企業と生活者懇談会
2004年10月26日 埼玉
出席企業:ヤマト運輸
見学施設:北東京主管支店

「生活に身近な企業を考える」

ヤマト運輸は1976年(昭和51年)、宅配サービス「宅急便」を開始し、その後も独自性や魅力のある宅配サービスを導入してきました。
最近では「郵政民営化」をめぐって、日本郵政公社との事業分野の競合について様々な意見が交わされているのも、記憶に新しいところです。
10月26日、埼玉県戸田市にあるヤマト運輸の「北東京主管支店」で、「企業と生活者懇談会」を実施しました。今回は社会広聴会員19名が参加し、物流の現場を目の当たりにした後、質疑懇談を行いました。ヤマト運輸からは、広報部の白鳥美紀部長、北東京主管支店の神田博副ベース長が出席しました。
ヤマト運輸からの説明
■ヤマト運輸の歩み■
 ヤマト運輸は1919年(大正8年)、日本初の貸切トラック輸送会社としてスタートしました。その後1929年(昭和4年)には、日本初の定期貨物便を東京~横浜間で開始し、関東最大の路線事業会社の地位を誇りました。
 高度成長期以降、他社との競争の激化や、オイルショックによる不況といった逆風の中、日本初の小口貨物特急宅配サービス「宅急便」が誕生しました。現在、「宅急便」はヤマト運輸の収入の8割を占め、年間取扱個数は10億個を超える主力商品となっています。
 ほかにも「スキー宅急便」「クール宅急便」「時間帯お届け」サービスなど、独自性のあるサービスを他社に先がけて開始し、成功を収めています。また、カタログや雑誌などの配送を扱う「クロネコメール便」は、1996年のサービス開始以後、取扱冊数が順調に推移し、宅急便の取扱個数とほぼ肩を並べるまでに成長しています。

■北東京主管支店■
 埼玉県戸田市にある北東京主管支店は、東京都北部で集荷・配達を行う196営業所を管轄するベース(荷物集約ターミナル)として機能しています。延床面積5万5500平方メートル、一日の宅急便取扱個数15万個と、ヤマト運輸の中で最大級のベースのひとつです。
 今回見学したのは、4階建ての作業棟で、ここでは宅急便やクロネコメール便、クール宅急便などの仕分けが行われています。
営業所における夜間の集配や、早朝のトラックによる荷物の送り込みから生じる渋滞や騒音の低減のため、時間帯によるトラックの乗り入れ規制を行ったり、低公害車を積極的に導入するなど、環境への配慮がなされています。
 また、荷物をトラックまで運ぶ際には、金属かごで荷物を保護するなど、「荷物を安全にお届けする」という品質重視の取り組みを行っています。

■「現場が商品を作る」■
 ヤマト運輸の企業風土のひとつに、「現場が商品を作る」という特徴があります。ヤマト運輸の本社には、商品開発やマーケティングを担当する専門部署がありません。現場の生の声を大切にし、それを商品開発に生かしているからです。
 例えば「スキー宅急便」は、ある支店の社員が、大きなスキーセットを抱えて移動に苦労するスキーツアー客を見て商品化したものです。ほかにも、現場の声を生かしたサービスづくりが行われています。
ヤマト運輸への質問と回答
社会広聴会員:
日本郵政公社の民営化にあたり、ヤマト運輸が「民業圧迫」とおっしゃっていますが、その理由を詳しく教えてください。
ヤマト運輸:
日本郵政公社が10月に小包料金の値下げを行ったのですが、小包だけだと「原価割れ」だと思われます。郵便貯金や簡易保険から得た事業収入や、はがきや手紙などの独占事業を値下げせずに得た利益をもとに、小包料金の値下げによる減収分の穴企業と生活者懇談会埋めをしているのではないでしょうか。
また、日本郵政公社がこの10月に新たに始めたサービスは、民間企業が20年以上手がけて成長させたサービスの後追いといえます。既に「民」ででき上がった市場に、「官」がこのような価格設定で乗り込むというのは、「民業圧迫」にほかならないと考えます。
私たちは、競争そのものは問題にしていないのです。しかし、このような不公正な状況における競争のもと、民間の宅配事業が成り立たなくなってしまうと、結局残った側の独占事業となり、最後にはお客さまが不利益を被ることになると考えています。
 
