企業と生活者懇談会
2005年6月7日 東京
出席企業:全日本空輸
見学施設:機体メンテナンスセンター

「生活の基盤を支える企業を考える」

6月7日、東京都大田区羽田空港にある全日本空輸(ANA)の機体メンテナンスセンターで、「企業と生活者懇談会」を実施しました。社会広聴会員19名が 参加し、格納庫で整備中の航空機を見学した後、質疑懇談を行いました。ANAからは、機体メンテナンスセンター管理室の宮沢正八主席、機体メンテナンスセ ンター機体整備部の木戸孝秀部長、東京客室部の犬飼明美マネージャー、環境・社会貢献部の北宮修主席、広報室の南日隆男主席が出席しました。
全日本空輸からの説明
■ANAの歩み■
 1952年(昭和27年)、第2次世界大戦で壊滅したわが国の定期航空事業を再興することを目的に、旅客輸送・郵便輸送を行う航空会社として、日本ヘリコプター輸送が設立されました。そして、1957年(昭和32年)、日本ヘリコプター輸送は、1952年に設立された大阪の極東航空と合併し、全日本空輸(ANA)となりました。1985年末には国際線定期便を開設し、現在では1日当たり国内線132路線・865便、1週当たり国際線35路線・488便(2005年6月現在)の定期便を就航しています。2009年の羽田空港再拡張や成田空港の平行滑走路を2500mに延長することによる発着枠の拡大をチャンスとして、「安全」をすべての基盤とし、「安心」と「信頼」を基礎として「アジアナンバーワン」の航空会社を目指しています。

■機体メンテナンスセンター■
 東京国際空港(羽田空港)の新整備場地区にある機体メンテナンスセンターでは、航空機の安全運航を支えるため、24時間・365日体制で整備を行っています。大型機・中型機の定期整備や改修作業などを実施し、品質と信頼性の維持・向上に努めています。

■ANAのCSR(企業の社会的責任)■
 ANAでは、国際環境絵本コンクールやサンゴ礁の保全活動、「緑の羽根」募金などに取り組んでいます。また、災害時の輸送支援なども航空会社の本業に根ざした社会的責任と考え、阪神大震災や新潟中越地震の際には、臨時便の運航による被災地への輸送支援を通じて貢献しました。
 CSRの真髄は、いかに安全かつ確実に航空機を運航し続けられるかであり、それがANAのCSRの原点であると思っています。
社員は常にANAグループの安全理念と経営理念を示したカードを携帯しており、日々忘れることのないようにしています。
全日本空輸への質問と回答
社会広聴会員:
安全についてどのように考えていますか。
全日本空輸:
航空輸送事業に関して、5つの必須要素があると考えています。まず最も重要ですべての基盤となるものが「安全」です。これを満たした上で、2つ目に重要な要素が「定時性」です。この2つがあって初めてお客さまから頂戴した航空運賃に見合ったサービスを提供できると考えています。その基本部分を満たした上で、ようやく「快適性」「利便性」「経済性」をANAのオリジナリティーとして提供することができるのです。
 
社会広聴会員:
社内で安全意識を高く保つために、どのような取り組みをしていますか。
全日本空輸:
最近、安全に対する注目が高まっています。ANAでも、社内の規程違反、航空法違反などが発生した場合には、速やかに国土交通省航空局に報告をしてきました。これからもその姿勢は変わりません。
経営トップと現場の安全意識を共有する工夫も行っています。数年前から社長、役員が各職場の最前線の社員と少人数で意見交換を行う「ダイレクト・トーク」を実施し、安全をテーマにした意見交換を増やしています。機体メンテナンスセンターでも社長と現場の整備士が直接話す機会を設けています。これはパイロット、客室乗務員、空港地上職員、市内営業支店の社員などグループ会社も含めて全国的に進めています。さらに、毎週定期的に社長が羽田空港に出向き、整備、客室、運航、空港部門の各責任者から報告を受けます。
この1週間にどういう問題があったのか、確実にトップが把握をする仕組みをつくっています。
社内では「安全に万全はない」と常に気を引き締めています。航空機やその他の機械の性能が向上しても、それにあぐらをかいていると、ささいなことから生じる危機の予知能力や危機回避能力が劣るのではないかと考えているからです。ヒューマン・エラーは必ず起こる事ととらえ、常に問題点を発見する能力を磨いていく、何が起こっているのか、それにどう対応したのかという経験や情報を社内で共有して、大きな問題になる前に対応することが重要です。
  
