企業と生活者懇談会
2018年12月17日 滋賀
出席企業:東レ
見学施設:瀬田工場 テキスタイル・機能資材開発センター

「“素材には、社会を変える力がある。”~最先端の次世代ウェア開発を支える『テクノラマGⅢ』~」

12月17日、東レ瀬田工場のテキスタイル・機能資材開発センター(滋賀県大津市)で「企業と生活者懇談会」を開催し、社会広聴会員13名が参加しました。まず、東レとテキスタイル・機能資材開発センターの概要説明を受けた後、同センターの繊維高次加工(紡績、糸加工、テキスタイル、染色・機能加工、縫製)の開発や評価現場、同センターで開発した製品を見て触れることができる展示室をはじめ、地球上のあらゆる気象条件が再現できる人工気象室「テクノラマGⅢ」を見学し、その後、質疑懇談を行いました。
テキスタイル・機能資材開発センターからは、清水敏昭所長、竹田恵司第1開発室長、鈴木英俊第2開発室長、吉光佐織第2開発室主任部員、東レ広報室からは、別所達也広報室広報課長、森田真樹子広報室(大阪駐在)課長が出席しました。

東レからの説明

■東レグループの概要■
 東レは1926年に滋賀県大津市で化学繊維のレーヨン糸製造の創業以来、素材メーカーとして、東レのコア技術である「有機合成化学」「高分子化学」「バイオテクノロジー」「ナノテクノロジー」を発展させながら、新分野・新素材を開拓してきました。現在は創業時の繊維に加えて、樹脂・ケミカル、フィルムをはじめ、電子情報材料、炭素繊維複合材料、医薬・医療、水処理・環境といった様々な分野に事業を展開しています。2017年度は、売上高2兆2049億円、営業利益1565億円、27の国・地域に257社の関係会社を展開しグローバルに事業を拡大してきました。

■推進プロジェクト■
 現在推進している全社プロジェクトとして、グリーンイノベーション事業(GR事業)とライフイノベーション事業(LI事業)があります。GR事業は、「地球環境問題や資源・エネルギー問題の解決に貢献する素材や商品」で、リサイクル繊維や次世代エネルギー、軽量化による燃費向上に寄与する炭素繊維複合材料、有機溶剤を使わない印刷技術、海水淡水化の水処理膜などで、売上高の7123億円を占めています。一方、LI事業は、「医療の質向上、医療現場の負担軽減、健康・長寿に貢献する事業」で、医薬・医療機器だけでなく、高齢者、障がい者、患者の生活の質を向上する製品、病気を予防する製品、介護製品、衛生用品などに使用される素材や商品など、売上高は2119億円にまで拡大してきました。
 また、サステナビリティ(持続可能性)は、21世紀の世界における最重要の共通課題との認識から、東レグループサステナビリティ・ビジョンを策定しました。これは、2050年に向けたビジョンで、「1.気候変動対策を加速させる」「2.持続可能な循環型の資源利用と生産」「3.安全な水・空気を届ける」「4.医療の充実と公衆衛生の普及促進に貢献する」の実現に向け、東レの革新技術・先端材料を通じて、これら4つの柱に基づく取り組みを重点的に進めていきます。

■テキスタイル・機能資材開発センターの概要■
 東レは「技術センター」と呼ばれる組織に、全ての研究・技術開発機能を集約しているのが特徴です。この「分断されていない研究・技術開発組織」に多くの分野の専門家が集まることにより、技術の融合による新技術が生まれやすくなります。また、研究者の自由度を高めるために、研究者には業務時間の20%を自由な研究に充てられる「アングラ研究」を推奨しています。さらに、1つの技術をとことん追求する「極限追求」による基盤技術を深化させようとする姿勢が、東レグループの研究・技術開発のDNAとして受け継がれています。
 テキスタイル・機能資材開発センター(テキ資開センター)は、衣料および産業資材用途の繊維製品全般にわたる高次加工技術開発と商品開発を担当します。繊維高次加工とは、原糸・原綿以降で縫製までの工程を指し、具体的には「紡績、糸加工、テキスタイル(織物、編物、不織布)、染色・機能加工、縫製、評価」の工程です。テキ資開センターはもともと、1981年にテキスタイルビジネスの強化・発展のために「テキスタイル開発センター」として発足しました。当時は衣料用途の開発が中心で、1983年には業界に先駆けて人工気象室「テクノラマGⅢ」を導入しました。2008年に中国の繊維研究所に「テクノラマGⅢ」を設置。その後、衣料用途以外にもロープやネットなどの産業資材分野への技術展開を強化すべく、2011年に現在の「テキスタイル・機能資材開発センター」となりました。2018年6月には「テクノラマGⅢ」が竣工し、高付加価値商品の開発を加速させています。