社会広聴会員:
ドライバーの教育方法、方針を教えてください。
ヤマト運輸:
ドライバーは荷物を配達するとともに、個々の荷物について責任を持ってサービスを提供する営業マンと考えています。そういった意味で、彼らを「セールスドライバー」と呼んでおり、教育や育成にも力を入れています。
セールスドライバーは通年採用で、採用後1カ月は業務知識、運転技術、安全第一の精神について、研修を行います。次に、社内専用の運転資格を取得してもらいます。運転技術だけでなく、安全性の確認についても高いレベルが要求され、普通免許に比べはるかに厳しいものとなっています。このほかにも接客研修やOJTなどを随時取り入れています。

※OJT:
on-the-job trainingの略。業務に必要な知識や技術を習得させる研修。職場内訓練。
 
社会広聴会員:
社会貢献事業には取り組んでいるのですか?
ヤマト運輸:
「音楽宅急便」というイベントを20年間続けています。これは、「音楽を通して文化を届ける」という趣旨で、各地方を訪れフルオーケストラによる演奏会を開催するものです。地元のオーケストラに演奏を依頼したり、一般の演奏会ではなかなか入場できない小さな子どもたちも参加できるなど、地域の方々に愛され親しまれるイベントとなっています。
このほか、現場単位で地元の施設を訪れ、子どもたちを対象に「交通安全教室」を開くなど、いろいろな工夫をしながら取り組んでいます。
 
社会広聴会員:
ISO(国際標準化機構)の定める国際規格を、企業や事業所で取得されていますか?
ヤマト運輸:
国際業務に携わる事業所では、ISO規格を取得しています。
資格取得のために何か特別なことをするというよりは、その分お客さまへのサービスに力を入れるように努めています。

※ISO
世界共通の標準規格の策定を目的とする国際機関。具体的な国際標準規格としては、品質管理ルールであるISO9001、環境管理ルールであるISO14001などがある。
 
社会広聴会員:
ヤマト運輸のこれからの課題は何だと考えていますか?
ヤマト運輸:
ヤマト運輸の主な市場は国内ですが、これからは事業のグローバル化を意識しないと、厳しい国際競争社会の中で生き残ることは困難です。国内ネットワークと海外の生産拠点とを結ぶ、そういった事業に取り組んでいく必要があると考えています。
海外に自前で拠点を構えるだけではなく、地元企業との連携、M&Aなどを進めて事業を拡大するといったことも、今後の検討課題です。

※M&A
Merger and acquisitionの略。企業の買収や合併。
出席者の感想から
●新しいサービスがトップダウンではなく、各地域の現場からボトムアップで生まれていることを知り、とても感銘を受けました。常に改善しようとする姿勢が企業を発展させ続けるのだということを、肌で感じることができました。

●運送業の根幹である運転手を単なる人材とせず、セールスドライバーとして教育し、意識改革を図るとともに、現場に権限委譲と責任を持たせたことが、サービス向上の一因だと思います。

●一番心に残ったのは、「現場主義」ということです。現場で働く者には、やっている仕事の現実については、上の者より分かっているという自負があります。それを生かして"働く気"を刺激することが仕事の質の向上につながると思います。

●コンベアーに載った荷物が、まるで自分の行き先が分かっているかのように目的のブースに向かっていくのは、テレビゲームを見ているようで面白かった。

●ヤマト運輸は、ヤマト福祉財団を通じて、障害者の方々の起業支援をしているなど、志の高い企業と思っております。これから厳しさを増す企業環境の中で、サービスに磨きをかけ、勝ち抜いていただきたいと思っております。

●ヤマト運輸の配達時の応対については、常日ごろその良さを感じておりましたが、セールスドライバーとして、生活者の立場に立った行動を指導教育されていることを知り、納得しました。

●現場重視の考え方、それに必要な教育システムなど、「宅急便」をどこよりも早く新商品として開発された企業風土をしのばせるものがあり、感動いたしました。

●郵政との競合問題については、これからの自由経済社会においては避けられないことなので、今までの理念を変えることなく、堂々と戦ってもらいたいと思います。

●贅沢な余分がなく、しかも働く人に対しては十分配慮されている職場に感心。贅沢な品物をなるべく高く売るのが当たり前の世の中で、それとは対極の仕事がここにあったのだと目からうろこが落ちる思いでした。
お問い合わせ先
(財)経済広報センター 国内広報部
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