社会広聴会員:
客室乗務員の仕事の中では、安全をどのようにとらえていますか。
全日本空輸:
客室乗務員の訓練は、国内線の場合、31日間の地上訓練と、実際に定期便に乗務して行う4日間のOJTで構成され、トータル35日間の訓練を実施しています。その中でも訓練カリキュラムの70%近くが、安全と保安に関する業務を身に付けるための内容です。4日間のOJTにおいても、安全と保安に関して100%の力を発揮できなければ訓練を終了することができません。機内サービスやお客さまへの接遇は経験の中で向上する部分もありますが、安全に関する業務だけは最初から完全なものでなければなりません。
機内の安全に関して、2004年に航空法が改正されました。化粧室での喫煙や、禁止されている状況下での電子機器類の使用、あるいは、客室乗務員や運航乗務員の業務を妨害するといった行為に関して、航空法を根拠として毅然とした対応ができるようになりました。法的な根拠があることで、お客さまにご説明したときにも非常にスムーズにご協力いただけるようになりました。

※OJT (on-the-job-training)の略
業務に必要な知識や技術を習得させる研修。職場内訓練。
 
社会広聴会員:
パイロットはどのように訓練していますか。
全日本空輸:
パイロットになるまでには、航空身体検査、適性検査を受けて、国家資格と社内資格を取得しています。また、パイロットとして乗務を開始してからも身体検査、技量検査、路線ごとの検査を定期的にクリアし続けなければ、パイロットであり続けることはできません。資格を取得しても、それをまた保持するためには、半年後、1年後に必ず再訓練・審査が行われます。また、実際の航空機では体験できないあらゆるイレギュラーケースを想定し、それぞれに適切に対処できるようにシミュレーターで定期的に訓練を行っています。
 
 
社会広聴会員:
航空機の整備体制はどうなっていますか。
全日本空輸:
整備には「運航整備」と「定時整備」があります。
運航整備とは、航空機が空港に到着した後、整備士が目で見て、触って、機体に異常が無いかをくまなく確認する整備のことです。
定時整備とは、航空機の飛行時間に応じて実施する整備です。飛行時間375~600時間ごとに行われる「A整備」では、羽田空港に最終便で到着した航空機を翌朝までの間に夜を徹して整備します。また、飛行時間3000~6000時間ごとに行われる「C整備」では、約1週間かけて航空機の多くの部品を取り外し、本格的な整備を行っています。
さらに、4~5 年ごとに行われる「HMV」(Heavy Maintenance Visit)という大掛かりな整備があります。これは約1カ月かけて、航空機の構造的な部分まで点検し、整備するものです。
航空機の整備は、定められた基準でマニュアルに則り、手順・方法ともに厳格に実施しています。不具合箇所を修理するだけではなく、航空機が安全かつ定時に運航できるように、運航ごとに毎回点検し、不具合となりそうな箇所を事前に発見して対策を講じています。
 
社会広聴会員:
多くの企業で業務をアウトソーシングする傾向がありますが、ANAの現状はどうですか。
全日本空輸:
パイロットや客室乗務員はすべてグループ会社もしくは自社の社員として採用しています。客室乗務員は、最初の3年間は1年ごとの契約社員です。契約社員の制度になってからも訓練時間や教育内容は一切変わっていません。いろいろな事象をもとに教育内容をさらに充実させて強化しているのが実態です。3年間の契約社員期間終了後、ほぼ100%の契約社員が正社員への転換を希望する状況にあり、最初から長い期間働いてくれる社員として人材育成を進めています。
整備部門では、格納庫内の業務において一部委託しているものがありますが、グループ会社一体となった“TEAM ANA”としての整備体制を組んでおり、ANAから出向している者がその核となっています。また、整備士は業務に応じてほとんどが国家資格を取得するため、一人ひとりの知識・技術のレベルは非常に高いものがあります。
整備部門に限らず、すべての委託業務の品質について、必ず委託者として責任を持って確認する体制をとっています。
 