■繊維高次加工のグローバル開発体制■
 テキ資開センターは繊維高次加工の開発拠点であり、試作設備や評価設備は備えていますが、生産はしていません。国内関係会社7社と海外関係会社14社に生産拠点を置いています。海外では、インドネシア、タイ、マレーシア、イタリア、イギリス、チェコ、中国で展開し、近年メキシコとインドにも進出しました。
 また、テキ資開センターは、繊維高次加工技術に携わる新人を育てる教育機関の役割も担っています。技術者はまずテキ資開センターに配属され、ここで基本的なことを学び、それぞれの海外生産拠点に勤務するため、海外の繊維高次加工の技術者のほぼ100%がテキ資開センター出身です。

見学の様子

■繊維高次加工の開発現場を見学■
 参加者は2グループに分かれて解説を聞きながら見学をしました。繊維高次加工の「紡績」工程では、原料となるポリエステル、ナイロン、アクリルの合成繊維や、ウール、綿などの天然繊維の綿がいくつかの工程を経て、最後には撚りをかけながら糸状に巻き上げていく様子を見学しました。
 次の「織」工程では、水やエアー(空気)で緯糸を飛ばす機械をゆっくり動かしてもらいながら、経糸と緯糸がどのように動いて織物がつくられていくのかを学びました。
 「編」工程では、横編と経編の仕組みについて、まずアニメーションを見ながら、どのようにループがつくられて編物になるのかを理解し、それぞれの編機を見ながら詳細の説明を受けました。さらに、ユニクロ社と東レが共同開発した「ヒートテック」の丸編の生地をつくる丸編機と、その仕組みについても理解を深めることができました。
 生地を染めたり、機能を施す加工をしたりする「染色・機能加工」工程では、生地の染め方や素材によって染める染料、染色の温度や時間の条件が違うことを学びました。
 機能加工には、抗菌加工、消臭加工、防汚加工などがありますが、ここでは、消臭加工をした生地「ムッシュオン」の消臭効果のデモを見学しました。「ムッシュオン」と未加工の生地を並べ、アンモニアが入っている赤い液体(アンモニアがなくなると無色になる)を、それぞれの生地にスポイトで1滴垂らします。すると、「ムッシュオン」は徐々に赤色が消えます。一方、未加工の生地は赤い染みが残ったままでした。この「ムッシュオン」には、洗濯しても落ちにくく耐久性が高い特殊な加工技術と加工薬剤が施されています。
 次に、これまでの工程を経てできた生地の評価をする評価室を見学しました。繊維の表面や断面を電子顕微鏡で見る光学室や、世界中の洗濯機で評価する洗濯室など、ここでは様々な物性評価をしています。

 
■「素材・商品展示室」と「テキスタイルライブラリー・シミュレーション」を見学■
 素材・商品展示室では、これまでテキ資開センターで開発された素材とその素材が採用された最終製品のサンプルを見ながら、実際にサンプルを手に取って見ることができます。
 展示室に隣接している「テキスタイルライブラリー・シミュレーション」では、テキスタイルの設計とサンプルをリンクさせたデータベースによる様々なシミュレーション機能を見学しました。生地外観シミュレーションでは、縫製品にしたときにどのような光沢がでるのか、また、着装シミュレーションでは、体に負担のない圧力の縫製品にするにはどのような設計が良いのかなどを、テキスタイルの物性を入れてシミュレーションすることができます。これらによって、開発の試作期間の短縮化が可能となりました。 

