CSR・SDGsと広報

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1.CSRとは

 CSRとは、corporate social responsibilityの略であり、一般的に「企業の社会的責任」を指す。企業が事業活動において利益を追求するだけでなく、組織活動が社会へ与える影響を考え、顧客・株主・従業員・取引先・地域社会などのステークホルダーとの関係を重視しながら果たす社会的責任である。本来、企業活動には利害関係者に対し説明責任があり、信頼を受け持続できる社会を目指すためにも、企業の意思決定を判断する利害関係者側である消費者の社会的責任、市民の社会的責任が必要不可欠である。
 具体的な内容としては、「株主還元」や「コンプライアンス」「ディスクロージャー」「環境問題への取り組み」「ボランティア活動」などが挙げられる。CSRの取り組みは、義務付けされているものではなく、各々の企業により異なる自主的な活動である。企業には、このような社会的責任を果たすことにより、業務プロセス改善によるコスト低減、技術・サービス革新、企業イメージの向上など様々なメリットがある。
 CSRは企業の自発的活動であり、企業行動に際して社会的存在としての企業が、利害関係者から、あるいは社会から自発的に行動するよう求められるのである。

2.国・地域による相違点

 CSRは、持続する社会を目指すために、企業も責任を持つべきという考えのものと、成立した概念であるが、その考え方は、国や地域により違いが見られる。また、企業ケースごとに優先されるべきことに差が生じるものである。

「ヨーロッパ企業の考え方」
 ヨーロッパにおけるCSRとは、社会的な存在としての企業が、企業の存続に必要不可欠な社会の持続的発展に対して必要なコストを払い、未来に対する投資として必要な活動を行うことである。これは、EUが主導的に様々な基準を整備していることや、環境、労働に対する市民の意識が高いこともあり、企業としてCSRに対する取り組みは包括的で、企業活動の根幹として根付いている。
「アメリカ企業の考え方」
 アメリカでは、1990年代の後半から、企業は利益を追求するだけでなく法律の遵守、環境への配慮、コミュニティーへの貢献などが求められ、企業の社会的責任が問われるようになった。2000年代には、企業に対する社会的責任を法律で定めていくというような法的整備・拘束などが進められていくようになった。また同時に、労働者の人権の保護に関しても関心が高まっていった。その背景には、企業活動のグローバル化により、先進国の多国籍企業が発展途上国の労働者を雇うケースが増え、様々な問題の発生に対し、アメリカ政府は企業が起こすこれらの諸問題に対応するため様々な対策を講じていくこととなった。
 また、アメリカ企業においては、企業が株主のものであるとする考え方が徹底されている。一般市民も多い株主への説明責任という観点から、企業のCSRへの理解、認識は歴史的に深い。
「日本企業の考え方」
 日本企業の具体的なCSR活動については、『経済広報』の「企業・団体のCSR活動」([参考記事]参照)に掲載されている通り、様々だ。
 日本企業のCSRへの取り組みは、諸外国に比べて早くから行っていたが、当初、一般に日本企業がCSRに期待するものは、「企業の持続的発展」であり、そのため企業の社会的責任は企業の社会的貢献や企業のイメージの向上を図る諸活動のように考えられ、企業収益を実現した後の活動のみを指すものと誤解されることが多かった。

3.CSRに関する国際的な規格や指針

 企業の社会的責任については、環境問題が盛んに言われるようになった21世紀に入った頃から求められることが多くなってきている。環境はもちろん、労働安全衛生・人権、雇用創出、品質、取引先への配慮など幅広い分野に拡大している。 近年においてCSRに関する関心が高まる中、CSRに関するさまざまな国際的な規格や行動指針などが提案、制定されている。その一部を以下に紹介する。

■グローバル・コンパクト(GC)
 1999年にコフィー・アナン前国連事務総長が、世界経済フォーラム(ダボス会議)で提唱した、世界経済の持続可能な成長を実現するための世界的な枠組み作りに参加する自発的な取り組み。2000年にニューヨークの国連本部で正式に創設された。
 グローバル・コンパクト署名企業は、人権、労働基準、環境、腐敗防止の4分野に関わるCSRの基本原則10項目に賛同する企業トップ自らのコミットメントのもと、社会の良き一員として行動し持続可能な成長を実現するため、その実現に向けて努力を継続している。