社会広聴会員:
環境に対してどのように取り組んでいますか。
全日本空輸:
例えば航空機の中で使っているトイレットペーパーは50%古紙混入です。搭乗口で回収した搭乗券の半券を、機密の保持を兼ねてリサイクルしています。
日本の航空会社は、常に世の中の最先端の航空機を導入しています。最新鋭機と1970年ごろの機材を比較すると、CO発生量は約半分に減り、騒音の影響を与える範囲も少なくなっています。優れた性能の航空機を多く導入することは、航空会社にとって最も直接的に環境問題に貢献できる方法であると考えています。
また、飛行方法を工夫することで、燃費の向上とCOの削減が可能になります。国土交通省航空局の協力のもとで、できるだけ直線的に飛行できる航路の採用や、安全で燃料消費が少ない上昇・下降の飛行方法を研究し、シミュレーターで十分に実証試験した上で実際の飛行方法を変えています。これについては、航空業界においてリーダーシップを取っているという自負を持っています。
さらに、環境経営格付にも参加しています。日本環境経営学会が主宰している日本環境経営格付機構のルールに基づき、企業活動の内容を開示することで、ANAの取り組みに関する長所と短所を示してもらうものです。外部の客観的な視点による指摘を糧にしながら社内にフィードバックをし、より理想を求めて活動を続けています。
 
参加者の感想から
 ●想像をはるかに越えた幾重の安全対策、地道な環境対策、それを一人ひとりの社員が自分自身の業務の理念に合致させ、きちんと遂行しているように感じました。

●今回、機体メンテナンスセンターを見学させていただいて、節電、節水、リサイクルなど、会社全体で環境問題に取り組んでいらっしゃることがよくわかりました。3年間で光熱費を20%も減らすことができたなんて素晴らしい!懇談会では、安全を第一に考えていらっしゃるANAの社長、社員の方々の団結力を感じました。信頼できる素晴らしい会社だと思いました。子どもたちにも見学させたいです。

●低騒音、燃料効率の向上した新鋭機の導入に積極的なことは大いに歓迎されるところですが、機体のメカニズムも複雑・高度になっているので綿密な整備・点検がますます重要になっていると思います。最終的には人間の手に支えられている現場をみて、メンテナンス部門に携わる方々のご苦労を身近に感じ取ることができました。

●「安全には万全がない」と言われていましたが、安全性に対する高い評価に安住せず、気を緩めることなく、今後とも「安全・安心・快適」を維持されることを期待しております。

●トイレを使わせていただいて「風邪に注意」とかうがい用の設備に感心。環境対策、経費節減に人のいない所でのスイッチOFFの貼り紙など、社員と環境を大切にし合う心がけは社風にも通じるものありです。普段見られない整備センターの中まで見学できてとても感激しました。

●航空機事故が起こると、一瞬にして多くの人命が失われます。そのため、パイロット、整備士などが働く現場を見ることで企業風土(社員の醸し出す雰囲気を含めて)を知りたいと思っていました。航空機事故の発生率は地上の自動車事故に比べて、比較にならないほど低く、安全な乗り物だといわれています。今回ANA機体メンテナンスセンターを見学させていただき、莫大な投資と技術で空の安全を守っておられる様子に安心しました。今後とも安全性を第一にした企業風土であることを願っています。

●株主への報告書の中で、業績、企業の方向性、課題など、必要事項がわかりやすくまとめられており好感が持てました。特に環境経営という観点から会社の課題を整理し、より社会とのつながりを大切にしようという企業の姿勢は、大いに評価したいと思います。
お問い合わせ先
(財)経済広報センター 国内広報部
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