■人工気象室「テクノラマGⅢ」を見学■
 続いて、人工気象室「テクノラマGⅢ」の内部を見学しました。ここには地球上の様々な気象条件をつくり出せる部屋が3室(本室1室、副室2室)あります。本室はマイナス30~60℃まで、湿度は20~80%までコントロールできます。天井に設置された日照ランプで日射ができるほか、ランプの間にあるノズルから雨を降らせ、ゲリラ豪雨も再現できるように設計されています。本室内にある「仮想空間トレッドミル」では、前方の大型モニターで天候や場所を変化させて、実際にそこを歩行・走行しているかのように感じる仮想空間で実験ができます。3室それぞれが独立しているので、全く違う環境を作り出せるため、例えば、冬の時期の「暖かい部屋から外へ移動し、電車に乗る」という環境下で衣服内の湿度変化のデータを分析できます。今回の見学では、26.5℃から32℃の部屋へ移動しました。32℃の部屋に入った瞬間、蒸し暑さを感じ、見学用の防護眼鏡が曇ってしまいました。
 最後に、気象の影響を受けない実験を行う評価設備を見学しました。リュックを背負ったときや、座席シートに座ったときの着心地を測定する着圧測定システムや、レーザー光で人体サイズを計測したデータを3Dグラフィックスでビジュアル化する3次元人体スキャナー、皮膚からの発汗量を測定する「発汗計測システム」、筋肉の活動やどこに負荷が掛かっているかを測定する「筋電計」なども備えられていました。
 このように、テキ資開センターでは、繊維高次加工技術開発のヘッドクオーターとして、高機能テキスタイルや産業資材、環境対応素材などの開発に取り組んでいます。

東レへの質問と回答

社会広聴会員:
素材開発に30年や40年かかっても諦めずに続けられたのは。
東レ:
全ての研究テーマがそういうわけではありませんが、研究テーマについてはある期間で審査があります。「将来必ずものになる」という強い意思を持って研究に取り組み、審査に通ることができれば、長期的な展望を持って粘り強く取り組める土壌があると思います。また、ある用途では芽が出なくても、別の用途では芽が出て花が咲くこともあります。 
 

社会広聴会員:
「アングラ研究(業務時間の20%を好きな研究に充てる)」の成果は会社に帰属するものですか。 
東レ:

成果や特許は会社に帰属します。また、情報漏えいには気を付けており、海外の研究技術部署の情報セキュリティーは日本よりも特に厳しく管理しています。
 

社会広聴会員:
東レの子会社でもデータ改ざんがありましたが、組織としてどのような対応をしていますか。
東レ:
2017年11月に当社の子会社である東レハイブリッドコードで、製品検査データの書き換えが行われたことを公表しました。関係者の皆さまには大変ご迷惑とご心配をお掛けしたことを深くおわび申し上げます。原因調査では、品質測定の機器が古く何度も計測することの煩わしさや、そもそも不具合のデータを書き換えられるシステムであったことが明らかになりました。まず、測定データが書き換えられないシステムに変更し、データを書き換えたとしてもきちんとその記録が残るシステムにしました。また、できる限り測定者の負担が掛からないような新しい測定機器を導入する仕組みを整備するとともに、検査報告書のデータ改ざんはお客さまとの重要な契約に違反する事であるという認識を改めて高めるため、今年(2018年)の2月に、生産本部に属していた品質保証の組織を、独立させて代表取締役副社長を本部長とする品質保証本部をつくり、品質保証体制を強化しました。そして、「正しいことを正しくやる、強い心」を持つため、社内報やイントラネットなどで啓発活動を深め、「正しいことをきっちりやろう」という意識を浸透させ、一度落としてしまった信頼を全社一丸となって回復しようと取り組んでいます。

参加者の感想から

●テキスタイル・機能資材開発センターやテクノラマGⅢでは、私たちが日々快適な生活を送る源を開発されているのかと、感心しきりでした。まさに「素材には、社会を変える力がある。」で、今後のますますの社会変革、期待が高まりました。

●階段昇降時の手すり利用など、至る所に注意喚起を促す表示があり、安全への配慮や意識付けにこだわっていることが感じられ、社員を大切にしている会社であろうと感じました。

●研究開発に力を入れている会社であるということがよく分かりました。今後ともますます社会を変える力のある素材開発をされることを期待します。

●持続的に成長を続けている理由が、納得できました。アングラ研究、研究課題を長い目で育てる気風など研究者、人を大事に生かす経営がされていると感じました。

●アパレル分野では、機能性繊維の競争も激しく、市場の優位性を維持、伸長していくのは困難な状況で、東レの研究開発力に、より高い次元で持続しているのは素晴らしいと思いました。

東レご担当者より

 このたびは瀬田工場テキスタイル・機能資材開発センターのご見学にお越しいただき、誠にありがとうございました。当社は「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」を企業理念に掲げ日々活動をしており、今回のご見学でその活動の一端でも感じ取っていただけていれば幸いです。懇談会で頂きました貴重なご意見は今後の開発活動に活かしてまいりますので、引き続きご支援賜りますようお願い申し上げます。

お問い合わせ先
経済広報センター 国内広報部
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館19階
TEL 03-6741-0021 FAX 03-6741-0022
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