グローバル・コンパクトの10原則

 [人   権]
  原則1:人権擁護の支持と尊重
  原則2:人権侵害への非加担
 [労働基準]
  原則3:組合結成と団体交渉権の実効化
  原則4:強制労働の排除
  原則5:児童労働の実効的な排除
  原則6:雇用と職業の差別徹底
 [環   境]
  原則7:環境問題の予防的アプローチ
  原則8:環境に対する責任のイニシアティブ
  原則9:環境にやさしい技術の開発と普及
 [腐敗防止]
  原則10:強要・賄賂等の腐敗防止の取り組み

■GRIガイドライン(Global Reporting Initiative Guideline)
 正式名称は、「サステナビリティレポーティングガイドライン」。事業者が、環境・社会・経済的な発展に向けた方針策定、計画立案、具体的取組等の促進を図るための国際的なガイドラインのことで、オランダに本部を置くNGOでUNEP(国連環境計画)の公認協力機関であるグローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI)が発行している。あらゆる組織が利用できるサステナビリティ報告のための信頼できる確かな枠組みを提供することが、GRIの目的である。GRIガイドラインは、経済面、社会面及び環境面のトリプルボトムラインを骨格としており、組織が報告すべき指標や報告にあたっての原則が定められている。国内外の多くの企業が、CSRレポートや環境報告書を作成する際に参考にする指標として、広く用いられている。現在、従来の環境レポートからGRIガイドラインに基づく持続可能性レポートに切り替えていく企業が増えている。

■ISO26000
 2010年11月1日に、国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)が発行した、すべての組織を対象とする社会的責任(SR)に関する世界初の国際規格。その内容は、社会的責任の7つの原則(説明責任、透明性、倫理的な行動、ステークホルダーの利害の尊重、法の支配の尊重、国際行動規範の尊重、人権の尊重)や社会的責任に関する7つの中核主題(組織統治、人権、労働慣行、環境、公正な事業慣行、消費者課題、コミュニティへの参画及びコミュニティの発展)から構成されている。本規格は、①企業のみならず、すべての種類の組織を対象にしている、②品質管理に関する標準規格のISO9001や、環境マネジメントに関するISO14001などの認証を目的とした他の規格と異なり、ガイダンス文書(手引書)として活用するためにつくられている、③政府、企業、労働、消費者、NGO、その他有識者という6つのカテゴリーから代表が参加し、対等の立場で議論して策定されている、といった特徴を有している。

4.メリットについて

 CSRを推進するに当たって、まずは自社のCSRが何かを定義することが必要である。重要なステークホルダーを特定し、狙いを明確にし、自社にあわせて分かりやすく定義する事が必要である。また企業は、自社を取り巻くステークホルダーを理解しそのステークホルダーの多様化するニーズを正確に把握することが必要である。CSR推進のメリットとして以下の内容が挙げられる。
(1)顧客満足の向上から売上げの向上につながる
 ステークホルダーである「顧客」の満足度向上に向けた取り組みの実施とその取り組みの点検を徹底することで、顧客満足度が向上し、結果売上げの増加につながっていく。
(2)従業員満足の向上で会社が活性化する
 企業にとって従業員というのは大切なステークホルダーである。従業員のニーズを様々な角度で調査し、従業員の満足度が向上すると、愛社精神も高まり、そこから顧客満足や業務改善などの様々な効果につながる。
(3)コンプライアンス体制の強化が信頼を得る基本となる
 不祥事により、社会からの信用を失い、顧客離れ・売上減少となる。更に企業には積極的な情報開示が求められる。ネガティブ情報であっても、迅速に開示することは、社会からの信頼を得る第一歩といえる。
(4)社会の信頼が厚くブランド価値が上がると、株主・投資家からの指示が得られる
 コンプライアンス体制の強化とともに社会貢献活動などの実施などを、積極的に情報開示し、地道にCSR活動を継続することが、株主や投資家からの支持を得ることにつながる。
(5)CSRの推進で企業理念を再確認し、従業員に周知・共有できる
 経営ビジョン、品質方針、スローガンなど様々な方針の一部が風化していたり、第一線で働く従業員に浸透していない企業もあるが、こうした企業にとっては、CSRの推進が多くの方針を体系的に整理するチャンスとなる。
(6)コンプライアンスに対する体制の確立、仕組の再確認によりコンプライアンス違反を防ぐことができる
 コンプライアンスの体制確立により、従業員が社内ルールを遵守し倫理的に行動するよう促す。お客様や従業員、社会からも愛される信頼のある企業になることで、当たり前のことを当たり前にする風土も醸成される。
(7)社内の部門間の縦割りの壁が無くなり、全社一体となる
 多くの企業では、部門間の対立が発生し、全社最適が困難である。CSR推進の際には、部門を横断したプロジェクトの発足により、意見交換が活発にされ部門間の壁が壊れ全社最適が実現できる。
(8)従業員の意識が変われば会社も変わることができる
 経営トップの考えを、分かりやすく繰り返し伝え、部門横断的な全社プロジェクトの発足など、多くの従業員を巻き込んで考えさせる環境を整備することで、従業員の意識は変わる。多くの従業員の意識が変われば会社も変わることができる。
(9)リスク対応を強化することができる
 CSRのテーマ別の取り組みは、個別テーマの強化のみでなく、そこから事前に情報を察知し、重大なリスクの対応漏れを防ぐことにもなる。
(10)ステークホルダーからの高い評価により企業価値が上がり、企業経営が安定する
 CSRの取り組みによりステークホルダーから得た評価は、更なる継続と改善によりその評価レベルは高くなる。
 ステークホルダー、社会から「欠かせない企業」と認められれば、企業経営は安定する。

