品事業では、醸造で培った酵母技術、バイオ技術を活用して差別性の高い商品を開発する事業展開をしています。
最後にグローバルな展開についてですが、洋酒部門では昨年、バーボンのフォアローゼズの全世界での事業権を取得いたしました。また、台湾の紹興酒の会社の買収などもしています。
 ビール部門では、1998年にニュージーランドのビール会社ライオンネイサンを買収し、今年、フィリピンのサンミゲル社に15%資本参加しました。またキリンビール自体、広東州の殊海にビール工場を持っています。
 そうした拠点の活動を統合してアジア・オセアニアにおけるリーディングカンパニーを目指しています。
 新しいキリングループを象徴するものとして昨年11月、 「新キリン宣言」を荒蒔社長が出しました。骨子は4つ。第1は企業活動を「お客様本位」「品質本位」の観点か総点検すること。第2はビール・発泡酒を軸とした総合酒類事業への拡大。第3にグループシナジーの追求。
 そして第4に、このようなビジョンを実現させるためにキリン社内の風土を自由闊達なものに変えていく、そのためには若い人の人材育成についてこれまで以上に真剣に取り組んでいくことを宣言として出しています。
 21世紀に絶対勝ち残る決意のもとに、成長をつづける企業グループを目指しているのが現在のキリンです。
キリンビールへの質問と回答
レポーター:
なぜ、ボトルの形をしたビールのアルミ缶を発売しているのか。ペットボトルに比べて何がメリットなのか。回収性はどうなのか?
キリンビール:
アルミの場合、冷えやすいというのがあります。それから手で持ったときに温度が伝わりやすい。
アルミのボトル缶はリサイクル性には優れています。丸い形のままで回収できます。
 
レポーター:
御社には商品開発やマネジメントの分野で、女性の管理職はどのくらいおられるのか。コンパニオンあたりの職種しか与えられないのか。
女性からの視点、意見は重要になってきている。コマーシャル一つにしても、男の人がビールをバーッと飲めばいいという時代はそろそろ終わりに近づいてきている。
キリンビール:
女性の管理職がどのくらいいるか正確な数字は持っておりませんが、最近、徐々にですけれども増えております。また、基本的には女性と男性という差はございません。
ただ、私ども全国に工場だけでも11、支社や販売部門で50を超える場所がございます。転勤の対象になる地域が全国にまたがります。これまでの傾向として、どうしても女性の方は転勤を好まないということもございました。
しかし、最近では女性管理職は間違いなく増えており、私ども広報部にもおります。
コンパニオンですが、私どもはプロのサービスを要求いたしますので、子会社で専門に手がけている会社からの派遣を受けています。お客様に日ごろから接するプロの接遇を要求されておりますので、雇用体系も別枠で考えております。
おっしゃるとおり、やはり女性の感性は商品開発になくてはならない要素であるということは、私どもも重々承知しておりまして、開発チームの中には女性も含まれております。 例えば、最初135円で出して価格競争のきっかけになったような商品がありますが、これも女性の感性でつくった商品です。
 
レポーター:
障害者の方の雇用について伺いたい。
キリンビール:
当工場にも障害者は何人かおり、法定雇用率はクリアしております。障害者雇用は非常に大事なことと捉えておりますので、新しくつくる設備については、バリアフリーの思想をもとにつくっております。
レポーター:
発泡酒とビールはどこが違うのか。発泡酒は口当たりが何となくやわらかくて区別はつくが、製造工程など違いを教えていただきたい。
キリンビール:
基本的なつくり方は全く同じです。何が違うかと申しますと、原料の配合における麦芽の量です。日本の酒税で決められている原料資材の麦芽が、ビールの場合3分の2以上。発泡酒はそれ以下です。例えば一番酒税の安いものは麦芽が25%未満です。 ビールは1キロリットル当たり、私どもは国税庁に22万2000円の酒税を払います。発泡酒の一番税金の安いものは10万5000円。
ビールと発泡酒は製造方法は同じですが、麦芽、大麦、コーンスターチ、米などの原料の配合の比率、仕込みにおいての温度や時間の条件、酵母エキスの使い方、発酵の温度の調節の仕方などを微妙に、当然のことながら調整します。香味の特徴を出すための製造条件の微小なところは、それぞれの特徴を持たせております。
 
レポーター:
発泡酒市場の今後の見通しについて。
キリンビール:
去年も発泡酒の酒税をビール並みの酒税に上げることが騒がれました。今、酒税が安い分だけお客様に還元しているわけですが、発泡酒の酒税が引き上げられれば、価格に反発されるお客様も出てくるだろうと思います。
今のままの税率でいけば、今年発泡酒のシェアは多分50%ぐらいまでは行くのではないかと個人的には思います。もちろん景気がよくなって、給料が上がれば、ビールが増えるでしょうが。
発泡酒自体非常に品質はよくなりました。ビール自体とほとんど遜色がなくなっているという声もあります。
レポーター:
「酒税を除いて、単価が同じであれば、あなたは発泡酒を選びますか、ビールを選びますか?」というようなマーケティングリサーチをやられていますか。
キリンビール:
そういうような設問はしておりません。マーケティングリサーチは、やはり価格と味が中心です。ビールよりも安い価格設定になりますので、どうしても味が悪い、味が若干物足りないという先入観を持たれている消費者の方が多いですから、そこら辺のところをこの商品でどういうふうに感じられたかというようなことがマーケットリサーチの中心課題になると思います。
 