5.CSRと広報

 企業にとって事業活動を多くのステークホルダーに紹介し、知名度やレピュテーションの向上に努めることは重要な企業責任と考える。社会が直面している課題の解決に積極的に取り組み、社会に貢献し、その結果として企業価値や、企業競争力を高めていくことができる。
 社会が企業に求めるものは、その時代や地域によって変化するものである。従って企業が社会の要請を知るにはステークホルダーとのコミュニケーション抜きでは考えられない。自社の事業領域、企業文化、伝統に合わない要請も数多くあると思うが、それら全ての要請に一つの企業が応えなければならないということはない。自社のCSRの展開の中で、自社の強みを活かせる課題を選択し、取り組むことが重要である。その取り組みに従業員を巻き込んで実践していくことも大きなポイントである。ステークホルダーに自社のCSRを理解してもらおうとするならば、先ずは従業員に理解の徹底を図る必要がある。
 CSR活動とは、CSRを担当する部署が何か特別なことをするのではなく、従業員一人ひとりによる経営理念の実践に他ならない。言い換えれば、社内外のステークホルダーとの対話を通じ、経営理念を実現することこそが、真のCSRである。日本企業の中には、コーポレートコミュニケーション本部にCSR室を設置し、NGOに対し情報発信・質問への回答を行うところもある。経済広報センターが実施している「企業の広報活動に関する意識実態調査」によると、CSRレポートを発行する企業は、2005年調査で31.6%、2008年調査で60.0%と着実に増加している。実際に行っているCSR活動を社会に広く広報することも企業の信頼を高めるために重要なこととなっている。また、CSR活動を促進するためには、CSRの担当者が旗を振るだけでは十分ではなく、従業員一人ひとりが認識を持つことが重要で、そうした意味において、社内広報は極めて重要である。

6.SDGsコミュニケーション

 これまでの社会貢献、CSR、ESGなどとSDGsが大きく異なるのは、2015年の「国連持続可能な開発サミット」で採択され、世界共通の目標となったことである。持続可能な社会を実現するために、国際社会、国連、各国政府・自治体、企業、NPO/NGO、一般市民が取り組むべき17の目標、169のターゲットが具体的に示されていて、それを2030年までに、誰一人取り残さず行うというものである。企業は、それを経営方針の中核に置き、事業を実施し、広報部門が自社がSDGsに基づいた経営をしていることを社会に情報発信することで、ブランド価値、企業価値を高めることになるだけでなく、その企業自体が社会から支持され、持続可能な企業になるという面もある。
 近年はESG投資を支持する機関投資家も増大している。消費行動や採用にも影響する。このため、広報部門は社会に対して、SDGs報告書を発行したりメディア広告、プレスリリース、イベントなどを行ったりしている。社内に対しても社員にSDGs啓発・浸透、自分事化してもらうために、社内報やイントラネットなどで広報を実施している。
 なお、担当する部門は様々で、広報活動が中心の企業では広報部門、従来のCSR活動の延長でCSR担当部門、経営とのかかわりを重視する企業の場合は経営企画部門となっている。
 経済広報センターでは、2020年に月刊『経済広報』で、「サステナブル経営と広報」と題し、各企業の取り組みを連載し、冊子にまとめた。
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