レポーター:
御社の新商品「キリンチューハイ氷結」がおいしい。これは限りなく果実酒に近いような感じに商品としては仕上がっていると思う。女の人でもすっと飲めます。果実酒のようなチューハイが売れると判断して商品開発に力を入れているのか。
キリンビール:
チューハイという名前をつけていますが、私どもの「氷結」の原料はウオッカです。焼酎は使っておりません。焼酎もウオッカも基本的には変わりませんが、白樺活性炭でろ過しているものがウオッカです。果実酒に近いというお話がありましたが、我々がつくっているのは、長期間果実のエキスをアルコールに抽出した飲み物ではありません。果汁をろ過したエキスを調合してつくっています。 今、非常に私どもが注目しているのは、ウオッカに近いものを果汁で割って、非常に低いアルコールで清涼感を求めて飲むような飲み物が非常に注目を浴びているということで、そこの部分を開拓しています。
 
レポーター:
二酸化炭素の排出量の削減についてはどのように対応しているか。
キリンビール:
炭酸ガスの排出量については官庁への報告義務はありませんが、環境報告書には掲載されています。回収する努力を継続しており、年間3300トン程度を回収できるだろうと思っています。
 
レポーター:
最近、キリンビールの工場の庭にホタルが出るということを聞いた。この近辺は、昔はホタルがいっぱいいたが、最近全然見なくなった。ここで見られると聞いてうれしかった。 また、この近くに麦が植わっている。戦前は麦が多かったが、最近ビール麦が植えられるようになった。これはおそらく御社で使っておられるビール麦ではないかと思うが。麦の原料はどのくらい輸入しているのか。
キリンビール:
ホタルの幼虫は、カワニナをえさにしています。そのカワニナのえさがセリとかクレソンなどです。この池でセリやクレソンを育て、カワニナが近くの川で大分増えてきましたので、ホタルの幼虫をいただき放しました。ホタルは今年の5月中旬から飛びました。これは去年いただいた幼虫を放したもので、今年、来年と2回ぐらい幼虫をいただいて放せばサイクルがうまくいくと思います。
麦は今、年間で二十数万トン使っています。大麦は発泡酒で主体的に使っておりますので、それが大体5、6万トン。岡山工場は、今、全国の10分の1強を製造しておりますので、その比例分の量を使っております。
岡山産の大麦は、事情がありまして今年は使えませんでしたが、来年はぜひ使いたいと思っております。
 
レポーター:
水も含めて使用している原材料の安全性について聞きたい。また遺伝子組み換えの原材料についても聞きたい。
キリンビール:
天然の麦芽とかホップは、全数検査はしておりませんですが、輸入メーカーごとに抜き取り検査をしています。 食品の安全面について、群馬県にある食品安全センターで農薬関係の分析をしております。また、一部は公的な機関に出して検査しています。水に関しても、農薬や毒物についての検査を定期的に同じ場所で分析しております。トウモロコシ原料については、すべて米国で分析をして、遺伝子組み換えのない証明を得たものだけを輸入しています。
 
レポーター:
工場敷地の緑化や植林などの環境投資額はいくらか。岡山工場環境会計実績によると3200万円。これは年間の支出であって初期投資を含めた額を聞きたい。
キリンビール:
キリン全社の設備投資の中での環境投資は、手元のデータで約30億円ぐらい。全社的に環境報告書をつくるようになって、各工場ごとにいろんなデータを整理する中で環境関係についてもデータベースを構築中です。 岡山工場に関しては、今回の工事の費用は300億円ぐらいで、少なくともその10%以上は環境を意識して使ったお金と言っていいと思います。
 
出席者の感想から
●普段は現場の方(営業の方など)とも接する機会が無く、酒屋さんやスーパーで買う「もの」としてしか、捉えていなかったのですが、今回懇談会に参加させていただいて、キリンビールの姿勢が良く分かりました。

●キリンビールという企業は歴史が古く、保守的な会社であろうと先入観を抱いておりましたが、企業訪問して時代の変化とともに、オートメーション化、対外的なオープンカンパニー志向への変換と、あらゆる施策を構築されている様子が見えました。工場長始め、幹部の人達の対応も爽やかでとても気持ちのよい一日を過ごさせていただきました。

●会の印象としましては、参加者の皆さんが、それぞれ「目的意識」を持って臨まれており、その熱心さに感心いたしました。こうした「懇談会」を今後も数多く企画開催されることで、企業と生活者の双方向の意思疎通が生まれ、そこから「企業としても生き抜くノウハウ、生活者としても人生を生き抜くノウハウ」の蓄積がなされると思います。

●今回ほど会食の時間まで熱心にテーブルで意見交換できた会はなかったと思いました。特に私のテーブルでご一緒したキリンビールの方の真摯で丁寧、かつ誠実な説明に企業イメージは随分変わりました。人間性、企業モラルを失った消費者を裏切る食品関連の事件が多発している昨今だけにホットする交流でした。
お問い合わせ先
(財)経済広報センター 国内広報部
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